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それぞれの才能

それぞれの可能性

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 陽射しがきつくなる前に、僕たちは家に戻った。先ずは、何事もなく無事に帰ってきたことにホッとした。

 ゴンズ班の収穫量は圧倒的で、その種類も豊富だった。幼い頃から森を歩き慣れたゴンズにとっては、当たり前の結果だろう。

 その次は、トマス班かと思いきや、意外にもニーナ班の収穫が多かった。パッと見た量的には、トマス班の方が多いけど、食べられる物・・・・・・に限って言えば、ニーナ班の方が多かったのだ。

 トマスだって、森は歩き慣れているはずで、食べられる物だって採取出来そうなものなのに、敢えて・・・、食べられられない木切れや蔓、石や粘土なんかの一見するとガラクタを拾って来ているようだった。

 それは、次の日も、また次の日も続いた。

「ねぇ、トマス。どうして食べ物を採取しないの?」

 サリーも不思議に思っていたのだろう。午後の休息前の水浴びで先頭に立ってはしゃぐトマスに声を掛けた。

 木陰で涼んでいたサリーに近づくと、地べたに腰を下ろしたトマスが、
「だって、山菜や果物はゴンズやお前たちが十分、取ってくるだろ?」
いたずらっぽく目を煌めかせながら言った。

 確かに、26人という大所帯で採取をしているからだろう。喜ばしいことに、その日に食べる分以上の食糧を確保できている。僕は、その余剰分を加工品にして、村人との物々交換で生活に必要な物を手に入れようと画策している。

「だったらオレくらい他のことしたって、大丈夫じゃねぇかなって」

「他のこと?」

「あぁ。オレは、やっぱり、肉が食いたい」

 肉。肉かぁ。

 そうだよなぁ。肉、食べたいよね。

 保存に重きを置いた肉じゃなくて、新鮮な肉を。今ある肉だって、結構大事に食べてくれているから、もうしばらくは持つだろうけど、それだって有限だ。いつかは無くなる。

「どうやって?」

「罠だよ。罠!」
ニヤリと笑って言った。

「罠なんて、作れるの?」

「当たり前じゃんか! オレとゴンズは、おっとぉとガンツさんに鍛えられたんだぜ?」

 トマスはそう言って、水浴びの輪に戻っていった。

 そっか。その為の材料を準備していたんだ。

 僕も、一応、冒険者の旅に付き合っていたから、狩りの経験はある。だけど、罠を使って狩りをすることはなかった。だから、罠を使うという発想すらなかったんだ。

 さっきも言ったけど、僕は、僕が調合した薬や採取物などの現品と生活必需品(肉も含まれる)を、村の人と交換しようと思っていた。

 知らず知らずの内に、僕がみんなを支えなきゃいけないと気負っていたんだ。それは、僕がみんなを下に見ていたということだ。

 だけど、それは、僕が掲げたルールに反する。

 僕は、トマスにガツンと頭を殴られたような気がする。

 トマスは最初に「ルールなんて必要ねぇ」って、言っていた。ルールを聞いた後、特に反対もしなかったのは、それが、トマスにとっては、当たり前のことだったからだろう。

 僕は、みんなのことを見ているつもりだっただけなんだ。

 僕は、みんなの可能性に、もっと目を向けるべきなんだ。

 そして、みんなの仲間に。いつかは、家族に。僕にはまだまだ、出来ることがある。トマスのおかげで、視界が開けた。
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