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第一〇章 崩落
崩落(5)
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僕の目の前で起きている出来事は、果たして現実なのだろうか?
ずっと好きだった幼馴染――篠宮明莉が放送部顧問の真白誠人先生の肉棒を咥えているシーンに遭遇したのが二週間前。それは理科実験室のことだった。
そして今、僕は生徒指導室で、架空の恋人となった篠宮明莉が同じく真白誠人先生の肉棒を下の口で咥えようとしている。
緑色のコンドームがつけられたペニスが机の上に両手を突いた明莉のお尻の少し下に添えられる。
真白先生が自分の右手で、その固まった竿を上下させて、明莉の股間にこすりつけた。
その度に明莉は物欲しげに唇を尖らせた。
「――十分に濡れているね? 明莉ちゃん」
「先生……勿体ぶらないで。……私は――大丈夫だからぁ」
二人は僕の存在なんて忘れてしまっているみたいだ。
僕は何の言葉も発せないまま案山子みたいに生徒指導室の椅子の横で突っ立っている。
「勿体ぶっているわけじゃないんだよ? 明莉ちゃん。僕だって君の美しい体に、自分の一物を差し入れるのはいつも躊躇するんだ。君みたいに純粋で可憐な存在を、僕の肉棒で汚してしまっていいのかってね――」
「大丈夫……大丈夫だから。先生は汚れてなんていないから、先生は私を大切にしてくれる……人だからぁ」
明莉が乞うように、言葉を漏らす。
ちらりと僕の方を見た真白先生は、口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
――急激に横腹が締め付けられるように傷んだ。
「明莉ちゃん……。顔を上げてごらん……。今、この部屋には僕たちだけじゃない。……もうひとり居るんだよ? 彼のことを忘れちゃいけないよ」
「え? ……ふえぇ……?」
真白先生が明莉のボブの髪を掴む。乱暴に彼女の頭を持ち上げると僕の方向を向かせた。
顔を上げた明莉の表情は虚ろな目付きで、その瞳孔は真っ黒に開いていた。
「……秋翔くん。――あぁあ……。恥ずかしいよぉ~。見ないで~」
その蕩けたような表情。
それはこれまでに見てきた明莉のどんな表情よりも――蠱惑的だった。
僕の股間がはちきれそうなくらいに盛り上がる。
パンツの中で肉棒が限界まで膨張している。
「――見てごらん、明莉ちゃん。悠木くんの股間を。彼だって美しい君の姿に欲情しているみたいだよ。ほらズボンの真ん中。盛り上がっているでしょ? 君の幼馴染は君の姿に興奮しているんだ。幼馴染なのにね。男女の性的な関係を超えた――幼馴染なのにね」
真白先生が聞こえよがしに明莉へと語りかける。
蕩けた目で明莉は僕の股間に視線を向けた。
「……本当だ。……秋翔くん。――私でも……興奮するの? 私は秋翔くんにとってそういう対象に含まれるの? 秋翔くんにとって恋愛対象に含まれるような女の子なの?」
「――あたり前じゃないか」
噛み締めたようなその言葉は、何とか僕の喉奥から最低限の音量で飛び出した。
「……うれしい――アッ!」
その瞬間――真白先生の肉棒が彼女の体を貫いた。
真白先生は明莉のスカートのウエストベルト部分に両手を当てると、腰を前後に振り抽送を繰り返した。
制服のスカートは襞を作って捲れ上がり、突き出された白いお尻になんども真白先生の腰が打ち付けられた。
ぱんぱんと音が鳴る度に、明莉の喉から「あん」という小さな声が漏れた。真白先生も気持ちよさそうに「おおぉ」と喘ぎ声を漏らす。
「――これで分かっただろ? 目に焼き付いただろ? 悠木秋翔くん。篠宮明莉さんが求めているのが誰なのか? ――君のやっていることは徒労なんだよ。――君のやっていることは嫉妬にまみれた悪あがきなんだよ。――君のやっていることは明莉ちゃんの心さえ省みない……ただのエゴイスティックな欺瞞なんだよ!」
「――ああ、先生、気持ちいい。奥……もっと奥っ」
真白先生は明莉の背後から自らの剛直を差し入れたまま、押し付けるようにそれを上下させる。僕は見てはいけないものを見ている。受け止めきれない刺激を浴びせられている。
心の何処かが警鐘を鳴らし始める。
これが現実であったとしても、これは現実であってはいけない。
――そんなもの、僕の心と体が……耐えられるはずがないのだ。
「違うっ……違う――これは違うんだっ!」
僕は思わず頭を下げて叫んだ。
二人から視線を逸らせて目を伏せる。
股間を勃起させて、ズボンをパンパンに膨れ上がらせたまま。
「違わないさ。――現実を見ろ、悠木。お前が求めた篠宮明莉は、今は僕の腕の中にある。見ろ! それが現実だ。お前がいくら彼女を守りたいと願っても、彼女を手に入れたいと願っても、――もう遅い。篠宮明莉は――お前を必要となんかしていないんだ」
後ろから差し込んでいた肉棒を一旦引き抜くと、真白先生は腰にとどまっていた明莉のキャミソールとスカートを足元まで引きずりおろした。
そして彼女の片足を掴んで持ち上げると、膝に掛かっていた白いショーツをその足から引き抜いた。その足をそのまま生徒指導室の机の上に乗せる。
大きく股を開いたような格好で、明莉の姿勢が固定される。さっきよりもずっと露わに彼女の秘部が露出して見えた。
全裸になった明莉に、その体勢のまま真白先生は背後から肉棒を挿入する。
明莉は体を突き抜ける快感に身を委ねるように、顎を上げて声を漏らした。
「ああああああああ………」
一糸まとわぬ明莉が、目の前で穢されている。僕以外の男の性棒を受け入れて、そしてその内側から湧き出る快楽に身をよじっている。
僕はその姿から目を逸らせない。
そうやって肌をピンク色に染める明莉が――どうしようもなく美しく見えた。
でも体が変調をきたしだす。
動悸は異常な速度に速まって、脇腹はきりきりと痛みだす。
頭はさっきから熱を放っていて、世界が揺れて目眩が始まっている。
それでも股間は勃起していて、僕は――僕はどうすればいいんだ?
その時――頭の中で声がした。それは――いつか聞いた言葉だった。
『でもね、これだけは覚えておいて。――もし君自身の心が軋みだして、何か違和感を感じたら、無理せずにギブアップして。そして、すぐに私のところへと駆け込んでくること。――春先みたいにならないように。――わかった?』
それは保健室の小石川先生の言葉だった。
胸を押さえる。心臓の音を感じる。心の奥に耳を済ます。
下腹部の奥の拍動を感じる。燃えたぎるようなその熱。
気づけばそれは違和感だった。
体が軋む。心が軋む。
目の前の情景が――僕という存在を確実に押しつぶし始めている。
去年の春先――追い詰められた僕が最後に見た情景。
世界が真っ暗に染まって、その中に落ちていく自分自身。
その縁に立っていた時の感覚――この違和感はそれに似ていた。
逃げなきゃ……! 逃げなきゃいけない……! 僕はこの場所からっ!
「うわあああああああああっっっっっーーーーーー!!!!!」
僕は絶叫する。目を閉じて。恥も外聞もかなぐり捨てて。
この現実全てを口から吐き出す光線で焼き払うみたいに。
僕は二人に背を向けて、扉へと向かった。
つまみを回して鍵を開けると迷わずに僕は廊下へと飛び出す。
後ろ手に扉を力いっぱい閉めた。
生徒指導室の入り口は大きな音を立てて閉鎖された。
肩で息をする。飛び出した先の廊下は――いつもの廊下だった。
放課後で人気の少ない、いつもの廊下。
まるで「どこでもドア」で遠くの世界にでも来たみたいだ。
扉の中ではまだ、二人が交尾しているのかもしれない。
でも防音性能の優れた生徒指導室の扉越しには何も聞こえてこなかった。
僕は大きく息を吸って呼吸を整える。
まだ動悸は治まらない。足は震えている。目眩を覚える。
それでも僕はまだ現実の縁くらいには立てていた。
きっとまだ暗闇の中に落ちてはいなかった。
貧血で倒れそうになる頭を押さえて、僕は一歩ずつ廊下を歩き始めた。
足を引きずるように――保健室に向かって。
ずっと好きだった幼馴染――篠宮明莉が放送部顧問の真白誠人先生の肉棒を咥えているシーンに遭遇したのが二週間前。それは理科実験室のことだった。
そして今、僕は生徒指導室で、架空の恋人となった篠宮明莉が同じく真白誠人先生の肉棒を下の口で咥えようとしている。
緑色のコンドームがつけられたペニスが机の上に両手を突いた明莉のお尻の少し下に添えられる。
真白先生が自分の右手で、その固まった竿を上下させて、明莉の股間にこすりつけた。
その度に明莉は物欲しげに唇を尖らせた。
「――十分に濡れているね? 明莉ちゃん」
「先生……勿体ぶらないで。……私は――大丈夫だからぁ」
二人は僕の存在なんて忘れてしまっているみたいだ。
僕は何の言葉も発せないまま案山子みたいに生徒指導室の椅子の横で突っ立っている。
「勿体ぶっているわけじゃないんだよ? 明莉ちゃん。僕だって君の美しい体に、自分の一物を差し入れるのはいつも躊躇するんだ。君みたいに純粋で可憐な存在を、僕の肉棒で汚してしまっていいのかってね――」
「大丈夫……大丈夫だから。先生は汚れてなんていないから、先生は私を大切にしてくれる……人だからぁ」
明莉が乞うように、言葉を漏らす。
ちらりと僕の方を見た真白先生は、口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
――急激に横腹が締め付けられるように傷んだ。
「明莉ちゃん……。顔を上げてごらん……。今、この部屋には僕たちだけじゃない。……もうひとり居るんだよ? 彼のことを忘れちゃいけないよ」
「え? ……ふえぇ……?」
真白先生が明莉のボブの髪を掴む。乱暴に彼女の頭を持ち上げると僕の方向を向かせた。
顔を上げた明莉の表情は虚ろな目付きで、その瞳孔は真っ黒に開いていた。
「……秋翔くん。――あぁあ……。恥ずかしいよぉ~。見ないで~」
その蕩けたような表情。
それはこれまでに見てきた明莉のどんな表情よりも――蠱惑的だった。
僕の股間がはちきれそうなくらいに盛り上がる。
パンツの中で肉棒が限界まで膨張している。
「――見てごらん、明莉ちゃん。悠木くんの股間を。彼だって美しい君の姿に欲情しているみたいだよ。ほらズボンの真ん中。盛り上がっているでしょ? 君の幼馴染は君の姿に興奮しているんだ。幼馴染なのにね。男女の性的な関係を超えた――幼馴染なのにね」
真白先生が聞こえよがしに明莉へと語りかける。
蕩けた目で明莉は僕の股間に視線を向けた。
「……本当だ。……秋翔くん。――私でも……興奮するの? 私は秋翔くんにとってそういう対象に含まれるの? 秋翔くんにとって恋愛対象に含まれるような女の子なの?」
「――あたり前じゃないか」
噛み締めたようなその言葉は、何とか僕の喉奥から最低限の音量で飛び出した。
「……うれしい――アッ!」
その瞬間――真白先生の肉棒が彼女の体を貫いた。
真白先生は明莉のスカートのウエストベルト部分に両手を当てると、腰を前後に振り抽送を繰り返した。
制服のスカートは襞を作って捲れ上がり、突き出された白いお尻になんども真白先生の腰が打ち付けられた。
ぱんぱんと音が鳴る度に、明莉の喉から「あん」という小さな声が漏れた。真白先生も気持ちよさそうに「おおぉ」と喘ぎ声を漏らす。
「――これで分かっただろ? 目に焼き付いただろ? 悠木秋翔くん。篠宮明莉さんが求めているのが誰なのか? ――君のやっていることは徒労なんだよ。――君のやっていることは嫉妬にまみれた悪あがきなんだよ。――君のやっていることは明莉ちゃんの心さえ省みない……ただのエゴイスティックな欺瞞なんだよ!」
「――ああ、先生、気持ちいい。奥……もっと奥っ」
真白先生は明莉の背後から自らの剛直を差し入れたまま、押し付けるようにそれを上下させる。僕は見てはいけないものを見ている。受け止めきれない刺激を浴びせられている。
心の何処かが警鐘を鳴らし始める。
これが現実であったとしても、これは現実であってはいけない。
――そんなもの、僕の心と体が……耐えられるはずがないのだ。
「違うっ……違う――これは違うんだっ!」
僕は思わず頭を下げて叫んだ。
二人から視線を逸らせて目を伏せる。
股間を勃起させて、ズボンをパンパンに膨れ上がらせたまま。
「違わないさ。――現実を見ろ、悠木。お前が求めた篠宮明莉は、今は僕の腕の中にある。見ろ! それが現実だ。お前がいくら彼女を守りたいと願っても、彼女を手に入れたいと願っても、――もう遅い。篠宮明莉は――お前を必要となんかしていないんだ」
後ろから差し込んでいた肉棒を一旦引き抜くと、真白先生は腰にとどまっていた明莉のキャミソールとスカートを足元まで引きずりおろした。
そして彼女の片足を掴んで持ち上げると、膝に掛かっていた白いショーツをその足から引き抜いた。その足をそのまま生徒指導室の机の上に乗せる。
大きく股を開いたような格好で、明莉の姿勢が固定される。さっきよりもずっと露わに彼女の秘部が露出して見えた。
全裸になった明莉に、その体勢のまま真白先生は背後から肉棒を挿入する。
明莉は体を突き抜ける快感に身を委ねるように、顎を上げて声を漏らした。
「ああああああああ………」
一糸まとわぬ明莉が、目の前で穢されている。僕以外の男の性棒を受け入れて、そしてその内側から湧き出る快楽に身をよじっている。
僕はその姿から目を逸らせない。
そうやって肌をピンク色に染める明莉が――どうしようもなく美しく見えた。
でも体が変調をきたしだす。
動悸は異常な速度に速まって、脇腹はきりきりと痛みだす。
頭はさっきから熱を放っていて、世界が揺れて目眩が始まっている。
それでも股間は勃起していて、僕は――僕はどうすればいいんだ?
その時――頭の中で声がした。それは――いつか聞いた言葉だった。
『でもね、これだけは覚えておいて。――もし君自身の心が軋みだして、何か違和感を感じたら、無理せずにギブアップして。そして、すぐに私のところへと駆け込んでくること。――春先みたいにならないように。――わかった?』
それは保健室の小石川先生の言葉だった。
胸を押さえる。心臓の音を感じる。心の奥に耳を済ます。
下腹部の奥の拍動を感じる。燃えたぎるようなその熱。
気づけばそれは違和感だった。
体が軋む。心が軋む。
目の前の情景が――僕という存在を確実に押しつぶし始めている。
去年の春先――追い詰められた僕が最後に見た情景。
世界が真っ暗に染まって、その中に落ちていく自分自身。
その縁に立っていた時の感覚――この違和感はそれに似ていた。
逃げなきゃ……! 逃げなきゃいけない……! 僕はこの場所からっ!
「うわあああああああああっっっっっーーーーーー!!!!!」
僕は絶叫する。目を閉じて。恥も外聞もかなぐり捨てて。
この現実全てを口から吐き出す光線で焼き払うみたいに。
僕は二人に背を向けて、扉へと向かった。
つまみを回して鍵を開けると迷わずに僕は廊下へと飛び出す。
後ろ手に扉を力いっぱい閉めた。
生徒指導室の入り口は大きな音を立てて閉鎖された。
肩で息をする。飛び出した先の廊下は――いつもの廊下だった。
放課後で人気の少ない、いつもの廊下。
まるで「どこでもドア」で遠くの世界にでも来たみたいだ。
扉の中ではまだ、二人が交尾しているのかもしれない。
でも防音性能の優れた生徒指導室の扉越しには何も聞こえてこなかった。
僕は大きく息を吸って呼吸を整える。
まだ動悸は治まらない。足は震えている。目眩を覚える。
それでも僕はまだ現実の縁くらいには立てていた。
きっとまだ暗闇の中に落ちてはいなかった。
貧血で倒れそうになる頭を押さえて、僕は一歩ずつ廊下を歩き始めた。
足を引きずるように――保健室に向かって。
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