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シャーロット

蜜月だから仕方ない 4

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 朝、目覚めたシャーロットはぼんやりと考えた。

(これが、蜜月……。アリア叔母様は、あの華奢な身体でこれを乗り越えたのよね)

 シャーロットが剣聖の元で修行している三年の間に、二人も子供を授かっていた叔母アリアのことを思う。

 現在は三人目を懐妊中のため婚礼では会えなかったが、夫でありディアドーレの第二王子であるルーグレイから直接、アリア直筆の祝いの手紙を受け取った。
 早くアリアと子供たちの元へ帰りたいと急かす悪魔ルーグレイを十分に焦らし、大作の返礼の手紙を書きあげたのは、ついこの間のことである。
 それなのに、何だか懐かしく感じてしまう。

 婚姻からの毎日(主に毎晩)が、濃密すぎるからだ。

 船上で出会ったマリーの言葉は間違ってはいなかった。
 これは確かに、普通の体力のご令嬢では元気に朝食の席に顔なんて出せないだろう。
 まあ、シャーロットは普通の令嬢では無いので、ちょっと身体は強ばるものの、基本的に元気だ。翌日に引きずる不調なんてない。

 むしろ自分よりも年上のウィルフリッドの体力が心配になる。

(私がぐーぐー眠ってる間にも、色々と動いているみたいだし)

 そっと寝返りを打ち、背中からシャーロットを抱きしめていたウィルフリッドの寝顔を眺める。目元にはほんの少し疲れが見て取れた。

 彼が陰で何をしているかは、詳しくは知らない。あえて調べないことにしている。
 それでも、シャーロットだって王女として、他の耳を持っているのだ。身の回りの動きには気を配っている。
 厄介な火種になりそうなあれこれが、いつの間にか立ち消え姿を消すのは、一度や二度ではない。

 先日領地から戻ったというシラント伯爵の長男は、どうなっただろうか。
 ある意味シャーロットとウィルフリッドを結び付けてくれたキューピッドなのだが、伯爵には見限られてしまっているらしい。彼の性格が変わっていないのなら、きっと――。

 そこまで思考して、この先を想像することはやめた。
 目の前の、愛する男のこと以外を考えるなんて、馬鹿げている。


 シャーロットが剣聖として、国の礎になると誓っても。国王と貴族たちの前で、生涯リースデンを一歩も出ないと了承しても。伯爵家三男を伴侶とすることに、反対意見がなかった訳ではない。愛する者とは別に、然るべき身分の配偶者を選ぶのが王族の務めだと。
 五年前のシャーロットならば、反発しつつも王女として受け入れただろう。

 あの船での出来事がなければ、こんなことにはならなかったのだ。
 仄かな恋心にも気付かず、蓋をして、務めを果たす笑みを浮かべていられた。

 けれどもう無理だ。
 きっかけはあの夜。ウィルフリッド以外にこんな真似は出来ないと、気付いてしまったから。修行中も母国に戻ってからも、手元から決して離さず。あまつさえ本人の意思をあえて聞かずに、強引に伴侶として縛り付けた。
 さぞや恨まれるかと覚悟していたのに――。
 優しいウィルフリッドは、閨の中で愛を返してくれる。リースデンには無い風習である蜜月にまで、律儀に付き合って。
 忠義と呼ぶには激しすぎると思うのは、シャーロットの勘違いだろうか?
 毎晩合わせる肌から伝わる、劣情だけではない何かを、信じても良いだろうか。

「ねえ。あなたが私を捕まえていると言うのなら、後ろからじゃなくて、ちゃんと前から、真っすぐに抱きしめて。――愛しているわ、私のウィルフリッド」

 蜜月が終わって、何気ない瞬間に愛を囁いても、ウィルフリッドは返してくれるだろうか。

 明るい日の光の下でも。
 死の床につく間際でも。

 眠るウィルフリッドの胸元にすりりと頬を寄せ、シャーロットは甘い二度寝を楽しむことにした。






 おしまい

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