ファザー・マーキュリー|15才で孤児院長の奮闘記

サトノハ

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それぞれの才能

魔女の末裔

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 失礼は百も承知だけど、普段のトマスからは思慮深さを感じない。それでも、いつも物事の本質を突いてくる。野生の勘の様なものが備わっているみたいだ。

「トマスって、不思議だよね。何にも考えてないくせに、ちゃんと正しい方向に向かってる」

 サリーが、水浴びではしゃぐみんなを嬉しそうに眺めながら呟いた。

「そうだね」

 同意しかない。

「ねぇ、ユークは、あたしが魔法使える。って、言ったら信じる?」

 突然の告白。流れる沈黙。

 魔女狩り。

 そんな言葉がパッと浮かんだ。

 魔法-現在は失われたとされる、不思議に満ちた現象。人智を超えたその力を扱えた人を魔女と呼んだ。

 古の魔女は、世界を作り替えることも出来たらしい。その強すぎる力に人々は畏怖を抱いた。魔法を行使する魔女は、国で手厚く保護され、その代わりにその力は人々の役に立てられた。
 とりわけ、魔導具という、魔女の魔法を閉じ込めた道具は、人々の生活を豊かにした。

 籠の中の鳥。

 長い時の中で、畏怖を忘れた人々は、その恩恵も忘れ、魔女を揶揄し、嘲笑する。魔女そのものが、便利な道具として扱われるようになっていった。
 しかし、その鳥は、さえずる事しか出来ない小鳥ではなかった。鋭い爪と嘴を隠し持っていた。隠されて研ぎ澄まされたそれらは、現状に耐えかねた1人の魔女にって顕となった。それらは大きなうねりとなり、人々を襲った。

 牙を突き付けられた人々は、畏怖を思い出すこと無く、恐怖し嫌悪した。魔女を徹底的に炙り出し、排除する『魔女狩り』を行った。
 大きな力を持つ魔女たちは抗ったが、その数に絶望的な差があった。徐々に、ジリジリと数を減らし、世界を呪い、人々を呪いながら根絶やしにされたらしい。

 ここまでが、僕の知っている、遠い昔に有った魔女狩りだ。

 なので現在、魔法を使える者はいない。と、されている。

 しかし、目の前の少女は、その魔法を使えるらしい。サリーは、ウソを吐くような性格ではない。それは、いくら付き合いが短い僕でも分かる。

「あなたも、魔法を使える。でしょう?」

 続いたサリーの言葉に、僕の頭は真っ白になった。

「魔法を使ったことは1度も無いよ?」

「だって、精霊に…」

 その言葉に思い当たる節があった。

「その力、大っぴらに使うんじゃないよ」

 師匠の前で、1度だけ精霊の力を借りた直後の師匠の言葉。

 さて、僕は精霊の存在が何となく、朧気ながらだけど分かる。その精霊が、他の場所よりこの家の周りに集まり易いのは感じていた。

 2つの現実が示す存在。

「あなたも、精霊に愛されているじゃない」

 果たして、僕の予感は的中する。

 魔法-現在は失われたとされていた、不思議に満ちた現象。人智を超えた精霊の力を借りられる人を魔女と呼ぶ。

 僕、男だよ?

 え? 魔…………?
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