ファザー・マーキュリー|15才で孤児院長の奮闘記

サトノハ

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院長は15歳

悲しい大合唱

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 みんなが寝静まってしばらくたった頃だろうか、僕は泣き声の大合唱で目を覚ました。

 この家の子は、みんな、様々な嫌な記憶を抱えている。

 睡眠は、とても重要だ。

 大人でさえ、しっかりと眠れなければ体力は回復せず、心が摩耗する。ましてや、まだ幼い子たちほど、その影響は顕著に顕れる。

 安眠を妨害する要因は、数々あるけど、この子たちのそれは、【恐怖】だろう。そして【恐怖】は、闇と共に這い寄ってくる。

 そんなことは、わかりきったことだった。

 しかし、美味しい物を食べて、大いに笑えた今夜は、【恐怖】を少しは和らげるだろうと、対処療法でしかないけど、ある一定の効果を見込んでいた。

 そんな僕の浅はかな考えなど、簡単に吹き飛ばされてしまうほどに、【恐怖】は、彼らの根深いところまで侵食しているということだ。

 ならば、僕がやるべきことは?

 決まっている。それでも【恐怖】に抗うことだ。

「ママー!」
「やだ! 来ないで!」

「大丈夫。大丈夫だよ」

 幼い子たちが、口々に叫ぶ。サリーを筆頭にドリーやニーナ、年長の女の子たちが、自身にも【恐怖】が巣食っているだろうに、それを懸命に抑え込みながら、幼い子たちをあやしている。

「ここへおいで 光の精霊

 大好きな唄をきかせてあげる

 楽しいひととき いっしょにあそぼう

 夢の世界で いっしょにおどろう

 どうかこの子に あんしんを

 どうかこの子に やすらぎを

 楽しい夢を 楽しい明日を

 あたたかい 光で 照らし賜え」

 僕が唄い始めると、幻想的な光が漂ってきた。その光は眩しいというより、あったかく僕らを照らしてくれた。

 光の精霊は、唄や踊りといった楽しいことが大好きだ。人の笑い声に、純粋な嬉しさや楽しさといった感情に、寄って来る性質がある。

 だから、あれだけ楽しい食卓には、少なくない数の精霊が興味を惹かれたはずだ。

 僕の目論見は、果たして、外れていなかった。

 光は、闇と対極をなす。【恐怖】が闇と一緒に這い寄ってくるのなら、闇を照らしてあげればよい。しかし、火による明かりには、どうしても火の精霊の持つ攻撃性があるので、今の状態の子たちには刺激となって却って逆効果になりかねなかった。だから僕は、光の精霊を頼った。彼らの光は、ただ、あったかく、ただ、優しい。

 そうこうする内に、劇的な変化が訪れる。

 あれだけ泣いていた子たちが、安らかな寝息を立て始めた。

 あやしてくれていた子たちも安心からか、次々と夢の世界へ誘われていく。

「ありがとう」

 僕も、精霊にお礼を言って、心地よい眠気に身をゆだねるのだった。
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