29 / 43
3ー10
しおりを挟む
重力操作のスキルを得た翌日の日。
俺は高揚する気分を隠すことなく、フィーリネと途中出会ったゾイトを引き連れて街を歩いていた。
目的地は冒険者ギルド。その他には興味はありませんといった感じで、一直線に歩く俺の足取りは軽い。
「おい、フィーリネ。何故アイツは気持ち悪い笑みを浮かべてるんだ? とうとう頭がおかしくなったのか?」
「ううん、そういうわけじゃないの。ただ、やっと念願が叶ったというか、努力が報われたというか……。とにかく、凄く喜んでるんだよ」
コソコソと会話をする少女たちの声が背後から聞こえてくる。一人は事情を知らないため不審がり、一人は事情を知ってるからこそフォローを入れてくれている。
そんな彼女たちの会話をBGMに、俺は鼻歌混じりに視線を手元へと向けた。
視界に入るのは小さな純白の羽。羽毛布団の中身のようなそれは、何を隠そうドゥルドゥーの羽。
今朝むしり取ってきたばかりのものである。
「まさか……あんな呆気ないとは思わなかったけどな」
思い出すのは今朝のことだ。
スキル『目覚まし』で昨日と同じく深夜に叩き起こされた俺は、ドゥルドゥーの羽欲しさに奴らのいる平原へと訪れた。
そこで手に入れたばかりの重力操作のスキルを試してみると、思いのほかあっさり奴らの動きを止められた。
それからは早い。動けない連中の身体から羽をむしり取る。ただそれだけの単純作業の末に、俺は拍子抜けするほど簡単に羽を手に入れてしまったのだ。
重力ってものが便利なのはわかるけど、こんな簡単だと俺の苦労はなんだったんだろう。
などと最初は思っていたが、結果良ければ全て良しという言葉があるように、羽を入手したという結果があるのだから良しとしよう。
仮に重力操作を手に入れずに、ただ加減を覚えるという行為に走っていたならどうだろう。
ただ時間を浪費して、前に進めなかったなら俺はどうなっていただろう。
そう考えれば、たとえ自分の努力が無駄になったとしてもこれで良かったのだと俺は思えた。
などと自分を納得させつつ、手の中に収まる純白の羽をニタニタ笑みを浮かべながら見ていると
『我が主よ。フィーリネはともかくとして、あの小娘にまで良いように言わせておいてもいいのか? どうやら主のことをバカにしているようだが……』
パタパタと小さな翼を上下に動かし、そばに寄ってきたのは黒龍。
黄金色のつぶらな瞳には若干不満気な様子が見え隠れしていた。
「ありがとうな、コーラル。でも良いんだよ。あいつが俺を小馬鹿にしてくるのはいつものことだし。いちいち気にしていたら、アイツとは付き合えないだろうしな」
気にする必要はないと言ってみれば、渋々といった感じで頷く黒龍……もとい、コーラル。
いつまでも『黒龍』などと種族名みたいなもので呼ぶわけにもいかないからと、昨日フィーリネと一緒に考えて名付けた名前だ。
本人も結構気に入っているらしく呼ばれるたびにその尻尾を犬のように振るのだから可愛いもんだ。
そんなコーラルは羽を動かして俺の頭上に移動。秒もしないうちに頭に重みを感じたと思えば、彼は俺の頭の上で落ち着いていた。
「俺の頭の上ってそんなに気持ちがいいものか?」
『うむ……少なくとも、フィーリネ殿に絞め殺されるよりはマシだ。主は我に手を出そうとはしてこないだろう?』
「そりゃまぁ……」
女の子の胸に圧迫される。
男からすれば夢のような話ではあるのだが、どうやらコーラルにとってのその行為は地獄以外の何物でもないらしい。
確かに、昨日も家に帰ってから抱きつかれていた。
『一緒に寝ましょう』って、彼女の寝室に連れていかれる時など、涙を瞳の端に浮かばせて俺に対して助けを求めてきたくらいだ。
一応、俺の婚約者という存在故に大きな抵抗は見せていないが、それでも好きで静かにしているわけでもないらしい。
だが、いつまでもやられているばかりでは精神的に疲弊する。だから、俺の頭へと避難してきているわけだ。
『それとも、主は迷惑だろうか? 不満があるのなら素直に退くつもりだが……』
「別に構わないさ。重いわけでもないし、気持ち悪いわけでもないしな。お前が来たい時に避難してくればいいさ」
『すまぬ……』
短く謝罪を口にして、それ以降コーラルは何も喋らなくなる。
視線を頭上に向けてみれば、完全に力を抜いて静かにコーラルが寝息を立てる姿が目に入った。
親の胸の中にいるような安心しきった顔は、見ているこちらも穏やかな気分になってくる。
「まぁ、ゆっくりしてろよ」
そう静かにつぶやいて、俺は出来るだけゆっくり歩くよう務めるのだった。
それからやや時間も経った冒険者ギルド。
相変わらずの賑やかな雰囲気は健在で、見回せば大半の連中が酒を片手に仲間内と談笑している姿が目に入る。
アイツらはここを酒場と勘違いしているのではないかとは思うが、冒険者っていうのは基本的に荒くれ者の集まりのようなものだ。
酒を片手に武勇伝を語り、語られ、それをツマミにまた酒をあおる。それが冒険者なんじゃないだろうか。
中には真面目に依頼を請け負ったらしく受付で色々やってるやつもいるみたいだが、大半が談笑するためにテーブルを囲んでいるみたいだ。
そんな冒険者たちを尻目に俺は受付まで行くのだが、何故か俺がギルド内に入ってからやたらと視線を感じる気がした。
「……?」
周りをみれば変わらず談笑している冒険者たちの姿があるけれど、時折こちらを伺うように見てくる。
だが、視線を向ければ顔を背けるのだから何なのかわからない。
頭に疑問符を浮かべつつ、受付まで顔を出してみる。すると、受付のお姉さんが変わらない営業スマイルを向けて来てくれたのだが、その表情が俺を視界に収めるなり引き攣ったものに変貌する。
いや、正確には頭上の小さなドラゴンだろうか。
「え、えっと、いらっしゃいませ……?」
何故疑問符なんだ。俺は一応一昨日もこのギルドに来たんだぞ。
突然のお客様対応に苦笑しながら、俺は手の中にあった羽をカウンターに置く。そして懐から以前もらっていた『仮ギルドカード』を取り出すと
「これで、一応は試験達成だと思うんだけど、大丈夫ですか?」
「……えっ!? あぁ! 新人冒険者の方ですね! 申し訳ありません、気づくことが出来ず……」
慌てて頭を下げる受付のお姉さん。
まぁ、一日置いての達成報告だしな。それまで何人もの冒険者やお客の相手をしているわけだし、いちいち俺のことを覚えているはずもないだろう。
初日に凄まじい魔力量を出したはずなのに、忘れられたことなんて全然気にしていない。いや、ちょっぴり悲しいかも……。
そんな俺の心情など知るよしもないお姉さんは、カウンターから少し席を外すと裏方へ。それからしばらくすると、金色のカードを乗せた盆を持って帰ってきた。
「こちら、春崎暁人さんのギルドカードになります」
「ありがとうございます」
お礼と同時にカードを手に取る。
クレジットカード程度の大きさのそれには、俺の氏名と『F』と英語表記の文字が描かれていた。
「この文字は何ですか?」
「それは、言わば持ち主の強さの値のようなものです。『Aランク』から『Fランク』までの分かれており、上に行くほど高ランクの仕事を受けることが多くなるでしょう」
「なるほど……。ちなみに、このランクを上げるにはどうすれば?」
「魔物を狩って強さを示すか、頼まれた依頼を見事完遂してみせるかのどちらかですね。暁人さんはまだギルドに登録したばかりなので知名度が低いです。なので、しばらくは魔物を狩って行くしかないでしょうが……」
つまり上を目指すなら行動して結果を見せろということか。
魔物を倒して強さを示す。それはまぁ、問題ないだろう。
たかがドゥルドゥーから羽を得るためだけに何匹の魔物と戦ってきたかはわからないが、要はその時同様に魔物を倒してそれを持ち帰れということだ。
それだけでランクが上がるというのなら簡単な話だ。
だが、知名度が低いから依頼が受けられないというのはどうなのだろう。ギルドでは依頼の受注が出来ないのだろうか?
「あの……要はどういう?」
申し訳無さげに聞いてみれば、お姉さんは苦笑しながら教えてくれた。
それらを要約するとこうだ。
一昔前までは、依頼人がギルドにやってきて依頼を頼み、ギルド側がそれを掲示板に張り出すような形で依頼の受注をしていたのだという。
冒険者は張り出された依頼を吟味し、可能なものであれば請け負う。そうして、ギルドは依頼人の頼みごとを解決していたらしい。
だが、近年では『冒険者が依頼を選ぶ』のではなく、『依頼人が冒険者を選ぶ』というものに変わったのだという。
「少し前の冒険者の方々は、こう言ってはなんですが怠けている人の方が多かったんです。お金が無いから渋々依頼を受ける。依頼は適当に張り出されるので、適当な時間に受ければいいのだろうと。ですが、ギルドは助けを求める依頼人を救うための施設です。そのような考えでは、助けられる人も助けられません」
「だから、依頼人が冒険者を選ぶ手法にしたんですか」
「はい。お金を手に入れるには、魔物を倒して換金するか、自分を指名してくる依頼人が現れるのを待つしかありません。冒険者になった以上は、責任を持ってことに当たってもらわないと……こちらとしても、依頼人への対応が大変なんですから……」
嘆息するお姉さんの表情は随分と疲弊していた。
まるで、コンビニにやってきたクレーム客の対応を終えたあとの社員みたいな。いや、つまりそういうことなんだろう。
そんな彼女にお疲れ様と苦笑を向けて
「じゃあ、当分は魔物を狩ってくればいいってことですね?」
「……はい。そういうことになりますね。『C』ランクからは冒険者ボードに張り出されるので、それまでは頑張ってください」
「分かりました。あっ、そうだ」
これでギルド登録は終了ですと笑みをみせるお姉さん。
そんな彼女に待ったと言葉を続けると、自分の頭上でスヤスヤと眠るコーラルを指差して
「コイツの飼育許可も欲しいんですけど、大丈夫ですか?」
そう告げたのだった。
俺は高揚する気分を隠すことなく、フィーリネと途中出会ったゾイトを引き連れて街を歩いていた。
目的地は冒険者ギルド。その他には興味はありませんといった感じで、一直線に歩く俺の足取りは軽い。
「おい、フィーリネ。何故アイツは気持ち悪い笑みを浮かべてるんだ? とうとう頭がおかしくなったのか?」
「ううん、そういうわけじゃないの。ただ、やっと念願が叶ったというか、努力が報われたというか……。とにかく、凄く喜んでるんだよ」
コソコソと会話をする少女たちの声が背後から聞こえてくる。一人は事情を知らないため不審がり、一人は事情を知ってるからこそフォローを入れてくれている。
そんな彼女たちの会話をBGMに、俺は鼻歌混じりに視線を手元へと向けた。
視界に入るのは小さな純白の羽。羽毛布団の中身のようなそれは、何を隠そうドゥルドゥーの羽。
今朝むしり取ってきたばかりのものである。
「まさか……あんな呆気ないとは思わなかったけどな」
思い出すのは今朝のことだ。
スキル『目覚まし』で昨日と同じく深夜に叩き起こされた俺は、ドゥルドゥーの羽欲しさに奴らのいる平原へと訪れた。
そこで手に入れたばかりの重力操作のスキルを試してみると、思いのほかあっさり奴らの動きを止められた。
それからは早い。動けない連中の身体から羽をむしり取る。ただそれだけの単純作業の末に、俺は拍子抜けするほど簡単に羽を手に入れてしまったのだ。
重力ってものが便利なのはわかるけど、こんな簡単だと俺の苦労はなんだったんだろう。
などと最初は思っていたが、結果良ければ全て良しという言葉があるように、羽を入手したという結果があるのだから良しとしよう。
仮に重力操作を手に入れずに、ただ加減を覚えるという行為に走っていたならどうだろう。
ただ時間を浪費して、前に進めなかったなら俺はどうなっていただろう。
そう考えれば、たとえ自分の努力が無駄になったとしてもこれで良かったのだと俺は思えた。
などと自分を納得させつつ、手の中に収まる純白の羽をニタニタ笑みを浮かべながら見ていると
『我が主よ。フィーリネはともかくとして、あの小娘にまで良いように言わせておいてもいいのか? どうやら主のことをバカにしているようだが……』
パタパタと小さな翼を上下に動かし、そばに寄ってきたのは黒龍。
黄金色のつぶらな瞳には若干不満気な様子が見え隠れしていた。
「ありがとうな、コーラル。でも良いんだよ。あいつが俺を小馬鹿にしてくるのはいつものことだし。いちいち気にしていたら、アイツとは付き合えないだろうしな」
気にする必要はないと言ってみれば、渋々といった感じで頷く黒龍……もとい、コーラル。
いつまでも『黒龍』などと種族名みたいなもので呼ぶわけにもいかないからと、昨日フィーリネと一緒に考えて名付けた名前だ。
本人も結構気に入っているらしく呼ばれるたびにその尻尾を犬のように振るのだから可愛いもんだ。
そんなコーラルは羽を動かして俺の頭上に移動。秒もしないうちに頭に重みを感じたと思えば、彼は俺の頭の上で落ち着いていた。
「俺の頭の上ってそんなに気持ちがいいものか?」
『うむ……少なくとも、フィーリネ殿に絞め殺されるよりはマシだ。主は我に手を出そうとはしてこないだろう?』
「そりゃまぁ……」
女の子の胸に圧迫される。
男からすれば夢のような話ではあるのだが、どうやらコーラルにとってのその行為は地獄以外の何物でもないらしい。
確かに、昨日も家に帰ってから抱きつかれていた。
『一緒に寝ましょう』って、彼女の寝室に連れていかれる時など、涙を瞳の端に浮かばせて俺に対して助けを求めてきたくらいだ。
一応、俺の婚約者という存在故に大きな抵抗は見せていないが、それでも好きで静かにしているわけでもないらしい。
だが、いつまでもやられているばかりでは精神的に疲弊する。だから、俺の頭へと避難してきているわけだ。
『それとも、主は迷惑だろうか? 不満があるのなら素直に退くつもりだが……』
「別に構わないさ。重いわけでもないし、気持ち悪いわけでもないしな。お前が来たい時に避難してくればいいさ」
『すまぬ……』
短く謝罪を口にして、それ以降コーラルは何も喋らなくなる。
視線を頭上に向けてみれば、完全に力を抜いて静かにコーラルが寝息を立てる姿が目に入った。
親の胸の中にいるような安心しきった顔は、見ているこちらも穏やかな気分になってくる。
「まぁ、ゆっくりしてろよ」
そう静かにつぶやいて、俺は出来るだけゆっくり歩くよう務めるのだった。
それからやや時間も経った冒険者ギルド。
相変わらずの賑やかな雰囲気は健在で、見回せば大半の連中が酒を片手に仲間内と談笑している姿が目に入る。
アイツらはここを酒場と勘違いしているのではないかとは思うが、冒険者っていうのは基本的に荒くれ者の集まりのようなものだ。
酒を片手に武勇伝を語り、語られ、それをツマミにまた酒をあおる。それが冒険者なんじゃないだろうか。
中には真面目に依頼を請け負ったらしく受付で色々やってるやつもいるみたいだが、大半が談笑するためにテーブルを囲んでいるみたいだ。
そんな冒険者たちを尻目に俺は受付まで行くのだが、何故か俺がギルド内に入ってからやたらと視線を感じる気がした。
「……?」
周りをみれば変わらず談笑している冒険者たちの姿があるけれど、時折こちらを伺うように見てくる。
だが、視線を向ければ顔を背けるのだから何なのかわからない。
頭に疑問符を浮かべつつ、受付まで顔を出してみる。すると、受付のお姉さんが変わらない営業スマイルを向けて来てくれたのだが、その表情が俺を視界に収めるなり引き攣ったものに変貌する。
いや、正確には頭上の小さなドラゴンだろうか。
「え、えっと、いらっしゃいませ……?」
何故疑問符なんだ。俺は一応一昨日もこのギルドに来たんだぞ。
突然のお客様対応に苦笑しながら、俺は手の中にあった羽をカウンターに置く。そして懐から以前もらっていた『仮ギルドカード』を取り出すと
「これで、一応は試験達成だと思うんだけど、大丈夫ですか?」
「……えっ!? あぁ! 新人冒険者の方ですね! 申し訳ありません、気づくことが出来ず……」
慌てて頭を下げる受付のお姉さん。
まぁ、一日置いての達成報告だしな。それまで何人もの冒険者やお客の相手をしているわけだし、いちいち俺のことを覚えているはずもないだろう。
初日に凄まじい魔力量を出したはずなのに、忘れられたことなんて全然気にしていない。いや、ちょっぴり悲しいかも……。
そんな俺の心情など知るよしもないお姉さんは、カウンターから少し席を外すと裏方へ。それからしばらくすると、金色のカードを乗せた盆を持って帰ってきた。
「こちら、春崎暁人さんのギルドカードになります」
「ありがとうございます」
お礼と同時にカードを手に取る。
クレジットカード程度の大きさのそれには、俺の氏名と『F』と英語表記の文字が描かれていた。
「この文字は何ですか?」
「それは、言わば持ち主の強さの値のようなものです。『Aランク』から『Fランク』までの分かれており、上に行くほど高ランクの仕事を受けることが多くなるでしょう」
「なるほど……。ちなみに、このランクを上げるにはどうすれば?」
「魔物を狩って強さを示すか、頼まれた依頼を見事完遂してみせるかのどちらかですね。暁人さんはまだギルドに登録したばかりなので知名度が低いです。なので、しばらくは魔物を狩って行くしかないでしょうが……」
つまり上を目指すなら行動して結果を見せろということか。
魔物を倒して強さを示す。それはまぁ、問題ないだろう。
たかがドゥルドゥーから羽を得るためだけに何匹の魔物と戦ってきたかはわからないが、要はその時同様に魔物を倒してそれを持ち帰れということだ。
それだけでランクが上がるというのなら簡単な話だ。
だが、知名度が低いから依頼が受けられないというのはどうなのだろう。ギルドでは依頼の受注が出来ないのだろうか?
「あの……要はどういう?」
申し訳無さげに聞いてみれば、お姉さんは苦笑しながら教えてくれた。
それらを要約するとこうだ。
一昔前までは、依頼人がギルドにやってきて依頼を頼み、ギルド側がそれを掲示板に張り出すような形で依頼の受注をしていたのだという。
冒険者は張り出された依頼を吟味し、可能なものであれば請け負う。そうして、ギルドは依頼人の頼みごとを解決していたらしい。
だが、近年では『冒険者が依頼を選ぶ』のではなく、『依頼人が冒険者を選ぶ』というものに変わったのだという。
「少し前の冒険者の方々は、こう言ってはなんですが怠けている人の方が多かったんです。お金が無いから渋々依頼を受ける。依頼は適当に張り出されるので、適当な時間に受ければいいのだろうと。ですが、ギルドは助けを求める依頼人を救うための施設です。そのような考えでは、助けられる人も助けられません」
「だから、依頼人が冒険者を選ぶ手法にしたんですか」
「はい。お金を手に入れるには、魔物を倒して換金するか、自分を指名してくる依頼人が現れるのを待つしかありません。冒険者になった以上は、責任を持ってことに当たってもらわないと……こちらとしても、依頼人への対応が大変なんですから……」
嘆息するお姉さんの表情は随分と疲弊していた。
まるで、コンビニにやってきたクレーム客の対応を終えたあとの社員みたいな。いや、つまりそういうことなんだろう。
そんな彼女にお疲れ様と苦笑を向けて
「じゃあ、当分は魔物を狩ってくればいいってことですね?」
「……はい。そういうことになりますね。『C』ランクからは冒険者ボードに張り出されるので、それまでは頑張ってください」
「分かりました。あっ、そうだ」
これでギルド登録は終了ですと笑みをみせるお姉さん。
そんな彼女に待ったと言葉を続けると、自分の頭上でスヤスヤと眠るコーラルを指差して
「コイツの飼育許可も欲しいんですけど、大丈夫ですか?」
そう告げたのだった。
11
お気に入りに追加
2,793
あなたにおすすめの小説
異世界転生したら何でも出来る天才だった。
桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。
だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。
そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。
===========================
始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!
レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します
風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。
そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。
しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。
これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。
※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。
※小説家になろうでも投稿しています。
スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜
石八
ファンタジー
スキルが全ての世界で、主人公──レイは、スキルを持たない無能力者であった。
そのせいでレイは周りから蔑まされ、挙句の果てにはパーティーメンバーに見限られ、パーティーを追放させられる。
そんなレイの元にある依頼が届き、その依頼を達成するべくレイは世界に十本ある塔の一本である始まりの塔に挑む。
そこで待っていた魔物に危うく殺されかけるレイだが、なんとかその魔物の討伐に成功する。
そして、そこでレイの中に眠っていた《殺奪》という『スキルを持つ者を殺すとそのスキルを自分のものにできる』という最強のスキルが開花し、レイは始まりの塔で数多のスキルを手にしていく。
この物語は、そんな《殺奪》のスキルによって最強へと駆け上がるレイと、始まりの塔の最上階で出会った謎の堕天使の美少女が力を合わせて十本の塔を巡る冒険譚である。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!
日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」
見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。
神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。
特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。
突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。
なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。
・魔物に襲われている女の子との出会い
・勇者との出会い
・魔王との出会い
・他の転生者との出会い
・波長の合う仲間との出会い etc.......
チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。
その時クロムは何を想い、何をするのか……
このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる