9 / 20
院長は15歳
悲しい大合唱
しおりを挟む
みんなが寝静まってしばらくたった頃だろうか、僕は泣き声の大合唱で目を覚ました。
この家の子は、みんな、様々な嫌な記憶を抱えている。
睡眠は、とても重要だ。
大人でさえ、しっかりと眠れなければ体力は回復せず、心が摩耗する。ましてや、まだ幼い子たちほど、その影響は顕著に顕れる。
安眠を妨害する要因は、数々あるけど、この子たちのそれは、【恐怖】だろう。そして【恐怖】は、闇と共に這い寄ってくる。
そんなことは、わかりきったことだった。
しかし、美味しい物を食べて、大いに笑えた今夜は、【恐怖】を少しは和らげるだろうと、対処療法でしかないけど、ある一定の効果を見込んでいた。
そんな僕の浅はかな考えなど、簡単に吹き飛ばされてしまうほどに、【恐怖】は、彼らの根深いところまで侵食しているということだ。
ならば、僕がやるべきことは?
決まっている。それでも【恐怖】に抗うことだ。
「ママー!」
「やだ! 来ないで!」
「大丈夫。大丈夫だよ」
幼い子たちが、口々に叫ぶ。サリーを筆頭にドリーやニーナ、年長の女の子たちが、自身にも【恐怖】が巣食っているだろうに、それを懸命に抑え込みながら、幼い子たちをあやしている。
「ここへおいで 光の精霊
大好きな唄をきかせてあげる
楽しいひととき いっしょにあそぼう
夢の世界で いっしょにおどろう
どうかこの子に あんしんを
どうかこの子に やすらぎを
楽しい夢を 楽しい明日を
あたたかい 光で 照らし賜え」
僕が唄い始めると、幻想的な光が漂ってきた。その光は眩しいというより、あったかく僕らを照らしてくれた。
光の精霊は、唄や踊りといった楽しいことが大好きだ。人の笑い声に、純粋な嬉しさや楽しさといった感情に、寄って来る性質がある。
だから、あれだけ楽しい食卓には、少なくない数の精霊が興味を惹かれたはずだ。
僕の目論見は、果たして、外れていなかった。
光は、闇と対極をなす。【恐怖】が闇と一緒に這い寄ってくるのなら、闇を照らしてあげればよい。しかし、火による明かりには、どうしても火の精霊の持つ攻撃性があるので、今の状態の子たちには刺激となって却って逆効果になりかねなかった。だから僕は、光の精霊を頼った。彼らの光は、ただ、温かく、ただ、優しい。
そうこうする内に、劇的な変化が訪れる。
あれだけ泣いていた子たちが、安らかな寝息を立て始めた。
あやしてくれていた子たちも安心からか、次々と夢の世界へ誘われていく。
「ありがとう」
僕も、精霊にお礼を言って、心地よい眠気に身をゆだねるのだった。
この家の子は、みんな、様々な嫌な記憶を抱えている。
睡眠は、とても重要だ。
大人でさえ、しっかりと眠れなければ体力は回復せず、心が摩耗する。ましてや、まだ幼い子たちほど、その影響は顕著に顕れる。
安眠を妨害する要因は、数々あるけど、この子たちのそれは、【恐怖】だろう。そして【恐怖】は、闇と共に這い寄ってくる。
そんなことは、わかりきったことだった。
しかし、美味しい物を食べて、大いに笑えた今夜は、【恐怖】を少しは和らげるだろうと、対処療法でしかないけど、ある一定の効果を見込んでいた。
そんな僕の浅はかな考えなど、簡単に吹き飛ばされてしまうほどに、【恐怖】は、彼らの根深いところまで侵食しているということだ。
ならば、僕がやるべきことは?
決まっている。それでも【恐怖】に抗うことだ。
「ママー!」
「やだ! 来ないで!」
「大丈夫。大丈夫だよ」
幼い子たちが、口々に叫ぶ。サリーを筆頭にドリーやニーナ、年長の女の子たちが、自身にも【恐怖】が巣食っているだろうに、それを懸命に抑え込みながら、幼い子たちをあやしている。
「ここへおいで 光の精霊
大好きな唄をきかせてあげる
楽しいひととき いっしょにあそぼう
夢の世界で いっしょにおどろう
どうかこの子に あんしんを
どうかこの子に やすらぎを
楽しい夢を 楽しい明日を
あたたかい 光で 照らし賜え」
僕が唄い始めると、幻想的な光が漂ってきた。その光は眩しいというより、あったかく僕らを照らしてくれた。
光の精霊は、唄や踊りといった楽しいことが大好きだ。人の笑い声に、純粋な嬉しさや楽しさといった感情に、寄って来る性質がある。
だから、あれだけ楽しい食卓には、少なくない数の精霊が興味を惹かれたはずだ。
僕の目論見は、果たして、外れていなかった。
光は、闇と対極をなす。【恐怖】が闇と一緒に這い寄ってくるのなら、闇を照らしてあげればよい。しかし、火による明かりには、どうしても火の精霊の持つ攻撃性があるので、今の状態の子たちには刺激となって却って逆効果になりかねなかった。だから僕は、光の精霊を頼った。彼らの光は、ただ、温かく、ただ、優しい。
そうこうする内に、劇的な変化が訪れる。
あれだけ泣いていた子たちが、安らかな寝息を立て始めた。
あやしてくれていた子たちも安心からか、次々と夢の世界へ誘われていく。
「ありがとう」
僕も、精霊にお礼を言って、心地よい眠気に身をゆだねるのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
孤児院経営の魔導士
ライカ
ファンタジー
長く続いた人間と魔族との戦争…………
その原因となったきっかけは等の昔に消え、誰もが疲弊していた
そんな時、人間の王と魔族の王はお互いに武器を捨て、和平を結び、戦争に終止符を打った
そして戦争を止める為、助力した一人の魔導士は世界が安定すれば、表舞台から姿を消した
その数年後、ある噂が立った
魔族、人間、種族を問わず、孤児を保護し、安心と安全を約束した孤児院の噂を…………
これはその孤児院を舞台とした物語である
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる