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本編
43 オープンシーズン 前編 ※
しおりを挟む「さっそく試してみようか」
ランバルトがあっという間にレティレナを横抱きにした。
「え?」
「馬での移動は疲れただろうし、汗を流してしまおう。あの浴室を楽しみにしていたなんて、これは丁度いい」
「ええっ!?」
ぽかんとしたのはレティレナだけではない。
石像のように叔父を凝視しながら固まるフェンメリー、堪えきれずに吹き出すエリク。彼らを置き去りにして、ランバルトは颯爽と歩を進めてしまう。
扉を押さえて会釈をしてみせた執事の姿に、レティレナは既視感を覚えた。初めてこの屋敷を訪れた時も、こうして抱えられながら玄関の扉をくぐった。まるであの夜の再現のように、男女の使用人達が玄関ホールで一斉に頭を下げる。あの時は見知らぬ人々。今はみんな顔見知りだ。
「おめでとうございます、旦那様。レティレナ様」
女中頭の声に、レティレナの頬が熟れたリンゴのように赤くなる。どうやら彼らもレティレナの求婚を、扉の奥からしっかりと聴いていたらしい。聴衆は予想より何倍も多かった。かなり恥ずかしい。
「ありがとう」
蚊の鳴くような声で礼を述べるレティレナに、ランバルトが胸の奥から響く声で笑う。
女中頭に湯の用意を命じると、ランバルトは階段をさっさと上りはじめた。その場に留まるのが恥ずかしいのと、階段は危ないので、レティレナは大人しく首に手を回した。
屋敷の床を踏めたのは、ランバルトが肩で主寝室横の浴室扉を閉めた後。
唐突な二人だけの空間に、どぎまぎしながらランバルトを見上げる。
「いつかの君の願いを叶えよう、レティ。今度こそ一緒に入ろうか」
レティレナがそう願ったのは、誘拐の夜のこと。
今一緒に入れば、あの時とは意味合いの違うものになってしまうだろう。めくるめく熱を思い出し、胸が早鐘を打ち始めた。
「冗談でからかっているのよね……?」
だってまだ、外は明るい。
「こんな親密な場所でふたりきりなのに、それは心外だ」
見上げたのは間違いだったかも知れない。色気のある笑みと、欲望を隠さない灰色の瞳に射貫かれて、腰から砕けてしまいそうだ。
「一人で入れます」
「蛇口の調節も、シャワーの使い方もわからないのに?」
「デイシンダ夫人を呼んでちょうだい」
デイシンダは女中頭の名である。
「きっと今頃、階下の手配で大忙しじゃないかな」
今日のランバルトは随分押しが強い。
「いいわ。それなら二人とも目隠しをしましょう」
レティレナの負けん気だって健在だ。挑戦するような眼差しでランバルトを見返す。
あの夜をやり直すなら、目隠しだって登場させなければ。
「お望みならば喜んで。でも、その乗馬服を脱いでからにしよう。それとも――」
くっつきそうな位置で向かい合ったまま、レティレナの襟ぐりから胸元に向けて、ランバルトの人差し指が羽のようになぞる。布地と、中央に連なり並ぶボタン越しの、微かな感触に震える。
「目隠しのまま、手探りで外すのに挑戦してみようか。うん、とても楽しそうだ」
乗馬服はいつものドレスとは違い、ボタンが前側に並んでいた。上半身部分ならば、紳士の乗馬服の上着と構造が似通っている。
「変態扱いされるから、目隠しなんて嫌だって言ったのに」
以前の彼の言い訳を持ち出すと、ランバルトが面白そうに眉を上げた。
「目隠しだって風呂だって、嫌な筈がない。無事に帰す自信がなかったからそう言っただけで。レティに触れると、服越しだってこうなってしまうから」
ぎゅっと抱きしめられ、熱を持った固まりがお腹に押しつけられる。欲の象徴。その感触に、レティレナの口から熱い溜息が漏れた。同時に、下肢が甘く疼く。
「やっぱり変態だわ」
「愛しているからこうなるんだけど……駄目?」
ランバルトは真っ赤に染まったレティレナの項と、腰を優しく撫でながら、耳元で囁く。
「たまに、あなたをすっごく殴りたくなるの。弄ばれている気がして」
「はっ!? 誰が、誰を弄ぶって」
唐突にがばっと身を起こして、目を合わせたランバルトの慌て具合に、レティレナはちょっとだけ溜飲を下げ、くすくすと笑う。
「でも、私も愛しているから、駄目じゃないわ」
結局目隠しはせずに入ることになった。恥ずかしくて、レティレナは目を瞑ったけれど。
「そろそろ目を開けて」
「うう」
お願いされて、レティレナはしぶしぶ目を開けた。
泡の浮かんだバスタブの中で、ランバルトに後ろから抱えられている。バスタブの縁の代わりに熱い胸に背中をつけ、膝の間に納まり、湯に浸かっている。
泡ととろりとした湯を塗りつけるように、ランバルトの日に焼けた手と腕が、レティレナの白い肌を滑ってゆく。
まだ陽は落ちておらず、西日は明かり取りの窓から降り注ぐ。ほくろの数さえわかってしまうくらい、はっきりと互いの肌が見えた。
扇情的な光景と慈しむような丁寧な扱いに、また目を瞑りたい欲求が増してくる。大きな手がやわやわと乳房を下から揺らす姿なんて、淫ら極まりないではないか。けれど背に腰が逃げると、間に屹立した硬い欲望に、背中とお尻を擦りつけるような形になってしまう。
この手も、欲望も、既に知っているはずなのに。初めての時よりもずっと、恥ずかしさにのぼせる心地がした。
「どこも痛いところはない? ここは。こことか」
「平気……んぅ、だってば。何年馬に乗ってると思っているの」
ランバルトの両手が、丹念にレティレナの内股や臀部の肌と、触れたときの反応を確かめる。長時間の乗馬を心配してのことだとはわかっているのだけれど、腰や内股の際どいところまで指が掠めて、堪ったものじゃない。声を抑えるのに必死だ。ぬるぬるした泡風呂のお蔭で、下肢から溢れる蜜には気付かれていないのが、唯一の救いかもしれない。
レティレナの身体も心も、交わることの快感と幸福を覚えている。婚約してから口づけられたり、抱きしめられるだけで、下肢に潤いを感じてしまうことがあったくらい。身体は言葉よりずっと、心に正直だ。
だから、今なんてきっと酷い有り様だろう。
「レティ」
片手がレティレナの頬に触れて、背後へと誘導する。
振り向くと、柔らかで熱い唇が押しつけられる。久しぶりの人目をはばからない口付けに、レティレナも身体を捻って喜んで応えた。
「本当に大丈夫だね」
「平気よ。しつこいわ」
互いに口付けを休み、蕩けた瞳で見つめ合いながら、また確認された。
少しだけ目を眇めると、ランバルトも目を眇めた。
「初めての時のように手加減できそうにないんだ。きっと、酷くしてしまう。だから」
「あっ……」
湯の下で腰に回されていたランバルトの片手が、レティレナの下肢の中心に触れる。同時に口付けを再開され、嬌声ごと飲み込まれてしまった。それでも漏れる声はときおり浴室に反響して、更にレティレナの身体を熱くする。優しく花芽と花唇の辺りを捏ねられているだけなのに、昇りつめてしまいそうだ。
「ちゃんと確認しておかないと」
「んっ、んぅっ…ん……」
花唇を広げるようにしながら、指は浅く出し入れを始めた。舌は口内を我が物顔で暴れ回り、レティレナにくぐもった声を上げさせる。
上と下を翻弄され、甘い痺れと嵐の予感に、レティレナは背筋を震わせた。
すっかり浴室で蕩かされたレティレナは、ランバルトに抱きかかえられて寝室まで運ばれた。
主寝室のベッドに下ろされながら、夢見心地で微笑む。
「ふふっ」
「なにかな」
ランバルトが、シーツの上で素肌を晒すレティレナの耳や顔、胸元やお腹、至る所に口付けを落としながら問いかける。
「だって、想像以上に快適なんですもの。お手伝いを頼まなくてもお湯を使えて、ドアを一つ跨ぐだけで、ふかふかのベッドに辿り着けるなんて」
「しかも君は一歩も歩かなくていい」
「そこも大きな利点ね」
ランバルトが唇に触れるだけの優しい口付けをくれる。衣擦れの音と共に感じるシーツのさらさらとした感触が、のぼせそうだった身体に心地良い。
「ふふっ、癖になりそう」
「願ったりだよ。この浴室も寝室も、君のものだ。ついでに俺も」
「ついでじゃなくて、欲しいのはランバルトなの。大好きよ」
ランバルトの頬に両手を伸ばし、引き寄せる。お返しの口付けを贈った。
「――っやっぱり君は妖精姫だ」
「どうして?」
余裕のない表情で真上から被さるように凝視されて、レティレナが囁く。
「もしかしたら一生言葉では『好き』と、言ってくれないかと思っていたんだ。それでも気持ちは変わらなかっただろう。けれど、こんな風に素直な言葉で振り回される日が来るなんて」
「あんまり言わない方が良い?」
「いいや言って欲しい。たくさん口にして、俺を振り回してくれ。愛している」
硬いランバルトの雄が、レティレナの下肢の中心に触れる。
襞はすっかり快感を求めてひくつき、蜜の潤いをランバルトに伝え、訴える。
「あっ」
「挿れるよ」
内腿を撫でていたランバルトの手が、いとも簡単に太腿を左右に大きく割開く。開かれた秘筒の入り口は、擦りつけられた先走りを零す屹立の先端に、物欲しそうに吸い付いている。
かつて痛みと共に得た、愛する人に余すことなく満たされる感覚を、レティレナの心と身体が求めていた。
「お願い、はやく」
「またそんな可愛いことをっ」
煽られたランバルトはいよいよ理性の手綱を手放し、レティレナの細腰を掴むと、容赦なくその剛直を沈めた。
「んんっ、あぁーー……っ」
「くっ……締まる。こんなに絡みついて……」
ランバルトが腰を揺らす。数度ゆっくりと抜き挿しを繰り返しただけで、雄芯はぴったりと収まった。
「あつくて……んぅ、おっきいっ」
初めての時のような痛みは感じず、ただただ圧迫感と熱さに翻弄される。レティレナは長い金糸の髪が乱れるのも気にせず、首を振って熱を逃そうとした。くねる肌の上で柔らかな乳房がふるりと揺れる。
ぐぅとランバルトが喉の奥で唸るような声をあげ、更に剛直が膣内で一回り大きくなった。
「レティ、レティレナ」
硬く立ち上がるレティレナの胸の先端にむしゃぶりつき、そのままランバルトは抽挿をはじめる。
「ふぅ、ぁあ、あっあんっ」
結合部からはいやらしい水音が響き、耳朶からレティレナを犯す。快楽と熱を溜め込んで、雄を受け止める襞は蠕動し、奥を突かれる度に蜜を吐き出した。
「あ……っ、あぁっ……、すごい。きもち…んっ、いいの……。ランバルトォ……好き」
最奥を何度も小突かれて、広げながら開拓されるような感覚に、レティレナの意識が頂へと駆け上る。一度知ってしまった頂点を極める法悦を、身体は容易く捉まえてみせた。
「っ……! レティレナ……好きだっ」
絶頂を迎え、搾り取るように肉筒に絡みつく秘肉に応えるように、ランバルトはがむしゃらに腰を振り、長大な凶器で蹂躙を繰り返す。さらにもう一度と、レティレナを追い込むように。
互いに愛を伝えながらの好意に、ランバルトも射精感を覚えたようだ。雄芯が、レティレナの中で弾けようと体積を増す。
「あ……、だめ、抜いちゃ……」
これは本能なのだろうか。
逃がしたくなくて、ランバルトの腰に絡めた震える脚に、必死に力を込める。
「はは……もちろん、ちゃんと君の中に注ぐさっ……んっ」
身体を起こしたランバルトがレティレナの腰を両手で持ち、艶然と笑う。
初めての夜は、子を授かってはいけないと外に放ってくれた。レティレナも、今なら男女の営みについて理解している。ランバルトから放たれる快楽の証は子種だ。
あの時だって満たされたのに、幸せだったのに、何かが足りなかった。
全てを受け止めたい。
心も身体も全てランバルトで満たして欲しい。ランバルトをレティレナで満たしてしまいたい。
これからはそれが叶う。二人で叶えられる。
「あああっ……」
深く、体重をかけて剛直を押し込み、最奥でランバルトが爆ぜた。
身体の奥に何度も吐き出される熱を感じて、レティレナの視界がもう一度白く染まった。
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