弟がヒーローになりました

アルカ

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本編

13 幻の怪獣さん出現です②

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 促され車外に出ると、そこは市街からは大分離れた郊外の平野だった。

 ここは予防線の外ではありませんか!?

 『予防線』は、怪獣の被害を出来るだけ人類と建造物の範囲から逸らす為に、科学の粋を集めて開発された。
 電線のようなものが範囲内を区切るように張られているだけで、実際には何も空には無いけれど、構造としては素敵トランポリン装置だ。予防線の範囲内にはとりあえず怪獣は出現しない。範囲内に出現しそうになると、ボヨンとトランポリンで跳ねて、外周に落ちる感じ。
 そうして怪獣は町から離れた開けたポイントに出現するので、ここは出現率の高い場所だと思います。
 危ないので私は連れて来てもらったことは無いけれど、弟はここで怪獣さんを倒した事があるのかもしれません。きっと父や母に祖父、――そして緋路さんも。

 数台止まっている車両のうちの一台、トラックから檻が降ろされる。
 指示を受けて動く部下たちは皆スキーマスクを付けている。すっごい妖しい強盗団って感じです。白衣にスキーマスクの一層怪しい男が設置の指示を出している。
 これが全部ヒーローだとしたら、おじいちゃん協会って大丈夫なの!? 残念過ぎて私は泣きたい。

「……あの檻って、まさか」
 かなり頑丈そうだけど、高さは百五十センチ程度。入ったら立てないから辛そう。いえ、入らないですから!

「あの中に君と怪獣の誘導装置を入れて、検証実験を行うんだよ。その辺に転がしておいてももったいないし、君を利用してついでに実験をしようかと思ってね。まだまだデータが足らないんだ。なに、あの檻の中で大人しくしていればすぐに終わるさ。呼び出すのは小型サイズの怪獣だから、発現警報にも引っかからない。
 我々がすぐに仕留めて終りだ」

『誘導装置、検証実験』
 仮面の男の言葉で思い出すのは、ショッピングモールのトラ怪獣さん。

「――まさかショッピングモールに誘導装置を置いたのですか? あんなに人がたくさんいる場所へ」
 自分でも吃驚するくらい固い声が出た。

「ああ、あれはかなりの大成功だった。ただ第一線のヒーローが多数駆け付けてしまったので、注目されすぎてしまったがね。困ったものだよ」
 仮面の男が肩をすくめると、こちらへやって来た白衣の男が話を引き継ぐ。

「大成功。あれが」
 一歩間違えば死者の出るような大惨事で、沢山の人の命が危険にさらされたのに? 対処するヒーロー達は決して無傷では済まないのに?

「誘導装置の導入は必須事項だ。人間が怪獣をコントロール出来るなんて素晴らしいだろう? 多数決で過半数を獲得したのに、総帥権限で却下するなんて横暴だと思わないか。草薙総帥は、今や歳のせいで正常な判断も出来ない老害だよ」

「人質を取って脅すのは横暴ではないとでも?」
 研究者風の白衣の男を睨みつける。

「より効率的で安全な仕事場を望むのは、我々の当然の権利だ。総帥が引退すれば装置の導入を進めて、これこそが正しく必要な行いだったと皆気づくさ。目の前に便利なものがあるのに使わないなんて、現代人として間違っていると思わないかい?」
 道理が通じない仮面の男に、嫌悪感が募っていく。

「あなたは誘拐拉致監禁の罪で捕まるんですから、総帥就任も装置導入も無理でしょう」
 男の口角が上がる。仮面でほとんどの表情が見えない中、強調される口元は、サーカスのピエロを思い出す。

「捕まらないよ? 君は人質じゃない。総帥にも何処にも連絡なんてしていないんだ。急な失踪の方がダメージは大きいからね。
 十年前に娘婿を亡くし、五年前に妻を亡くした。そして今度は孫娘が行方不明。流石に伝説と謳われた草薙菱義でも、心が折れて引退すると思わないか?」

 ぶちっと、何かが切れた気がした。私の中の怒りが恐怖や嫌悪を凌駕する。
 目の前が一瞬暗くなる。


 ――深呼吸! ……落ち着け!
 まずは自分の体調と所持品を素早くチェック。体調は首の後ろが少し痛いけれど、他は異常なし。鞄と携帯はもちろんない。
 周りには仮面の男と白衣の男、そしてスキーマスクの男達。全部で十人くらいだろうか。

 場所は平野、おあつらえ向き。

 最初から私を帰す気なんてなかった。
 思い通りにならないから暴力に訴えて何とかしようなんて、そんなの私は認めません。
 そっちがその気なら、私だって本気の力技を見せてあげましょう!






 ――私は突然歌い始めた。


 男達はギョッとしているけれど、特に止めようとはしない。
 歌は何でもいいのだけれど気分の問題で、双子の姉妹が蝶々怪獣を呼ぶときの歌にしてみました。雰囲気って大事ですよね!
 十年以上鼻歌すら口ずさんでいなかったので、めちゃくちゃだけど。

 歌詞の一番を歌い切った所で、周囲に変化が現れる。

 一キロ前方の空間に波紋が浮かび、圧縮された空気がはじける感覚。青白い光が弾け、唐突に巨大な影が落ちる。



 かくして、やって来たのは幻のパンダ怪獣さんですっ!


 その特徴的な白黒模様と頭に聳える三本の竹の子に似た角は間違いない。お肉は極上らしいけど、獰猛なのでも有名な大怪獣。
 見てるっ超こっち見てる! 目もとの黒い縁取りで分かりづらいけど、熱視線を感じます。

 そりゃそうですよね。歌って呼んだ・・・の、私ですから。


 草薙円奈、伊達に獣に好かれておりません!
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