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第十一章 代償行動
代償行動(4)
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公衆トイレに入って鍵を締めると、僕らは正面から抱き合ってキスをした。
香奈恵さんが僕の身体に抱きついてくる。その存在にしがみつくように。
運命の奔流に押し流されそうになった自分を繋ぎ止めるみたいに。
それが制御を失った難破船に立つ柱であっても。
「――悠木くん、会いたかった……。あなたに抱かれたかったの」
「香奈恵さん、香奈恵さん、――香奈恵さん」
僕も彼女を抱きしめる。心に欠けた何かをその存在で埋めるみたいに。
スレンダーな身体。膨らんだ胸。篠宮明莉に負けず美しい相貌。
本当に抱きしめたいのは――明莉なのだけれど。
ずっと好きだった幼馴染を抱擁できない僕は、代わりに人妻を抱きしめる。
肋骨の厚みを感じながら、その成熟した身体を腕に抱く。
彼女を真白先生から奪うことが僕にとっての代償行動なのかもしれない。
唇を重ねて、お互いの舌を差し入れて、唾液と呼気を交換する。
「――ねえ、悠木くん、私のこと好き? ねえ、教えて悠木くん、私のこと好き?」
彼女が僕の首に両手を絡める、そして厚ぼったい唇を開きながら問う。
瞳孔は開いて、瞳は潤んでいた。
その問いは切実で、彼女の腰は僕の下腹部に強く押しつけられている。
「好きか嫌いかで言えば――好きですよ?」
「もう……違うわよ。そういう逃げ方は良くないわよ、悠木くん。女として――好きかってこと。――愛している、でもいいわ」
甘えるような表情を浮かべる。
十歳年上の女性からかけられる身体の重み。もたれかかるように。
それは可愛らしくて、情熱的で、肉感的だった。
彼女の重みをその体重で感じながらも、腰に回した腕に力を込める。
二十代後半の彼女にこの世界をどんな風に見えているのだろうか。
十代後半の自分にこの世界はまだその片鱗しか見えていない。
その片鱗の中心に――篠宮明莉が立っている。
篠宮明莉はそれでも世界の中心なのだ。
「――僕は……僕は」
「今、明莉さんのことを考えていたでしょ? 心配しないで。悠木くんの中にいるあの子に勝とうだなんて、私は思っていないから。あくまで彼女を除いて、考えて。彼女が居なかったとして、――もしこの世から彼女が居なくなったなら……悠木くんは私を愛してくれる?」
彼女の両手が僕の頬を包む。
篠宮明莉が存在しない世界。
僕が存在する限り、篠宮明莉は存在する。
篠宮明莉が存在する限り、僕は存在する。
僕と明莉は運命の赤い糸で繋がれた双対的関係。
――彼女は世界の真理そのものなのだ。
だから篠宮明莉が存在しない世界は不可能な世界。
不可能な世界を想定することなんて哲学問答の思考実験みたいなものだ。
明莉のいない世界線には僕は存在せず、故に僕はその世界で香奈恵さんを観測しえない。
「――それってつまり明莉の次に香奈恵さんのことが好きかってことですか?」
「そう言うと何だか安っぽく聞こえちゃうわね。もちろんそういう解釈でも良いのだけれど。――もっと精神的な話。――悠木くんなら分かってくれると、思ったんだけどな?」
――明莉の次に好き。
その言葉で僕の脳裏に浮かんだのは森美樹の顔だった。
僕の腕の中で泣いていた森さん。
僕の腕の中でよがった森さん。
水上の裏切りにあった彼女は僕の親友。
明莉の代わりにはならないけれど、美樹はもう僕にとって大切な女の子。
僕にとって香奈恵さんはどんな存在なのだろうか?
森さんと同じように僕の親友なのだろうか?
それは少し違うように思う。香奈恵さんは森さんみたいな親友ではない。
香奈恵さんは真白先生の奥さんで、僕の下僕。
僕と双方向のEL-SPYで繋がった存在。
僕の初体験の相手になってくれた女性。
僕をふくよかな胸で包んでくれる女性。
知らない間に、彼女は僕の中で重要な存在になっていたのだと思う。
「僕は――きっと香奈恵さんのことを愛していますよ?」
「うれしい。私もよ? ――悠木くん」
彼女は蕩けたように両目の端を垂らし、僕の頬を両手で包んで首を傾げる。
それは相手が相手が人生の上で重要な存在であると告げる言葉。
それは相手が相手が性的な意味で重要な存在であると告げる言葉。
でも「愛している」は人間同士の関係性における「愛している」に留まる。
それは月並みな恋人たちが交わす言葉としての「愛している」に過ぎない。
だからその「愛している」は僕の明莉への想いとは質的に異なるのだ。
そんな言葉で良ければ、僕は迷いなく真白香奈恵に与えよう。
彼女に僕がもたれかかり、僕に彼女がもたれかかる。
お互いの代償行動によって生まれる、相互依存を定義するために。
一方で明莉との間に育まれる愛は、世界の基盤であり世界そのものなのだ。
だから全ての世界線は篠宮明莉に始まり、その先で篠宮明莉へと収束する。
だから僕は彼女の身体を回転させて、洗面台に両手を突かせる。
前面の鏡越しに香奈恵さんと目が合う。
手早く彼女のコートを脱がすと、それを脇のおむつ交換台に掛けた。
背中を押してお尻を突き出させると、香奈恵さんは「あんっ」と小さく声を漏らした。
向けられた腰を僕は掴む。前面に手を回してボタンを外すと、乱暴にスキニージーンズを引きずり下ろした。形の良い彼女のお尻が弾むように現れ出る。レースの模様があしらわれた黒いショーツが包まれた熟れた膨らみは――とても綺麗だった。
「――悠木くん。何だか乱暴。……先週、私が童貞を奪ってあげたばかりなのに」
「きっともともと素質があったんですよ。それとも童貞を奪ってくれた女性の導きが――良かったのかな?」
彼女のお臍の下からショーツの中へと右手を忍びこませる。
左の手は白いニットの下へと侵入させて、辿りついたブラジャーの下から豊かな胸を揉む。香奈恵さんの唇から吐息が漏れる。
ショーツの下に侵入した右手が彼女の渓谷へと辿り着いた。
中指を割れ目から侵入させると、ぐちょぐちょに濡れている。
香奈恵さんは「んんっ」と声を漏らした。
「もう濡れていますよ。――欲しいですか?」
「――うん。欲しい」
香奈恵さんは僕へと頷き返した。トイレの鏡越しに。素直な少女のように。
はちきれそうなお尻を覆っていた黒い布を、僕は遠慮なく引きずり下ろす。
綺麗なお尻が、僕に向かって現れ出た。肌理の美しい成熟した果実だ。
その膨らみの下に茂みがあって、その中に物欲しそうなもう一つの口が開いていた。
そこに中指を差し入れる。差し入れてみたら余りに余裕をもって挿入されたから、人差し指も加えて二本挿入する。彼女のお尻が震えて反応した。
「わかりますか? 二本入っているの」
「んはぁ……、――うん、わかるよ。――でも悠木くん。指じゃなくってね。指じゃなくって――」
「分かってますよ。香奈恵さん。そんな駄々っ子みたいに欲しがらないでください。順番ですよ」
僕は腰のベルトを緩めてファスナーを開きボタンを外し、トランクスと一緒に制服のズボンを足元へと下ろした。すでに肉棒は太く長く熱り立っている。
「そうだ――香奈恵さん。二人でいる時は呼び方を変えませんか?」
「ん? どういうこと?」
「僕は香奈恵さんのことを下の名前で呼んでいるじゃないですか? だから香奈恵さんも僕のことを下の名前で呼んでくださいよ」
「えっと……。あ――秋翔くん?」
彼女が僕のことを「秋翔くん」と呼んだ時、僕の肉棒が更に大きくなった。
「ええ、それで、良いですよ。――二人っきりのときだけでいいですから」
「――分かったわ」
支配の感覚が僕の下腹部を刺激して、その奥にある熱の塊をまた活性化させる。
僕は剥き出しになった亀頭を濡れそぼった花園へとあてがった。
彼女の淫らな唇が僕の大切な部分にキスをする。
それだけで僕の心は癒やされていく。その癒しが仮初であったとしても。
やがて抽送を開始する。
性棒は彼女の下の口を押し開きながら、その内部へと侵入していった。
香奈恵さんが「ああぁ」と声を漏らす。腰を掴んで根元まで咥えこませた。
「――秋翔くん!」
「――香奈恵さん!」
僕らはお互いの名前を呼ぶ。お互いに大切な人を奪われた者同士。
傷を舐め合うように、僕らは下の口と肉棒で交わり合う。
彼女の腰を押さえて僕は勢いよく腰を前後させる。
鏡越しの彼女は快楽に眉を寄せながら、おとがいを逸らす。
児童公園の公衆トイレには体をリズムよく打ちつける音が、パンパンと鳴り響いた。
香奈恵さんが僕の身体に抱きついてくる。その存在にしがみつくように。
運命の奔流に押し流されそうになった自分を繋ぎ止めるみたいに。
それが制御を失った難破船に立つ柱であっても。
「――悠木くん、会いたかった……。あなたに抱かれたかったの」
「香奈恵さん、香奈恵さん、――香奈恵さん」
僕も彼女を抱きしめる。心に欠けた何かをその存在で埋めるみたいに。
スレンダーな身体。膨らんだ胸。篠宮明莉に負けず美しい相貌。
本当に抱きしめたいのは――明莉なのだけれど。
ずっと好きだった幼馴染を抱擁できない僕は、代わりに人妻を抱きしめる。
肋骨の厚みを感じながら、その成熟した身体を腕に抱く。
彼女を真白先生から奪うことが僕にとっての代償行動なのかもしれない。
唇を重ねて、お互いの舌を差し入れて、唾液と呼気を交換する。
「――ねえ、悠木くん、私のこと好き? ねえ、教えて悠木くん、私のこと好き?」
彼女が僕の首に両手を絡める、そして厚ぼったい唇を開きながら問う。
瞳孔は開いて、瞳は潤んでいた。
その問いは切実で、彼女の腰は僕の下腹部に強く押しつけられている。
「好きか嫌いかで言えば――好きですよ?」
「もう……違うわよ。そういう逃げ方は良くないわよ、悠木くん。女として――好きかってこと。――愛している、でもいいわ」
甘えるような表情を浮かべる。
十歳年上の女性からかけられる身体の重み。もたれかかるように。
それは可愛らしくて、情熱的で、肉感的だった。
彼女の重みをその体重で感じながらも、腰に回した腕に力を込める。
二十代後半の彼女にこの世界をどんな風に見えているのだろうか。
十代後半の自分にこの世界はまだその片鱗しか見えていない。
その片鱗の中心に――篠宮明莉が立っている。
篠宮明莉はそれでも世界の中心なのだ。
「――僕は……僕は」
「今、明莉さんのことを考えていたでしょ? 心配しないで。悠木くんの中にいるあの子に勝とうだなんて、私は思っていないから。あくまで彼女を除いて、考えて。彼女が居なかったとして、――もしこの世から彼女が居なくなったなら……悠木くんは私を愛してくれる?」
彼女の両手が僕の頬を包む。
篠宮明莉が存在しない世界。
僕が存在する限り、篠宮明莉は存在する。
篠宮明莉が存在する限り、僕は存在する。
僕と明莉は運命の赤い糸で繋がれた双対的関係。
――彼女は世界の真理そのものなのだ。
だから篠宮明莉が存在しない世界は不可能な世界。
不可能な世界を想定することなんて哲学問答の思考実験みたいなものだ。
明莉のいない世界線には僕は存在せず、故に僕はその世界で香奈恵さんを観測しえない。
「――それってつまり明莉の次に香奈恵さんのことが好きかってことですか?」
「そう言うと何だか安っぽく聞こえちゃうわね。もちろんそういう解釈でも良いのだけれど。――もっと精神的な話。――悠木くんなら分かってくれると、思ったんだけどな?」
――明莉の次に好き。
その言葉で僕の脳裏に浮かんだのは森美樹の顔だった。
僕の腕の中で泣いていた森さん。
僕の腕の中でよがった森さん。
水上の裏切りにあった彼女は僕の親友。
明莉の代わりにはならないけれど、美樹はもう僕にとって大切な女の子。
僕にとって香奈恵さんはどんな存在なのだろうか?
森さんと同じように僕の親友なのだろうか?
それは少し違うように思う。香奈恵さんは森さんみたいな親友ではない。
香奈恵さんは真白先生の奥さんで、僕の下僕。
僕と双方向のEL-SPYで繋がった存在。
僕の初体験の相手になってくれた女性。
僕をふくよかな胸で包んでくれる女性。
知らない間に、彼女は僕の中で重要な存在になっていたのだと思う。
「僕は――きっと香奈恵さんのことを愛していますよ?」
「うれしい。私もよ? ――悠木くん」
彼女は蕩けたように両目の端を垂らし、僕の頬を両手で包んで首を傾げる。
それは相手が相手が人生の上で重要な存在であると告げる言葉。
それは相手が相手が性的な意味で重要な存在であると告げる言葉。
でも「愛している」は人間同士の関係性における「愛している」に留まる。
それは月並みな恋人たちが交わす言葉としての「愛している」に過ぎない。
だからその「愛している」は僕の明莉への想いとは質的に異なるのだ。
そんな言葉で良ければ、僕は迷いなく真白香奈恵に与えよう。
彼女に僕がもたれかかり、僕に彼女がもたれかかる。
お互いの代償行動によって生まれる、相互依存を定義するために。
一方で明莉との間に育まれる愛は、世界の基盤であり世界そのものなのだ。
だから全ての世界線は篠宮明莉に始まり、その先で篠宮明莉へと収束する。
だから僕は彼女の身体を回転させて、洗面台に両手を突かせる。
前面の鏡越しに香奈恵さんと目が合う。
手早く彼女のコートを脱がすと、それを脇のおむつ交換台に掛けた。
背中を押してお尻を突き出させると、香奈恵さんは「あんっ」と小さく声を漏らした。
向けられた腰を僕は掴む。前面に手を回してボタンを外すと、乱暴にスキニージーンズを引きずり下ろした。形の良い彼女のお尻が弾むように現れ出る。レースの模様があしらわれた黒いショーツが包まれた熟れた膨らみは――とても綺麗だった。
「――悠木くん。何だか乱暴。……先週、私が童貞を奪ってあげたばかりなのに」
「きっともともと素質があったんですよ。それとも童貞を奪ってくれた女性の導きが――良かったのかな?」
彼女のお臍の下からショーツの中へと右手を忍びこませる。
左の手は白いニットの下へと侵入させて、辿りついたブラジャーの下から豊かな胸を揉む。香奈恵さんの唇から吐息が漏れる。
ショーツの下に侵入した右手が彼女の渓谷へと辿り着いた。
中指を割れ目から侵入させると、ぐちょぐちょに濡れている。
香奈恵さんは「んんっ」と声を漏らした。
「もう濡れていますよ。――欲しいですか?」
「――うん。欲しい」
香奈恵さんは僕へと頷き返した。トイレの鏡越しに。素直な少女のように。
はちきれそうなお尻を覆っていた黒い布を、僕は遠慮なく引きずり下ろす。
綺麗なお尻が、僕に向かって現れ出た。肌理の美しい成熟した果実だ。
その膨らみの下に茂みがあって、その中に物欲しそうなもう一つの口が開いていた。
そこに中指を差し入れる。差し入れてみたら余りに余裕をもって挿入されたから、人差し指も加えて二本挿入する。彼女のお尻が震えて反応した。
「わかりますか? 二本入っているの」
「んはぁ……、――うん、わかるよ。――でも悠木くん。指じゃなくってね。指じゃなくって――」
「分かってますよ。香奈恵さん。そんな駄々っ子みたいに欲しがらないでください。順番ですよ」
僕は腰のベルトを緩めてファスナーを開きボタンを外し、トランクスと一緒に制服のズボンを足元へと下ろした。すでに肉棒は太く長く熱り立っている。
「そうだ――香奈恵さん。二人でいる時は呼び方を変えませんか?」
「ん? どういうこと?」
「僕は香奈恵さんのことを下の名前で呼んでいるじゃないですか? だから香奈恵さんも僕のことを下の名前で呼んでくださいよ」
「えっと……。あ――秋翔くん?」
彼女が僕のことを「秋翔くん」と呼んだ時、僕の肉棒が更に大きくなった。
「ええ、それで、良いですよ。――二人っきりのときだけでいいですから」
「――分かったわ」
支配の感覚が僕の下腹部を刺激して、その奥にある熱の塊をまた活性化させる。
僕は剥き出しになった亀頭を濡れそぼった花園へとあてがった。
彼女の淫らな唇が僕の大切な部分にキスをする。
それだけで僕の心は癒やされていく。その癒しが仮初であったとしても。
やがて抽送を開始する。
性棒は彼女の下の口を押し開きながら、その内部へと侵入していった。
香奈恵さんが「ああぁ」と声を漏らす。腰を掴んで根元まで咥えこませた。
「――秋翔くん!」
「――香奈恵さん!」
僕らはお互いの名前を呼ぶ。お互いに大切な人を奪われた者同士。
傷を舐め合うように、僕らは下の口と肉棒で交わり合う。
彼女の腰を押さえて僕は勢いよく腰を前後させる。
鏡越しの彼女は快楽に眉を寄せながら、おとがいを逸らす。
児童公園の公衆トイレには体をリズムよく打ちつける音が、パンパンと鳴り響いた。
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