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気づいたら勝手に「LGBT」と呼ばれていた。

世界中がおかしくなる中で。

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「性別」が買えるとしたら、買うだろうか?

もし魔法遣いが「好きな性別にしてあげよう」と言ってきたら、応えるだろうか。男にも女にも、両性にも中性にも無性にもなれる。その対価は安くないが、決して無理のない値段だ。

     *

カリフォルニア州・ロサンゼルスには、Wi SPA という韓国式浴場スパがある。二〇一〇年には、ロサンゼルスの「BEST FAMILY FUN SPA」にも選ばれたほどの人気店だ。

二〇二一年・六月二十四日、事件は起きた。

ある女性が、幼い娘を同伴して Wi SPA を訪れたのだ。

そして女湯に這入はいった。

しかしそこにいたのは、陰茎を勃起させた男性だった。驚いた彼女は、そのことを受付へ報告する。

すると、店員はこう説明した。

「その人は越境性差トランスジェンダーで、心が女性の人でしょう? 我々は、カリフォルニア州法・第五十一条『性別・宗教・人種を問わず、いなかる差別もしてはならない』という文言に則って営業しているだけですよ。」

当然、女性客は激怒した。

「何が越境性差トランスジェンダーですか! ただの男ですよ? 小さい女の子もいるのに、あんなのを女湯に入れるんですか!?」

一連のやり取りは動画に収められ、インスタグラムに投稿され、そして瞬く間に拡散された。

六月二十九日には、ロサンゼルス゠マガジンがこの事件を取り上げる。記事内で Wi SPA は、「州法に基づいたものである」と改めて主張した。「ロサンゼルスは越境性差トランスジェンダーの多い地域であり、彼らの中にもスパを愉しみたい人がいる」。

記事では、別の浴場へのインタビューも行われている。

「オリンピック大通りにあるセンチュリ゠デイ゠アンド゠ナイト゠スパの担当者は、パンデミックによって閉鎖される直前、法律的女性(「運転免許証に全て女性と書かれていた」)が、女性用プールや更衣室で男性器を露出し、生得的女性の客の間で騒動になったことを振り返る。
 『「彼女」は浴室を使わず、プールの隅で足を広げて坐ったり、前を見せる向きでシャワーを浴びたりしていました。お客様は不快になられました。最終的に我々が注意したとき、「男性器を見ることに生得的女性が慣れるべきだ」と「彼女」は言いました。』」(千石試訳)
https://www.lamag.com/citythinkblog/wi-spa-video/?utm_content=buffer046b4&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer

日本の場合、性別を変えるためには性別適合手術が必須だ。しかし、カリフォルニア州の場合、自己申告で自由に性別を変えることができる――完全に男性の身体でも「女性」となれるのだ。

七月三日――激怒した女性たちが Wi SPA の前で抗議デモを行う。

しかし、そこに待ち構えていたのは、黒服の異様な男たちだった。

彼ら――「アンチファ」は、反差別を標榜する過激派である。性的少数者セクシュアルマイノリティへの差別にも激しく反対しているが、非常に乱暴な行動を取ることで知られる。

大勢の黒服の男たちは、抗議に来た女性たちを取り囲むと「越境差別者トランスフォビアは帰れ!」と口々に絶叫した。そして、プラカードを奪い取ってバラバラにし、水を浴びせかけてスケートボードで殴りつけ、騒ぎに駆け付けた男性を殴り倒して地面に転がし、警察がやって来るとゴミ箱に放火するなどの暴挙を次々と行った。

この一連の出来事は動画でも確認できる。

【現場を写した動画の一つ】
https://twitter.com/MrAndyNgo/status/1411936986953256962?s=20

しかし、報道機関の姿勢は異様だった。

ワシントン゠ポストなどは、アンチファの暴挙などなかったかのように振る舞い、抗議に来た女性たちが極右であるかのように報道し、越境性差トランスジェンダーへの差別的な雰囲気が背後にあるという論を展開した。

左派紙の「スレート」は、「発端となった事件は自作自演の可能性があり、警察もそのように疑っている」と根拠不明の報道を行った。これを受け、日本のLGBT団体である「PRIDE JAPAN」も、次のような記事を発している。

『トランス女性のスパ利用をめぐる「ロス暴動」を引き起こした動画は捏造であると警察は見ており、トランス嫌悪者による悪質なデマが引き起こしたヘイトであるとの見方が強まっています』
https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2021/7/14.html

しかし九月二日――事件の発端となった身体男性が警察に起訴されたことを、ニューヨーク゠ポストが報じた。Wi SPA での一件が公然猥褻罪と見なされたのだ。のちに、ロサンゼルス市警察もその事実を認める。

起訴されたのは、ダレン゠メラジャーという五十二歳の身体男性である。メラジャーは本件のみならず、公然猥褻罪で既に二回も有罪判決を受け、性犯罪者登録を受けていた。にも拘わらず、カリフォルニア州では合法的に「女性」だったのだ。

性別自己申告制を採用する国や、性的少数者への差別を禁止する国は増えている。結果、男性の身体を持つ者が女性専用エリアに侵入し、事件となり、抗議した女性が「差別主義者」とみなされる事例が頻発する。

日本も例外ではない。

BARバー GOLDゴールド FINGERフィンガー」は新宿二丁目にある老舗のレズビアンバーだ。いわゆるミックスバーであり、男女を問わず入店できる。ただし、偶数月の第三土曜日だけは女性専用イベントが開催される。

女性だけで酒を呑みたいと願うレズビアンは多い。レズビアンたちは、男性から性的に見られたり、「男の良さを分からせてやる」と乱暴されたりすることが少なくないのだ。殊に、女性専用イベントは GOLD FINGER 始まって以来の伝統である。

二〇一九年四月二十日・土曜日もそうであった。

そんな女性専用イベントに、突然、長髪の白人男性が現れる。

彼――エリン゠マクレディは当時四十五歳だった。身体的にはであるが、アメリカのテキサス州で性別を変更して法律的女性となったのだ。しかし性愛対象は女性であり、日本人女性のパートナーとの間に三人の息子がいる。つまり、客観的に見れば異性愛者である。

その日、イベントでDJを勤める友人に誘われて、彼はバーを訪れたという。しかし、男性にしか見えない――男性でしかない――マクレディは入店を断られた。

激怒したマクレディは、ツイッターで「越境差別トランスフォビアに遭った」と英語でつぶやき、全世界に発信する。これに応える形で、世界中のLGBT活動家や支援者アライたちが GOLD FINGER を攻撃した。

「彼女は女性なのに、女性専用イベントに入れないのはおかしい!」
「差別に抵抗するイベントが他の属性を差別するなど許されない!」
「トランスだからといって女性を暴行すると思うのか!」
「トランス差別を許すな!」
「女性はシス女性だけだと思っているのか!」
「トランス女性は女性です!」

「シス女性」とは、心身の性別が一致している女性のことである。対して、「トランス女性」は、自分のことを女性だと考えているのことだ。

芥川賞作家・李琴峰は次のようにコメントした。

「#Goldfinger の件で『シス女性だけの場が欲しくて何が悪い』と思っている人には是非考えてみてほしい。もし『日本人だけの場が欲しいから、外国人はお断り』『白人だけで親交を深めたいので黒人は排除』と掲げるイベントがあれば、どう思うだろうか?どう考えても差別でしょう?」

当初、GOLD FINGER は次のように表明していた。

「過去の事例と日本での状況を踏まえ、弊イベントにご入場いただけるのはシスジェンダー(生まれも性自認も女性)とさせて頂いております。」

しかし、世界中から批判が殺到した結果、撤回・謝罪する。

「長年行ってきた弊イベントが、今回初めて『シスジェンダーの方のみ』と約2週間の間ホームページに表記していたことは、絶対にあってはならない間違いでした。この表記で傷つけてしまった方をはじめ、多くの皆様に多大なるご迷惑やご不快の念をおかけてしまったことを猛省し、心よりお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。」
https://www.goldfingerparty.com/img/top/hyouki.pdf

私の知人のレズビアンはこう語る。

「GOLD FINGER の件だけじゃないんですよ。レズビアンコミュニティは、女を自称する女装男に今まで壊されてきました。もはやほとんど残ってないんですよ。女装男たちに背乗りされてしまって、女たちが怖がって来ないんです。」

しかし、あと何年もしないうちに、被害を受けるのはレズビアンだけに留まらなくなるだろう。

性的少数者セクシュアルマイノリティへの差別を禁止する法律や、性別自己申告制の採用は、我が国でも提案されている。法案の危険性を知り、問題提起している者の中には、同性愛者や両性愛者の女性が多い。

しかし、そんな彼女たちは、LGBT活動家や支持者アライたちから、「差別主義者レイシスト」「アンチLGBT」「TERFターフ(トランス排除的過激派フェミニスト)」などと罵られている。

これに対する女性当事者の怒りは激しい。

私の知人の両性愛女性は、ツイッター上で次のように言っていた。

「やめて!!女という概念を、数少ない安心できる場所を、女子スポーツを、女性のための賞を乗っ取らないで!!!!!
って言ってんの!!!!!
ポリアモリー妻子持ち男が女を騙りレズビアンコミュニティを破壊し、
妻子持ち経験者の男達が戸籍女性になれるなんて、
『私たち』は聞いていない。断じて。」
https://twitter.com/ikhiro_yummy2/status/1475105652527988739?s=20&t=u_xcpH1zXrASkLqzNZcedQ

「なんでなん…こんなん酷すぎる…。
まともな人達まであれに騙されるの?本当に酷い。
何がフェミニスト団体、何がLGBTIQ+団体だよ。詐欺師どもめ。T団体じゃねーか。
女を表す言葉を、名前を差し出し
女だけの場を差し出し
私たちや女の子達、レズビアンたちの心身まで売り渡して。」
https://twitter.com/ikhiro_yummy2/status/1415195867439456256?s=20&t=u_xcpH1zXrASkLqzNZcedQ

困惑は女性当事者だけではない。

私の知人のゲイは次のように言っていた。

「『LGBT』と呼んでくれなんて、僕、一度も頼んでないですよ。それなのに、何で越境性差トランスジェンダーと一緒にされて、女子トイレや女湯に男が這入るなんて話に巻き込まれてるんですか? はっきり言って、LGBT活動家たちには迷惑ですよ。」

越境性差トランスジェンダーの中にも、このように考える者はいる。

越境性差トランスジェンダーの哲学者・神名龍子氏――身体は男性――は、ツイッター上で次のように発言した。

「私たち性的少数者は、あなたたちLGBTが嫌いです。w」
https://twitter.com/LyukoJinNa/status/1399961258275704832?s=20&t=u_xcpH1zXrASkLqzNZcedQ

現在、日本の性的少数者たちは「LGBT」というゴミを押し付けられている。このゴミは今や日本中のあちこちに不法投棄され、虹色の腐臭を放っている。これに対して怒りを覚える当事者は多いし、声を上げている者も少なくない。しかし、報道機関に取り上げられることはない。

それを告発するためにこのノンフィクションを私は書いた。――

当事者の一人として。
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