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シャーロット
蜜月だから仕方ない 2
しおりを挟む真夜中の寝室は、その夜再びとなる淫靡な空気に包まれていた。
「あ、だめ……! またひとりでいっちゃうっ」
「大丈夫、そのまま気持ちよくなっててください。ここも、好きでしょう」
びくびくと陸に打ち上げられた魚のように跳ねるシャーロットの身体をベッドで組み敷きながら、ウィルフリッドは中を穿っている二本の指をぐるりと回して、入口を広げるように刺激する。きゅうっと指を締め付ける力が強まり、中はもっと奥へと引き込むように蠕動を始めた。
自分ばかりが攻められることに反発して、ウィルフリッドの肉茎を扱こうとしていた筈のシャーロットの手は、すっかり意識を逸らされて、緩く添えられるだけになっている。ウィルフリッドは密かに口角をあげた。
閨で主導権を譲ったのは、五年前のあの夜だけだ。
「ああ、ああ……いっ……んうっぅ!」
「ん」
そのまま熱を閉じ込めるように口づけで声を遮ると、熱い舌がウィルフリッドの舌を求めて踊る。淫らなダンスを誘導するように舌を導けば、程なくシャーロットの絶頂の声が、口内に直接くぐもって響いた。
追い込むように痙攣する舌を絡め取り、扱き、同時に指の抽挿を激しく続ければ、更にもう一段高みに向かって、シャーロットが舞い上がる。
痛い程張り詰めた雄芯を彼女の掌に押し付けながら、そのとろりと蕩けた媚態を、ウィルフリッドは熱心に見つめた。
肉襞の熱さと締め付けを十分に堪能した後、ウィルフリッドは膣内に埋めていた指をずるりと引き抜いた。
与えられた前戯と呼ぶには激しすぎる法悦に、シャーロットはすでにくてりと力を抜き、開かれた両脚もそのままに、荒い息を繰り返している。蜜口から溢れる愛液は出かける前にたっぷり注いだ白濁の残滓と混ざり、とろとろと尻を伝ってシーツまで零れていた。
その嬌態に、ウィルフリッドの雄はびくびくと震え、年甲斐もなく先端から雫を溢し反り返る。
五年越しで漸くシャーロットを手に入れてからというもの。
毎晩気を失わせ、疲弊するほど彼女を翻弄してしまう。
足の指一本ずつに舌を這わせ、その間の柔い部分をくすぐり、太ももの内側には赤い鬱血痕の花を咲かせる。ぷくりと大きくなってきた花芽を舌で翻弄するのもお気に入りだ。
この一週間ほどでシャーロットの身体は、胸への愛撫だけでイくことを覚えた。首筋も弱い。今度許可がもらえれば、首筋とうなじだけで達せないか、挑戦してみたい。
ウィルフリッドが挿入する頃には、シャーロットは最低でも片手ほどの数は達している。
それでも毎晩付き合ってくれるのは、彼女が人並外れた体力を身につけているお蔭だろう。
(剣聖さまさまだな)
頸動脈あたりの薄い皮膚を優しく啄みながら、ウィルフリッドは目を細めた。
五年前の客船での一夜のあと。
ウィルフリッドの世界はがらりと変わってしまった。
最初は主君から任されただけの子供だったのに。いつの間にか心の隙間に入り込み、居座り。あの晩の無理やり押し付けられた恥辱と快楽、そうして真っすぐな心根で、ウィルフリッドを完膚なきまでに叩き落した。
仕えるものへの叶わぬ恋という、底なし沼に。
そもそも彼の王から賜った任務は、王女と王妹の護衛だけではなかった。
万が一にも二人に叛逆の意志ありとなった場合は、彼女達の速やかな排除を命じられて送り出された。
彼はリースデン国王の懐刀。
護ることに繋がるならば、影で手を汚すことも厭わない。正道よりも躊躇いなく実を優先する。辿る道は違っても結果は同じなのだから早い方が良い、と考えてしまう。
だから、師事した剣聖には後継に選んでは貰えなかった。十代の弟子入り当時、師事をして早々「いくら強くても、お前には向いていない」と苦笑いをされた。剣聖の困ったような顔を、今でも覚えている。
そう。全くもって向いていなかった。誇りをかけて剣を掲げ、その剣筋で正道を示すなど。
剣聖は、シャーロットにこそ相応しい。
三年ほどの修行であっさり剣聖の名を継いだ彼女は王女位のまま、兵を率いることになった。
そうして叛乱鎮圧の任務で、母方の伯父を打ち取った。これにより、リースデン国内の掃討は殆ど完了したと言っていい。
雷鳴響く戦場で、一騎打ちで伯父侯爵の首を刎ねるシャーロットは、その場で額づきたくなるほど美しかった。
利権を貪るばかりの膿は、十五年かけてすり潰すように、現国王に排除された。
最後まで泳がせていた大物、王妃の兄である侯爵を排除して、血の時代はもうすぐ終わりを迎える。現にシャーロットの兄である王太子は、怜悧だが剣など扱えない。次は剣よりも政に秀でたものが重用されることだろう。
本来はここが引き時だった。
国王からも手元に戻るよう、打診を受けていた。
戦場で彼女に見惚れていた青年士官や、政治を担う上位貴族の若者に道を譲るのが、本来のあり方だったのだろう。
けれど、それは出来なかった。
遅くに知ってしまった恋は、影と道化に徹することに慣れた、面白みのない男さえ狂わせる。
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