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第1章 イリス大陸編

第14話 王国騎士団

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 ジャンパーは酒を買い、席に着いて飲みながらギルマス代理と会話をしてる。最初は今後の動きや方針について真面目に話をしていたが、数十分後には趣味の話や世間話になっていた。

「わぁ~、そろそろ寝ようかな」

 不動颯太ふどうそうたはあくびをする。夜勤明けのため、そろそろ向かいの宿で休息を取ろうと考えた。
 不動颯太が席を立とうとした矢先、ギルドの入口から鎧を来た十人の騎士たちがぞろぞろと入ってきた。
 騎士たちが身に着けている分厚い装甲の鎧は白を基調とし、精緻な模様が刻まれている。腰に差す剣はどれも一級品。特に、先頭二人のそれは国宝級の代物である。

「今度はなんだ?」
「王国騎士団か? なんでギルドに……」

 ギルドの中は先のジャンパーの登場時よりもさらにざわつく。

「我々は王国騎士団。そして私は騎士団長である。ギルドマスター代理はいるか」

 先頭の騎士が名乗った。不動颯太には彼に見覚えがあった。功刀聖子くぬぎせいこの専属の講師である。不動颯太が城にいた頃は何度か会話もしている。

「おい、あの女って……」
「前の披露会で見たことあるぞ、あの女勇者だ」

 騎士団長のすぐそばで見慣れない女騎士が控えていたため、冒険者の気に留まった。その女騎士とは、功刀聖子であった。不動颯太も彼女の存在に気付いた。だが、騎士団長も功刀聖子も不動颯太の存在にはまだ気付いていない。決まずくなった不動颯太は、見つからないように近くの冒険者の影に隠れた。

「これはこれは、騎士団長様じゃねえか。こんなに大勢で一体何の用だよ」

 騎士団長の前に出てきたギルマス代理は不機嫌そうに答える。

「久しぶりですな代理殿。今日は例のサイク山の件で来たのですよ」

 ギルマス代理と騎士団長は知り合いだが、ギルマス代理が政府嫌いということで一方的に嫌っているのだ。

「まさか王国騎士団が直接出向いて、サイク山の怪物を退治してくださるってか?」
「その通り。物資の輸送にも影響が出ているため、この件は王国も重大な事件と認識しています。そのため、我々王国騎士団の精鋭が調査を任せられたのです」
「それはおありがてえ話だな。んで、ここへ来たのはその報告だけじゃないだろ?」
「もちろん、戦闘の玄人である冒険者の方々にも協力していただきたいのです。我々と共にサイク山の怪物を退治しましょう」
「そうか。依頼ならそこの書類に記入して手続きを――」
「何か勘違いしているようですね」
「なに?」

 ギルマス代理がカウンターの方を指し、依頼の申し込み手順を説明しようとすると騎士団長が遮った。

「これは依頼ではなく、命令です。B級以上3人またはC級以下10人の派遣を命じます」

 騎士団長の部下が書面を開示する。それには、国王からの命令文が綴られていた。

「B級3人って、今動けるやつリーブスとファルコしかいねえぞ」
「それより、C級以下10人ってここにいる奴らほぼ全員じゃねえか」

 王国の無理な命令に対して冒険者たちはざわつく。何より、自分が派遣されるのではないかと不安に思っていた。
 騎士団長が提示する派遣の条件は、現状のギルドの稼働状況を把握した上での命令である。そのため、こんなにもギリギリの人数なのだ。

「冒険者ギルドはどの国にも所属しない連合だ。この王国に拠点があるというだけで、王国の指図は受けない。依頼なら勝手にしろ、引き受けるかどうかは別だがな」

 ギルマス代理は強気で出る。
 冒険者ギルドはイリス大陸全域に点在している。その全ては連合として横の繋がりを持つ。このメイム王国首都のギルドは、拠点をこの土地に置いているだけで、国営の組織ではないのだ。

「冒険者ギルドに命令しているのではありません。メイム王国民に命令しているのです。徴兵の時と同様、拒否はできませんよ」
「くっ……」

 ギルマス代理は尻込みをする。

「さあ、我こそはという方はいらっしゃいませんか」

 騎士団長はめぼしい冒険者がいないか辺りを見渡した。

「白金のプレート……あなたは『半裸のジャンパー』ではありませんか」
「ああ、そうだが」

 ジャンパーの存在に気付いた騎士団長は、彼の二つ名を口にした。「半裸」という名は彼のスキルに由来する。

「この件のご報告、感謝いたします。どうでしょう、もしS級のあなたが同行してくだされば、他の者の同行は免除しましょう」
「断る。俺は冒険者であるが、ここのギルドメンバーでもなければメイム王国民でもない。あんたらの指図を受ける筋合いはない」
「そうですか、仕方ありませんね。ではせめて、あなたのスキルで我々をサイク山まで送ってくださりませんか。一刻も早く調査に取り掛かりたいので。もちろん、お礼は銀貨でお支払いしますよ」
「それも断る。俺のスキル【テレポート】は人間一人くらいなら装備品として一緒にテレポートさせることはできる。だが、装備品の重さに比例して発動のクールタイムが伸びる。あんたらみたいなゴツい甲冑着た騎士を11もテレポートさせてたら日が暮れちまうぜ」

 ジャンパーのスキルは装備品の重量が重いほど発動のクールタイムが長くなる。彼は戦闘時、クールタイムをなるべく短くするため半裸になる。「半裸のジャンパー」と呼ばれるのはそのためだ。真に全力を出す時は全裸になると言われている。そうすればクールタイムは実質無しとなる。

「残念です。では、代理殿。B級以上3人か、C級以下10人の派遣を早急にお願いします」
「……クソ」

 ギルマス代理は逃げ場を失った。
 現在、ギルドに居る冒険者はたむろ組が十数名だけだ。しかもほとんどがC級以下で、B級は風の聖法使いリーブスとファルコの二人のみである。これ以上ギルドの戦力を失いたくないため、ギルマス代理は冒険者の派遣を嫌がっているのだ。

「いいよ、代理。俺が行く」
「じゃあ俺も。ひっく」

 リーブスと酒に酔っているファルコが自ら申し出た。

「お前ら……いいのか、死ぬかもしれねえんだぞ」
「あまり見くびらないでくれ。俺達は仕事しないからB級にかまけてるだけで、そんなに弱くはないさ」
「まあ、暇だし、たまには外回りもいいかなって。ひっく」

 リーブスとファルコは金が無くなったら仕事をするというその日暮らしであったため、気力と体力は有り余っていた。そして久しぶりに頼りにされていることもあって、少しやる気が出てきた。

「これでB級が二人。あと一人、どなたかいらっしゃいませんか。残りはC級三人でもいいですが……おや? そこに居るのはフドー卿ではありませんか!」
「ぎくっ!」

 辺りを見渡す騎士団長と不動颯太は目が合った。見つかってしまった不動颯太は動揺して身を縮めた。このような大ごとに巻き込まれたくなかったことと、気まずさや恥ずかしさがあったからだ。

「ふ、不動君……?」

 功刀聖子も不動颯太の存在に気付き、少し動揺を見せた。

「フドー卿? なんだそりゃ。というか騎士団長、ソータと知り合いだったのか?」
「ええ。それより、フドー卿はここの冒険者となったのですか?」
「ま、まあな。つってもF級のルーキーだが……」
「そうだったのですか。では、こうしましょう。もしフドー卿が一緒に来てくれるなら、派遣の条件はB級二人にしましょう!」
「き、騎士団長! 彼は……!」

 動揺する功刀聖子に騎士団長は目配せをした。
 騎士団長が不動颯太を指名したのは理由があった。戦力として欲しかったわけではない。功刀聖子が不動颯太に好意を寄せていることを知っていたため、その恋心を応援しようと思ったのだ。

「ちょっと待て、さっきも言ったがコイツはF級だぞ。いくらなんでも危険すぎる。何がしたいんだお前は」
「そ、そうですよ騎士団長。危険過ぎます」

 ギルマス代理と功刀聖子は不動颯太の身を案じて反対した。

「大丈夫ですよ。我々王国騎士団がついているのですから。そちらのB級冒険者二名も強者とお見受けします。フドー卿も、よろしいですよね」
「しかし……」

 騎士団長はギルマス代理と功刀聖子の二人を同時に説得した。
 結局、押しに弱い不動颯太は断ることができず、サイク山に向かう冒険者は不動颯太、リーブス、ファルコの三人に決定した。

「じゃ、じゃあ行ってきます」

 十人の騎士と三人の冒険者はギルドを出発する。不動颯太は疲労と眠気が溜まっていたためかなり嫌そうな様子であった。

「ソータ……お前、何者なんだ……?」

 不動颯太の背中を見送りながら、ギルマス代理は呟いた。
 一か月前にこの国に来た者が王国騎士団長と知り合いであり、しかも騎士団長に目をつけられている。その事に対し、ギルマス代理は疑問に思った。

「そういえばギルマス代理、あんたとレンティカも一応はA級冒険者だろ? なんで行かなかったんだ?」

 残った冒険者の一人がギルマス代理に尋ねた。

「そりゃお前、レンティカがいねえと事務処理が進まねえし、ギルドマスター代理の俺がいなくてどうする」
「そんなこと言って、ほんとは現場に出るのが怖いだけじゃないの」
「うるせえな。お前が今飲んでる酒とつまみは俺が用意したもんじゃねえか。もうお前に売ってやんねえ」
「あーうそうそ! そうだよな、マスターがいねえとギルドが成り立たねえよな」

 ギルマス代理と冒険者のやり取りでギルドはささやかな笑いが溢れたが、ギルマス代理は少し心配そうな表情を浮かべていた。
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