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第1章 イリス大陸編

第31話 B級昇格試験

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「はぁ、はぁ。まだ、受付は、間に合いますか」

 日が昇ってすぐに、焦った様子のC級冒険者が現れた。街道を走って受付まで来たようで、息を切らしている。

「受験番号は――」
「316番です!はぁ、はぁ」
「……受験番号316番、タラドス様ですね」

 職員は名簿を確認し、何かを記入した。

「残念ながら、太陽は完全に昇っていますので、遅刻――すなわち失格となります」
「そ、そんな! ほんの1、2分遅れただけでしょう! それに、試験会場を間違えてたんですよ! 間違えて第六試験会場で受付をしようとしちゃったんです!」
「それでも遅刻は遅刻です。お引き取り下さい」

 切実に訴えるC級冒険者に、職員は無慈悲に失格を告げる。

「ふ、ふざけるな……ちょっとぐらい融通利かせたっていいだろ!」
「おい」

 強気に出たC級冒険者と職員の間に、そばで控えていたA級冒険者が割り入った。

「約束の時間すら守れないような奴が、B級になれるわけがないだろう。せめて、最低限のルールくらいは守れるようになってから出直せ」
「ぐぬぬ……」

 C級冒険者はA級冒険者の威圧に委縮し、諦めて帰った。その様子を見ていた他のC級冒険者はざわついた。

「えー、皆さんお静かに。これからB級昇格試験を始めます」

 森の入口の方で、試験官の男が台の上に立ってそう言った。C級冒険者たちは静まり、試験官に傾注する。

「まず一次試験の説明を行います。ここには受験番号301番から359番の受験者が集まっています。残念ながら、既に5人の受験者が遅刻により失格となりました。皆さんも、遅刻には気を付けてくださいね。さて、肝心の試験内容ですが、一次試験は人数が多いのでチーム戦となります。受験番号順に三名ずつチームを組み、この森の中で冒険者証の奪い合いをしてもらいます。受験番号300番以内の受験者も、他の入口からこの森へ入ります。三日後に、自分たちのものを含め冒険者証を6枚以上持っていたチームが一次試験通過となります。自分の冒険者証も、奪った冒険者証も、今そうしているように常に見えるように身に着けてください。試験中は、十数人のビーストテイマーによって聖獣が各チームを見張っています。ビーストテイマー使役の聖獣は首輪をしていますので、間違っても食糧として狩らないように。また、禁止事項は三つあります。

その①:殺し禁止。他の受験者を殺した場合、即座に司法機関に引き渡します。
その②:森から出ないこと。試験時間は三日後の日の出までですので、それまで森から出ないでください。
その③:監視獣に手を出さないこと。先ほども言いましたが、ビーストテイマーが使役する聖獣は首輪を付けています。殺したり怪我をさせたりした場合、損害賠償を請求します。

 以上三つの禁止事項を破った場合は即失格となりますので、気を付けてください。何か質問はありますか?」

 試験官が説明を終えると、何名かのC級冒険者が手を挙げた。

「チームは三人と言ってたが、三人別々に行動したり、他のチームとのチーミングは?」
「構いません。どう動くかは各自で相談してください。ただし、通過条件は三人チームで6枚以上の冒険者証を持っていることですので、それを忘れないでください。他に質問は?」
「冒険者証を取られたり破損した場合、試験終了後に何かペナルティはありますか」
「そこはご安心ください。冒険者としての資格をはく奪するなどといったことはありません。試験終了後にしっかり回収して返却します。紛失したり破損した場合も、こちらで再発行の手続きをします」

 数分後、質疑応答が終了し、受験者がいよいよ森に入ることとなった。

「それでは受験番号301番、302番、303番の方、前へ出てきてください」

 試験官の指示で、三人のC級冒険者が前へ出た。

「あなた方はチーム101番です。試験は今日の正午からスタートですので、それまで森の中で待機していてください。それでは、森の中へどうぞ」

 試験官の指示で、受験者が番号順に呼ばれて次々に森へ入っていく。

「続いて受験番号316番、317番、318番の方~」
「あれ、一人足りないぞ」
「もう一人はどこいった」

 チーム106番が呼び出されたとき、二人しか前に出てこなかったため、受験番号317番と318番は困惑した。受験番号316番とは先ほど遅刻により失格になった受験者である。

「あ~、受験番号316番は遅刻により失格ですね。なので二人で頑張ってください。あ、受験者証6枚の条件は変わらないのでお気をつけて」

 試験官は名簿を確認し、二人の冒険者に無慈悲に告げる。

「おい、俺達だけ二人なんて不公平だろ!」
「そうだそうだ! 人数が足りないなら繰り上げればいいだろ!」
「まあまあ、運も実力のうちです。受験番号とチーム番号は最初から固定ですし、諦めてください」

 急に不公平な事を言われ二人の冒険者は怒り出すが、試験官は気にも留めなかった。
 そもそも、受験者の総人数の関係上、最老番のチームは必然的に二人チームとなる。しかも、この試験は前日の受付順にチームが組まれているので、誰と組むかは運である。三人だろうが二人だろうが一人だろうが、結果は組む相手による影響が大きい。なぜなら、C級は冒険者の等級の中でも最も人数が多く、最も実力差が大きいと言われているからだ。C級までは各ギルドの判断で昇格できるので、C級以上の実力を持つ者もいれば、C級にはとても満たない実力の者もいるのだ。

 次々に受験者たちが森の中へ入っていき、この場に残った受験者は不動颯太ふどうそうたら三人だけとなった。

「次、受験番号355番、356番、357番の方~」
「はいよ」

 この場には受験者は三人いるが、前に出たのは受験番号355番の一人だけであった。

「え? 俺一人? あの二人は?」
「受験番号356番と357番は遅刻により失格ですね。そもそも受験会場にすら来ていないようです」
「ええ!? じゃ、じゃあ、残りの彼らも二人だし、いっそのこと三人でチームを組めば……」
「それはダメです」
「…………」

 これまで二人チームは三組あったが、一人チームは初めてである。だが、それでも試験官は番号通りにチーム決めを進めた。受験番号355番は絶望してとぼとぼと森の中へ入っていった。彼はこの試験で、たった一人で5枚の冒険者証を奪わなければならないのだ。

「最後に受験番号358番、359番の方~」

 そして最老番の二人、不動颯太とエクスプラが前に出た。

「同じチームで良かったね、エクスプラ。よろしく」
「……よろしく」

 エクスプラは小声で返事をする。不動颯太は、二人チームでも知り合いが仲間で良かったと嬉しく思った。

「では、森の中へどうぞ」

 不動颯太とエクスプラは森の中へ入っていった。


【明日から不定期更新となります(作者の都合により執筆時間を確保できないため)】
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