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番外編
かわいい人(ルーラと旦那様) ※
しおりを挟むルーラと夫が結婚して二年が経った。
「さあ旦那様、挿れさせてあげましょうね」
ルーラ・グレンドールはベッドに仰向けになる夫の上に乗り上げると、おっとりと微笑んだ。愛する夫の顔を見つめながら、雄々しく立ち上がる肉棒に手を添え、蜜を湛える膣口まで導く。
「あっ……ううっ……」
夫はその端正な相貌を怒りと恥辱に染め上げながらも目先の快楽には勝てず、視線でルーラを促し、動かすことの出来ない腰を必死に持ち上げようとしている。
何度も射精を我慢させられた肉棒は限界まで張り詰め、先端を刺激したなら途端に暴発を起こしそうなほど。けれどそれは決して弾けたりはしないのだ。
ルーラの手に、魔女の誓約の鈴がある限り。
「ん。ああ……素敵。熱くて溶けてしまいそう」
「うぐっ! ……っ」
愛する夫だけの形を覚えたルーラの胎内は、難なく肉棒を受け入れ、身体の一番深いところで夫の分身を抱きしめる。
馴染んだ身体同士が繋がる快感に、夫がびくり、びくりと陸に上がった魚のように跳ねる。通常ならば精を吐きだすほどの快感が、走り抜けているのだろう。
「あんっ。うふふ、まぁだ駄目、ですわ。私を満足させてくださっていないのですもの」
「う、ううううっ~~」
遂に涙を零し始めた夫の姿を眺めながら、ルーラは騎乗位で腰を動かし始めた。その動きにぎこちなさなど微塵も感じられない。
二人には既に幼な子があり、この行為とて数え切れないほど重ねているのだから。
ルーラが常にネックレスに通し所持し、今は片手に絡めて持つ鈴が、寝室に軽やかに鳴りわたる。
極彩色に彩られた甘美なる快楽地獄はまだ終わらない。
「ねえ、旦那様? 妹御のドレスなど引っ張り出して、お一人で何をしてらしたのかしら」
「……っ、ちがうんだルーラ! あれは……誤解だ!」
ルーラが父王との謁見を終えて屋敷に戻ると、夫は既に手の届かない存在になった実の妹のドレスに己を擦りつけ、精を放っていたのだ。その様子を見つけた時のルーラの感情は、一言では表現出来ないものだった。
屈辱、嫉妬、情けなさ、苛立ち……そしてほんの少しの滑稽さと、激しい興奮。
――ちりん。
言葉の戻った夫を黙らせるため、ルーラが鈴をつまみあげて鳴らす。途端に彼は喉を詰まらせたように、黙る。
「旦那様の子種は全部、ルーラのここに注がなければなりません。愛人などもってのほか」
ここ、と言いながら、ルーラは夫の肉棒が収まる自らの下腹部をゆっくりと撫でる。内に収まる硬さにうっとりと溜息を吐いた。
「うーっ……ううー!」
必死の形相で首を振る夫の頬を、ルーラが撫でる。
「ええ、ええ。勿論、他の女に種を下したわけではありませんものね。わかっております。でも、私のここ以外には出してもいけません。――ベルティーユ様の遺品は全て捨てましょう。……ね?」
夫は歯をぐっと食いしばり、肯首しない。
失踪し、亡くなったとして彼女は処理されているのに。取り戻すことはもう永遠に叶わないのだから、それは死んだと同義なのに。この国どころか、大地ごと滅ぼすことだって出来る魔女に睨まれて、誓約まで結んだのに。
まだ己の希望はいつか叶えられると信じている。
ルーラのかわいい人はつくづく、傲慢で往生際が悪い。
彼の声には呪いがかかっている。
そう魔女に教えられた時、ルーラは得心がいった。
彼女は一国の王女である。そうあるべき、として育てられた。多少甘やかされてはいても、国の益を蔑ろにするなんて愚かな真似、培われた思考回路は是認しない。
それなのに、婚約した頃夫に言われるがまま、彼女は愚かな捜索に手を貸してしまった。
――ああ本当に、あの時の私は愚かでした。
常の彼女ならば、グレンドールに恭順を示しながら手紙を握りつぶすくらい、ばれずにやってみせたのに。
でも今は大丈夫。彼の呪われた声はルーラの管理下だ。
もう他の女達を引き寄せはしない。崇拝する若者たちを招いたりはしない。後ろ盾になろうとする老人たちなんて、どこかに散って行った。
どこまでも澄んだ秋空のような青さに、どろりとした欲と傲慢を映したグレンドールの瞳は、彼女だけのもの。
そう。ルーラが恋に落ちたのはこの瞳。
王女の身ではそもそも青年貴族と頻繁に会話をする機会なんて無かった。他の女達のように、呪いにかかった始まりではないのだ。彼女の恋はきっと本物。
ルーラが愛しているのは、彼の本質を如実に映すこの瞳。人を見下し、侮り、自らを追い詰める彼自身。
だから、ルーラは他の人々のように失望して離れたりなんてしない。今は幸福を噛みしめながら、ゆっくりゆっくり夫を管理し、懐柔を続けている最中だ。
夫に向かって艶然と笑いかけると、ルーラは腰を動かすことを再開した。淫らな水音をたてて、激しく腰を上下させる。
ぐちぐちと最奥に肉棒の先端が届くたびに、夫のくびれを意識して締めつける。
射精を禁止された肉棒は、先走りだけをだらだらと滲ませ、ルーラの膣内でずっと震え続けていた。
「捨てましょう。全部、きれいに。いずれあの部屋も子供部屋になるのです。私はたくさん旦那様の子を産むつもりですもの。ねえ。そろそろ出したいのでしょう?」
「うっううっ……」
ルーラの愛する夫は、憎らしそうに彼女を睨みながらも、欲に負けて頷いた。
「ふふっ素直な方ね。ではいつもどおり、上手におねだりしてくださる?」
淫蕩に緩みはじめた夫の青い瞳の眦をぞろりと舐めあげ、一つ解除の鈴を打つ。
夫が放つ為には、ルーラが決めたおねだりの言葉を、彼はプライドを捨てて口にする必要があるのだ。
「だ、出したい。ルーラを奥まで突いて、ぐっ……孕ませたいっ」
「よく出来ました。さあ、存分に動いて、私を孕ませてくださいな?」
ルーラがもう一度鈴を振った。
身体の自由を取り戻した夫は、繋がったままがばっと上半身を起こし、ベッドの足側にルーラを押し倒した。そのまま、彼女の両足を肩に担いで身体を二つ折りにすると、直上から突き下ろすような律動を始めた。パンパンと小気味よい音を響かせ、結合部が打ちあう。尻が浮くほどルーラを折り曲げているので、交わりがよく見える。顔に似合わぬグロテスクな夫の肉棒を、ルーラのそこは嬉しそうに咀嚼し震えている。彼女のつま先は揺さぶられるまま、夫の肩の先でゆらゆらと揺れた。
「ぐっ。ああくそっ! こんな、こんなはずじゃなかったんだ!」
「あんっ、ああ、きゃっ。ふふっ……んぅっ!」
ルーラはおしゃべりな夫の口を唇で塞いで、力強い注挿と、やがて放たれる熱い飛沫を存分に味わった。
夫は本当に気付いていないのだろうか。
ルーラが寝室で鈴を鳴らすと、物欲しそうな表情を浮かべる自分に。淫蕩に耽るとき、射精を抑えてルーラが管理してやる方が、濃くて長い法悦に浸っている事実に。閨では決してルーラの口づけを拒まず、与えられると必死で貪りつづけることに。
最初の頃は鈴を奪おうとしたこともあったのに。今ではすっかり諦めて。
きっと気づいていても、認めはしないのだろう。
ルーラの夫は、とても臆病でかわいい人だから。
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