13 / 21
本編
13 幻の怪獣さん出現です②
しおりを挟む促され車外に出ると、そこは市街からは大分離れた郊外の平野だった。
ここは予防線の外ではありませんか!?
『予防線』は、怪獣の被害を出来るだけ人類と建造物の範囲から逸らす為に、科学の粋を集めて開発された。
電線のようなものが範囲内を区切るように張られているだけで、実際には何も空には無いけれど、構造としては素敵トランポリン装置だ。予防線の範囲内にはとりあえず怪獣は出現しない。範囲内に出現しそうになると、ボヨンとトランポリンで跳ねて、外周に落ちる感じ。
そうして怪獣は町から離れた開けたポイントに出現するので、ここは出現率の高い場所だと思います。
危ないので私は連れて来てもらったことは無いけれど、弟はここで怪獣さんを倒した事があるのかもしれません。きっと父や母に祖父、――そして緋路さんも。
数台止まっている車両のうちの一台、トラックから檻が降ろされる。
指示を受けて動く部下たちは皆スキーマスクを付けている。すっごい妖しい強盗団って感じです。白衣にスキーマスクの一層怪しい男が設置の指示を出している。
これが全部ヒーローだとしたら、おじいちゃん協会って大丈夫なの!? 残念過ぎて私は泣きたい。
「……あの檻って、まさか」
かなり頑丈そうだけど、高さは百五十センチ程度。入ったら立てないから辛そう。いえ、入らないですから!
「あの中に君と怪獣の誘導装置を入れて、検証実験を行うんだよ。その辺に転がしておいてももったいないし、君を利用してついでに実験をしようかと思ってね。まだまだデータが足らないんだ。なに、あの檻の中で大人しくしていればすぐに終わるさ。呼び出すのは小型サイズの怪獣だから、発現警報にも引っかからない。
我々がすぐに仕留めて終りだ」
『誘導装置、検証実験』
仮面の男の言葉で思い出すのは、ショッピングモールのトラ怪獣さん。
「――まさかショッピングモールに誘導装置を置いたのですか? あんなに人がたくさんいる場所へ」
自分でも吃驚するくらい固い声が出た。
「ああ、あれはかなりの大成功だった。ただ第一線のヒーローが多数駆け付けてしまったので、注目されすぎてしまったがね。困ったものだよ」
仮面の男が肩をすくめると、こちらへやって来た白衣の男が話を引き継ぐ。
「大成功。あれが」
一歩間違えば死者の出るような大惨事で、沢山の人の命が危険にさらされたのに? 対処するヒーロー達は決して無傷では済まないのに?
「誘導装置の導入は必須事項だ。人間が怪獣をコントロール出来るなんて素晴らしいだろう? 多数決で過半数を獲得したのに、総帥権限で却下するなんて横暴だと思わないか。草薙総帥は、今や歳のせいで正常な判断も出来ない老害だよ」
「人質を取って脅すのは横暴ではないとでも?」
研究者風の白衣の男を睨みつける。
「より効率的で安全な仕事場を望むのは、我々の当然の権利だ。総帥が引退すれば装置の導入を進めて、これこそが正しく必要な行いだったと皆気づくさ。目の前に便利なものがあるのに使わないなんて、現代人として間違っていると思わないかい?」
道理が通じない仮面の男に、嫌悪感が募っていく。
「あなたは誘拐拉致監禁の罪で捕まるんですから、総帥就任も装置導入も無理でしょう」
男の口角が上がる。仮面でほとんどの表情が見えない中、強調される口元は、サーカスのピエロを思い出す。
「捕まらないよ? 君は人質じゃない。総帥にも何処にも連絡なんてしていないんだ。急な失踪の方がダメージは大きいからね。
十年前に娘婿を亡くし、五年前に妻を亡くした。そして今度は孫娘が行方不明。流石に伝説と謳われた草薙菱義でも、心が折れて引退すると思わないか?」
ぶちっと、何かが切れた気がした。私の中の怒りが恐怖や嫌悪を凌駕する。
目の前が一瞬暗くなる。
――深呼吸! ……落ち着け!
まずは自分の体調と所持品を素早くチェック。体調は首の後ろが少し痛いけれど、他は異常なし。鞄と携帯はもちろんない。
周りには仮面の男と白衣の男、そしてスキーマスクの男達。全部で十人くらいだろうか。
場所は平野、おあつらえ向き。
最初から私を帰す気なんてなかった。
思い通りにならないから暴力に訴えて何とかしようなんて、そんなの私は認めません。
そっちがその気なら、私だって本気の力技を見せてあげましょう!
――私は突然歌い始めた。
男達はギョッとしているけれど、特に止めようとはしない。
歌は何でもいいのだけれど気分の問題で、双子の姉妹が蝶々怪獣を呼ぶときの歌にしてみました。雰囲気って大事ですよね!
十年以上鼻歌すら口ずさんでいなかったので、めちゃくちゃだけど。
歌詞の一番を歌い切った所で、周囲に変化が現れる。
一キロ前方の空間に波紋が浮かび、圧縮された空気がはじける感覚。青白い光が弾け、唐突に巨大な影が落ちる。
かくして、やって来たのは幻のパンダ怪獣さんですっ!
その特徴的な白黒模様と頭に聳える三本の竹の子に似た角は間違いない。お肉は極上らしいけど、獰猛なのでも有名な大怪獣。
見てるっ超こっち見てる! 目もとの黒い縁取りで分かりづらいけど、熱視線を感じます。
そりゃそうですよね。歌って呼んだの、私ですから。
草薙円奈、伊達に獣に好かれておりません!
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる