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本編
6 怪獣マフィンは自信作です①
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今日は家庭科の調理実習です。
既に材料とレシピは用意されているので、まぜて焼くだけ簡単マフィンの出来上がり。
アレンジやトッピングは各自持ち寄りなので、私は丁度乾燥させて保存していた植物系怪獣アーモンドヒドラさんの爪を用意しました!
砕いて加熱すると、アーモンドの様な風味でとっても美味だ。流通では高級食材として扱われているのだけど、砕いてしまえばアーモンドにしか見えない。オッケーです!
ちなみに非常に残念なことに、ヒドラさんにお肉はない。植物系怪獣さんなので本体は幹なのです。燃やすと青い炎を出しながら良い炭が出来るそうです。
窓際二班の子達のオーブンから青い炎が上がったのは、何かのマジックだと思いたい。まさかヒドラさんの本体部分ではないですよね……。
私達の班は希未、陽菜そして私の三人と、男子は南君と島田君で五人。
極度の料理音痴もいないので滞りなく進む。各自持ち寄ったトッピングもバナナやドライフルーツ、チョコチップ、抹茶など代表的な食材だ。あえて言うなら私のヒドラさんが一番ゲテモノ……いえいえ高級食材ですからっ。余り物ですけどそれは内緒。
他の班の様子を見ると、マシュマロやもち、ウズラの卵など闇鍋と化した食材の班もある。うん、魚の粕漬けは良くないと思います。試食する先生も命がけですね。
私ももうちょっと奇をてらった怪獣さんを用意するべきだったかな。でも彼氏にプレゼント予定の陽菜に殺されます。
特に失敗する事も無く、私達の班は順当に一人五個の分配を終えた。
提出に行ったら先生が泣いて喜んでくれました。提出物体(あえてこう呼びます)には何故か科学実験の様な色合いになってしまった物もあった。ああ、やっぱり二班のマフィンにはアーモンドヒドラさんの本体が刺さっております。紛う事なき炭入りマフィン。備長炭入りとかのクッキーが存在するのだから、これもあり……なのかな。
陽菜からラッピングバッグを分けてもらい包装する。
「円は誰かにあげる予定?」
希未が既に三個目を咀嚼しながら聞いてくる。ここにも胃袋ブラックホールがいらっしゃいました……。その目は私の取り分を狙ってますね!? 希未から身を挺してマフィンをかばうと、舌打ちが聞こえた気がするんですけど。
「家族とお世話になっている人と、そしてもちろん家庭菜園の君です!」
「か、家庭菜園の……君?」
南君が何故かつまりながら聞き返してきた。
「うん! いつも下校途中にお野菜をくれる優しいお兄さん」
「その時間って、社会人は仕事じゃねーの?」
島田君も何故だか家庭菜園の君に興味津々。
「本職は知らないけど、今の家に引っ越してからはほぼ毎日会ってるかも」
おかげで殆ど野菜は買っていません。大助かりです!
「今時小学生でも物に釣られないってのに、野菜で釣れる女子高生!」
「ふははっ。チョロすぎ」
希未と陽菜はたまに意地悪だっ。
「そんなことないもん! 我が家の彩りがどれだけ助かっているかっ。バランスの良い食事は大事!」
「うん、言いたいのはそこじゃあないんだけどねー」
「残念な美少女って、こういう時に使うんだねー」
希未と陽菜の言葉に、何故か南君と島田君が頷いている。ひとりぼっちでちょっと寂しいのですが……。
・・・・・・・・・・・
昼休み、屋上階段の柱の陰にこっそりと先輩を呼び出しマフィンと胃薬をお渡しする。先輩は我が高校のヒーロー、とにかく目立つのでいつもは携帯でのやり取りが主。先輩に憧れるお嬢さん達に無駄な心配を与えてもいけないですから! こんな私でも、周囲にいると不安になるお嬢さんも居るらしく、何度か関係性を聞かれました。
なので柱の陰から押し付けます。
「え、俺にだけですか? ……総帥へのプレゼントを預かるのではなく?」
「もちろんです! いつも祖父と弟共々お世話になっておりますという、感謝の気持ちのプレゼントです。ささ、素早く懐へ!」
祖父にはあげませんとも。この間お米をプレゼントして貰った時、袋の中に新しい携帯が入ってました。いらないって言ったのに。母が回収して返送してたけど、あれ以来母はちょっぴりピリピリしている。この間のイカ怪獣さんのお肉も、切り身が大きくて疑っていたくらいです。
私と弟は今、母からの雷が落ちるかどうかの瀬戸際に立たされています。
新生活始まってほんのふた月でばれるなんて事になったら、情けなさすぎますよね……。
石崎先輩はマフィンを持ったまま固まっている。早く仕舞ってくださいってば!
「横に添えられた胃薬の存在に逆に胃痛が……」
「ああ、だってそちらがメインのプレゼントですから。胃薬はいつも祖父からの伝言をお願いしている心労を鑑みた結果です。ヒドラマフィンはおまけですよ?」
食べ物と一緒に渡すのは、やっぱりまずかったでしょうか。
「……心労は円奈さんと龍弥君が、もう少し総帥に優しくしてくれれば減るかと。……ヒドラマフィンって、まさかこれ怪獣料理ですか?」
「怪獣料理ですよ。アーモンドヒドラさんの爪は美味ですっ」
祖父に優しく~の部分は華麗にスルーします。
石崎先輩にはお世話になっておりますし、多めにサービスです! 頑張れヒーロー!
「円奈さん、調理実習で怪獣料理はスタンダードじゃありませんよ……。いや俺は喜んで食べますけど、円奈さん家の食卓怪獣率は一般家庭とはかけ離れていますから」
何故か真剣な顔で諭された。
違うのかあ。じゃあもしかしてこれ、あげちゃいけない系プレゼント?
食わず嫌いって良くないと思うんですけど。
既に材料とレシピは用意されているので、まぜて焼くだけ簡単マフィンの出来上がり。
アレンジやトッピングは各自持ち寄りなので、私は丁度乾燥させて保存していた植物系怪獣アーモンドヒドラさんの爪を用意しました!
砕いて加熱すると、アーモンドの様な風味でとっても美味だ。流通では高級食材として扱われているのだけど、砕いてしまえばアーモンドにしか見えない。オッケーです!
ちなみに非常に残念なことに、ヒドラさんにお肉はない。植物系怪獣さんなので本体は幹なのです。燃やすと青い炎を出しながら良い炭が出来るそうです。
窓際二班の子達のオーブンから青い炎が上がったのは、何かのマジックだと思いたい。まさかヒドラさんの本体部分ではないですよね……。
私達の班は希未、陽菜そして私の三人と、男子は南君と島田君で五人。
極度の料理音痴もいないので滞りなく進む。各自持ち寄ったトッピングもバナナやドライフルーツ、チョコチップ、抹茶など代表的な食材だ。あえて言うなら私のヒドラさんが一番ゲテモノ……いえいえ高級食材ですからっ。余り物ですけどそれは内緒。
他の班の様子を見ると、マシュマロやもち、ウズラの卵など闇鍋と化した食材の班もある。うん、魚の粕漬けは良くないと思います。試食する先生も命がけですね。
私ももうちょっと奇をてらった怪獣さんを用意するべきだったかな。でも彼氏にプレゼント予定の陽菜に殺されます。
特に失敗する事も無く、私達の班は順当に一人五個の分配を終えた。
提出に行ったら先生が泣いて喜んでくれました。提出物体(あえてこう呼びます)には何故か科学実験の様な色合いになってしまった物もあった。ああ、やっぱり二班のマフィンにはアーモンドヒドラさんの本体が刺さっております。紛う事なき炭入りマフィン。備長炭入りとかのクッキーが存在するのだから、これもあり……なのかな。
陽菜からラッピングバッグを分けてもらい包装する。
「円は誰かにあげる予定?」
希未が既に三個目を咀嚼しながら聞いてくる。ここにも胃袋ブラックホールがいらっしゃいました……。その目は私の取り分を狙ってますね!? 希未から身を挺してマフィンをかばうと、舌打ちが聞こえた気がするんですけど。
「家族とお世話になっている人と、そしてもちろん家庭菜園の君です!」
「か、家庭菜園の……君?」
南君が何故かつまりながら聞き返してきた。
「うん! いつも下校途中にお野菜をくれる優しいお兄さん」
「その時間って、社会人は仕事じゃねーの?」
島田君も何故だか家庭菜園の君に興味津々。
「本職は知らないけど、今の家に引っ越してからはほぼ毎日会ってるかも」
おかげで殆ど野菜は買っていません。大助かりです!
「今時小学生でも物に釣られないってのに、野菜で釣れる女子高生!」
「ふははっ。チョロすぎ」
希未と陽菜はたまに意地悪だっ。
「そんなことないもん! 我が家の彩りがどれだけ助かっているかっ。バランスの良い食事は大事!」
「うん、言いたいのはそこじゃあないんだけどねー」
「残念な美少女って、こういう時に使うんだねー」
希未と陽菜の言葉に、何故か南君と島田君が頷いている。ひとりぼっちでちょっと寂しいのですが……。
・・・・・・・・・・・
昼休み、屋上階段の柱の陰にこっそりと先輩を呼び出しマフィンと胃薬をお渡しする。先輩は我が高校のヒーロー、とにかく目立つのでいつもは携帯でのやり取りが主。先輩に憧れるお嬢さん達に無駄な心配を与えてもいけないですから! こんな私でも、周囲にいると不安になるお嬢さんも居るらしく、何度か関係性を聞かれました。
なので柱の陰から押し付けます。
「え、俺にだけですか? ……総帥へのプレゼントを預かるのではなく?」
「もちろんです! いつも祖父と弟共々お世話になっておりますという、感謝の気持ちのプレゼントです。ささ、素早く懐へ!」
祖父にはあげませんとも。この間お米をプレゼントして貰った時、袋の中に新しい携帯が入ってました。いらないって言ったのに。母が回収して返送してたけど、あれ以来母はちょっぴりピリピリしている。この間のイカ怪獣さんのお肉も、切り身が大きくて疑っていたくらいです。
私と弟は今、母からの雷が落ちるかどうかの瀬戸際に立たされています。
新生活始まってほんのふた月でばれるなんて事になったら、情けなさすぎますよね……。
石崎先輩はマフィンを持ったまま固まっている。早く仕舞ってくださいってば!
「横に添えられた胃薬の存在に逆に胃痛が……」
「ああ、だってそちらがメインのプレゼントですから。胃薬はいつも祖父からの伝言をお願いしている心労を鑑みた結果です。ヒドラマフィンはおまけですよ?」
食べ物と一緒に渡すのは、やっぱりまずかったでしょうか。
「……心労は円奈さんと龍弥君が、もう少し総帥に優しくしてくれれば減るかと。……ヒドラマフィンって、まさかこれ怪獣料理ですか?」
「怪獣料理ですよ。アーモンドヒドラさんの爪は美味ですっ」
祖父に優しく~の部分は華麗にスルーします。
石崎先輩にはお世話になっておりますし、多めにサービスです! 頑張れヒーロー!
「円奈さん、調理実習で怪獣料理はスタンダードじゃありませんよ……。いや俺は喜んで食べますけど、円奈さん家の食卓怪獣率は一般家庭とはかけ離れていますから」
何故か真剣な顔で諭された。
違うのかあ。じゃあもしかしてこれ、あげちゃいけない系プレゼント?
食わず嫌いって良くないと思うんですけど。
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