弟がヒーローになりました

アルカ

文字の大きさ
上 下
5 / 21
本編

5 これが姉の通常運転(龍弥視点)

しおりを挟む
 俺の姉ちゃんは変だ。

 学校の成績は悪くないし顔だって可愛いと思う。一人にするとよくナンパに捕まるし、学校の連中は姉ちゃんに会うとみんなデレデレする。
 でも補って余りあるくらいに変だ。

「ただいまー」
「お帰りなさ~い!」
 玄関で声をかけると、台所から声が返ってくる。
 いつもは玄関まで迎えに来てくれるのに(主に肉を)今日は出てくる気配はない。

 台所を覗くと案の定というか何というか大変な事になっていた。
「……姉ちゃん、何してんの?」

「見てわかるでしょ? イカ怪獣さんと絶賛格闘中です!」
 姉は何故かイカの足に絡みつかれていた。

「一方的に負けてるよ!? ほとんど巻きつかれてるじゃんかっ」
 慌てて姉からイカ怪獣の足を引き剥がす。足一本が三メートル近くある。
 見た目は大王イカと大差ない。違うのは奴が地上を十本の足を駆使して歩行出来ることと、姉ちゃん好みの美味い肉ってとこだ。

「ふう。おかしいなぁ……、足一本だけなのに何故巻きついてくるのかな?
 トカゲのしっぽと同じ原理かねぇ?」
 などと言って、呑気に首を傾げている。

 いや、今結構危なかったと思うんだけど。ここは俺が叱るべきなの?

「このイカ怪獣どうしたんだよ」
 まあ大体想像はついているけど、一応聞いてみる。

「石崎先輩が届けてくれたんだよ、おじいちゃんからだって」

 ――じいちゃんは今出張中だ。沖縄でヒトデ怪獣の掃討作戦を決行している。
 沿岸部のイカ怪獣の討伐は剣十さんの担当だった。
 最近俺が無視ばっかりしてるから、じいちゃんが剣十さんを通じて姉ちゃんと連絡を取っているのは知っていた。だからじいちゃんの指示ってことも可能性としては、ある。

 でもきっと違うよなぁ……。
 何で自分からだって言わないんだろ、剣十さん。姉ちゃん鈍いから、察したりとかする機能付いてないんだけど。

「今度はもっと細かくしてくれる様に、剣十さんに頼んでおく」
 まさかイカの足一本渡したら、それに絡みつかれるなんて面白現象は想像してないだろう。
 俺とじいちゃんは知ってるけど。クラゲ怪獣の肉がバケツに一杯あれば、姉ちゃんは溺れられるんだ。
 姉ちゃんに怪獣の肉を渡す時は安全なサイズに! これ、我が家の暗黙のルールだ。

 姉ちゃんは獣系に異常に好かれる。
 怪獣の足にも絡みつかれてたが、猫や犬も寄ってくる。動物園とかは見やすくて良い。
 この辺りに引っ越してきた当初は、地域の動物達の姉ちゃんもうでが凄かった。一通り確認の御参りが終わって今は落ち着いている。毎日訪ねてくる信心深い(?)タヌキとかも居るけど。

「ちょっと遅くなっちゃったけど、家庭菜園の君から貰ったジャガイモが沢山あるから、今日はイカとジャガイモの煮物だよ!」
「ジャガイモ、袋一杯あるな……」
「うん! 新じゃが一緒に収穫したから」

 十七歳にもなってジャガイモ一袋でその笑顔……。
 いつの間に一緒に収穫なんてしてたんだ。

『家庭菜園の君』ってあだ名のセンスはどうかと思うけど、姉ちゃんはそいつに結構懐いている。一度は顔を拝んでおきたいと思うのに、俺が行くといつもタイミングが合わない。
 ほんとに居るのかそんな奴って感じだが、畑はあるし野菜は美味い。
 でもはっきり言ってかなり胡散臭い。

 姉ちゃんは食べ物にとことん弱い。
 怪獣の肉も、野菜も、調味料だって喜んで受け取る。タダより高い物はないってことわざ、姉ちゃんの辞書には載ってないんだろう。載ってても修正液で消しそうだ。

「姉ちゃん、何かおかしいと思ったら自分で対処しないですぐ俺に連絡だ」
 イカ怪獣のせいでネバネバしてる姉の肩に手を置いて真剣に言ってみる。
 怪獣よりも身近な危険から姉を守らねばと思う、今日この頃だ。


 ・・・・・・・・・・


 父さんが死んでから、俺たちは家族で支え合って生きてきた。
 俺が父さんと同じヒーローを目指すと決めた時、母さんはまだ早いと反対した。たとえどれだけ反対されようとも、俺は目指すことをやめるつもりはなかった。
 出て行く母さんに付いて行かない、そんな決断をしようと思うくらいに追い詰められていた。
 でも父さんに教わったヒーローの条件を思い出させてくれたのは、姉ちゃんだった。

 頑丈であること。 
 必殺技を持つこと。 
 守りたいものがあること。

 条件が大雑把なのはまあ、俺と姉ちゃんの父親だから仕方ない。
 前の二つは身も蓋も無いそのまんまだ。怪獣なんて人間離れした体力と必殺技を持っていないと倒せない。
 ちなみに俺は稲妻が出る。自分でもよく分からんが、稲妻が出るんだ。細かい事に拘ったりするとやっていけないから考えない様にしている。父さんは火が出たんだよなぁ。

『守りたいものがあること』
 俺は母さんと姉ちゃんを守りたいからヒーローになる。
 本当はたくさんの人を救う為とか、そんな大きなことを言えればいいのかもしれないけど、はっきり言って実感がわかない。俺にとっては身近にいる大事な人を守ることが目的だ。
 離れるんじゃ意味が無かった。父さんの分まで守るって決めたんだ。
 たとえ母さんに秘密を作ったって、傍に居て二人を守る方がずっといい。

「離れるか秘密を作るか、どちらも罪悪感を感じるなら家族一緒にいたほうが楽しいでしょ?」
 いつだって簡単に言う。勝手に追い詰められてた俺を救ったなんて思ってない。それが俺の姉ちゃんだ。

 恥ずかしいから絶対に本人に言うつもりはないけど。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結済】病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。

夜乃トバリ
恋愛
 シシュリカ・レーンには姉がいる。儚げで美しい姉――病弱で、家族に愛される姉、使用人に慕われる聖女のような姉がいる――。    優しい優しいエウリカは、私が家族に可愛がられそうになるとすぐに体調を崩す。  今までは、気のせいだと思っていた。あんな場面を見るまでは……。      ※他の作品と書き方が違います※  『メリヌの結末』と言う、おまけの話(補足)を追加しました。この後、当日中に『レウリオ』を投稿予定です。一時的に完結から外れますが、本日中に完結設定に戻します。

【完結】犬神さまの子を産むには~犬神さまの子を産むことになった私。旦那様はもふもふ甘々の寂しがり屋でした~

四片霞彩
キャラ文芸
長年付き合っていた彼氏に振られて人生どん底の華蓮。土砂降りの中、びしょ濡れの華蓮に傘を差し出してくれたのは犬神の春雷だった。 あやかしの中でも嫌われ者として爪弾きにされている犬神。その中でも春雷はとある罪を犯したことで、他の犬神たちからも恐れられていた。 華蓮を屋敷に連れ帰った春雷は、風邪を引かないように暖を取らせるが、その時に身体が交じり合ったことで、華蓮は身籠もってしまう。 犬神の春雷を恐れ、早く子供を産んで元の世界に帰りたいと願う華蓮だったが、春雷の不器用な優しさに触れたことで、次第に惹かれるようになる。 しかし犬神と結ばれた人間は「犬神憑き」となり、不幸せになると言われているため、子供が産まれた後、春雷は華蓮の記憶を消して、元の世界に帰そうとする。 華蓮と春雷、それぞれが選んだ結末とはーー。 人生どん底な人間×訳あって周囲と距離を置く犬神 身ごもりから始まる和風恋愛ファンタジー。 ※ノベマにも投稿しています。こちらは加筆修正版になります。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー

ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
T-4ブルーインパルスとして生を受けた#725は専任整備士の青井翼に恋をした。彼の手の温もりが好き、その手が私に愛を教えてくれた。その手の温もりが私を人にした。 機械にだって心がある。引退を迎えて初めて知る青井への想い。 #725が引退した理由は作者の勝手な想像であり、退役後の扱いも全てフィクションです。 その後の二人で整備員を束ねている坂東三佐は、鏡野ゆう様の「今日も青空、イルカ日和」に出ておられます。お名前お借りしました。ご許可いただきありがとうございました。 ※小説化になろうにも投稿しております。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

処理中です...