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第一〇章 崩落
崩落(1)
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僕は何を見せられているのだろうか?
篠宮明莉が僕の前で胸を開けて別の男に弄られている。
それはきっと現実ではなくて夢の続き。
あの冬の終わりから、僕の悪夢はまだ続いているのだ――きっと。
絡まり合う二人を見ながら、僕の意識は過去の記憶へと落ちていった――。
☆
二年前――高校一年生になった春。僕と明莉は同じ中学から同じ高校へと進学した。
高校生になった僕らにとって、部活選びは重要な意思決定だった。
いろいろ部活を見て回った僕らは、結局二人で放送部に入部することにした。
小学校、中学校と、いつも同じ仲良しグループだった僕と明莉。
映像や音声コンテンツの制作が趣味だった僕と、アナウンサーやDJ、声優の仕事に興味を持っていた明莉。二人が校内放送と映像作品制作を主な活動とする放送部に入部したのは、とても自然な成り行きだった。
高校の部活で目立っていて、話題の中心になるのはいつも体育系だ。それこそ水上の参加するバスケットボール部なんていうのは、花形の一つなんだと思う。
放送部は文化系だから体育系に比べれば基本的には地味な部活だ。それでも文化系の中にあって、この高校の放送部はちょっとばかし目立った存在だった。
週に一回流される校内放送は全校生徒が聞く学校の公共メディア。それが放送部の認知度を高めていた。それから毎年の文化祭で流されるアイキャッチムービーは放送部が制作するというのも伝統的に決まっていた。
そんなこんなで地味な文化系の中でも放送部の存在はちょっと異質な存在だった。
だから部員数も文化系の中ではそこそこいて各学年それぞれ三人から五人ほどいた。
真白先生という女子学生に人気の若い先生を顧問の存在もその存在感に一役買っていた。
放送部は悪い場所じゃなかった。入部してくる女子生徒の中にはそんな真白先生のファンみたいな生徒もいて、不純な感じが無くもなかったけれど、それが部活全体に大きな悪影響を及ぼすほどではなかった。むしろそんな女子生徒の存在がクラブを華やかにしていた。
人間関係もいたって普通。お互いに干渉しすぎずに、それでも逸脱は許さずに、微妙な空気の支配が阿吽の呼吸の中で続いているような感じ。良く言えば平和な集団、悪く言えば村社会。
そんな中に少しばかり面倒な先輩がいた。三年生の佐渡先輩。
ちょっと自己顕示欲の強い先輩で、かつ下級生には不遜な態度を示すことも多い先輩だった。でも映像作品制作のセンスは悪くなくて、その技術的な部分に関しては僕もそれなりの敬意を示していた。
ただ時々自分に都合の良い嘘をつくところがあり、人間的な意味では佐渡先輩のことは好きになれなかった。ただ彼がつく嘘は、いつもそんなに大きなものではなくて「ものの見方の違い」や「勘違い」の範囲におさめられるものがほとんどだった。だから彼が特段の事件を起こして指導されるといったことは無かった。放送部の中でも佐渡先輩の問題に気付かない部員が少なからずいた。
何より佐渡先輩は成績もよくて、外面もよかった。だから、先生方への覚えも悪くなかったのだ。だから教職員含め、ある程度距離のある人間は彼のそういう悪い一面に気づきさえしなかった。――彼と近しい人間は彼のことをそれなりに警戒していたのだけれど。
ここで語るようなものではない小さなトラブルは一年間の間にちょこちょことあった。けれども、それは高校生活を送っていればどんな部活に所属していてもあるようなことだ。総じて僕らは概ね順調で青臭い高校生活を送っていた。――高校一年生の終わりまでは。
高校一年生の冬に事件は起きた。
僕らの部活では、しばしば映像作品を外部のコンテストに投稿する。
それは企業が主催するものであったり、公的な機関が主催するものだったりする。いろいろなコンテストがある。僕らの放送部は毎年同じコンテストに出すというよりかは、その年々の部員の事情に合わせて、出すコンテストを変えていた。
去年、僕らが挑戦したコンテストは非営利団体のとある一般社団法人が主催するコンテストだった。文部科学省が後援しているコンテストで、他のコンテスト以上に公共性の高い箔のついたコンテストだった。
秋口に締め切りのあったそのコンテストに僕と明莉、そしてその他数名の放送部員がそれぞれに作品を応募した。その中に佐渡先輩の名前もあった。
佐渡先輩は三年生だから本来はもう引退の時期だったけれど、早めの推薦入試で有名私立大学への合格を決めていた佐渡先輩は高校生活最後の挑戦として映像作品を投稿したのだ。
真白先生は「あいつも有終の美を飾りたいらしい。まぁ、飾ってもらえるといいな、この放送部室に」と冗談ぽく言っていた。
僕らは放送部として作品投稿前に品評会を持つのが常だった。その会ではお互いの作品の経過を報告しあい、また投稿前にそれぞれの作品を品評しあうのだ。
僕と明莉のグループも、他の二年生や一年生のグループも秋口の締め切り前に、品評会を通してお互いに作品に関して意見を言い合い、より良い作品作りを目指した。
もっとも創作活動にはありがちなことで、皆、締め切りギリギリにならないとちゃんとした完成品を作らない。だから品評し合うのは、途中の半完成品であったり、部分的な映像クリップであったり、プロットを示した絵コンテだったりするのだけれど。――僕はそういう創作における切磋琢磨の場が嫌いではなかった。
ただ僕の視点からすれば、正直なところ、他の部員の作品クオリティは決して高くなくて、高校生が「作ってみました」の域を出るものではなかったのだけれど。
――佐渡先輩の作品を除いては。
佐渡先輩には実力があった。人間としての根本はひん曲がっていると思うのだけれど、より良い作品を作りたいという意思だけは本物だった。
その欲求の根本が灰色の自己顕示欲や承認欲求に支えられているとしても、それで出てくる映像作品が魅力的であればそれでいいと、あの頃の僕は思っていた。
何処か達観して。何処か大人ぶって。
佐渡先輩が在校中最後となるコンテストにどんな作品を投げ入れてくるのか、僕は楽しみにしていた。その作品を投稿前に見せてもらい、それを自分が品評することを楽しみにしていた。何度も言うけれど、僕は佐渡先輩の人間性は嫌いだったけれど、その作品は好きだったから。
放送部に所属する生徒の多くは「放送」という雑駁とした言葉か、真白先生のスター性に惹かれてやってくる。だから僕みたいに映像制作に明確な意思を持っている生徒は少なかった。だからそういう意味で、佐渡先輩も当時の僕にとっては数少ない主たる目的を共有した放送部員だったのだ。――人間的には嫌いだったけれど。
でも去年の秋、佐渡先輩は品評会に作品を持ってこなかった。
「忙しくて制作が間に合っていない」
「三年の最後で忙しい」
「最後だから自分の力だけで仕上げたい」
そんな場当たり的な理由を並べて、部活動の一環である品評会への作品提示を拒んだ。
他人の作品は見て頭ごなしの論評をするくせに、自分の作品は評価の場に晒さない。僕はちょっとその態度に釈然としないものを感じた。
それでも品評会に参加するのが佐渡先輩を除いて二年生と一年生のみということもあり、年上の先輩に苦言を呈するようなことは出来なかった。
一応、真白先生に相談したけれど「まぁ、本人が拒否するなら――強制もしづらいな」と、常識的な反応を返すのみだった。
そして僕らは作品を完成させ、そのコンテストへの応募を終えた。
結局、僕らは応募が完了する最後まで、佐渡先輩の作品を鑑賞することはなかった。
コンテストの審査は応募が締め切られた後に進んでいく。
まず予選があり、受賞の可能性があるものと、そうではないものがより分けられる。
ここは大体クオリティチェックで、僕の印象としては映像作品と呼べるものが残り、「作ってみました」程度の作品は落とされる。
結果は各校に通知される。年末に届いた連絡で、僕と明莉の作品、二年生の先輩の作品、そして佐渡先輩の作品が予選を通過したことが知らされた。
――正直なところ予想通りだった。
品評会で僕は他の生徒の作品は見ていたから、それぞれの作品のクオリティは分かっていた。だからその結果は、とても納得のいくものだった。
佐渡先輩の作品が残ったのも「やっぱりか」と思った。人間的には嫌いだからこそ、彼のことはどこかで仮想敵のライバルみたいに思っている節がある。だからかその活躍に悪い気はしなかった。
それから大晦日とお正月を挟んで、僕らはコンテストの最終結果を待った。
去年のお正月、僕と明莉は他の友達数人と、近所の神社に初詣へと出かけた。
明莉はお正月らしいお洒落をしていて本当に可愛かった。
高校生になってから、どんどん可愛くなる彼女に、僕の中にあった幼馴染としての友情は、すっかりと恋愛感情へと変わっていた。
それはもともとあった庇護欲をより肥大化したものへと変えていて、彼女へと自分の想いを伝えたいという気持ちは日増しに大きなものへと変わっていた。
十年以上の月日によって育てられてた彼女への想いは、どこか自分の手にも負えない存在へと成長を遂げていたのかもしれない。
初詣で告白なんてするのもアリかもしれないなぁ、なんて思ったけれど、他の友達もいたから僕は結局のところ一歩を踏み出せなかった。
今から考えると、あの時一歩を踏み出していたら、――何か変わったのかもしれないな。
一月の学校が始まり。しばらくすると真白先生が吉報を持ってきた。
僕と明莉の作品、そして佐渡先輩の作品が受賞候補に残っているというのだ。
佐渡先輩は審査員特別賞、僕と明莉の作品は佳作。
結果発表はまだ先で、それまでは絶対に秘密ということだった。
連絡の理由は最終選考会議を終えてから行う種々の情報確認だった。
僕らは浮かれた。佐渡先輩よりランクの低い賞なのはちょっとだけ悔しかった。でもそれは仕方ない。
それに佐渡先輩はこれが最後。僕らにはあと二年チャンスがある。
この頃の僕らには明るい未来しか見えていなかった。
初めての受賞。初めて二人で成し遂げた成果。
僕は思った。受賞が決まったら、明莉に告白しよう。
ずっと好きだった。恋人として付き合ってほしい。
――そう告白しようと。
事前連絡から数日が過ぎた頃、コンテスト主催の一般社団法人から職員室に電話がかかってきた。
冬なのにふわふわとした陽気の中にあった僕たちを、その電話が冷たい地面へと叩き落とすことになる。
放課後、放送部室にやってきた真白先生は僕と明莉を呼び出して言った。
「おまえたちの投稿作品に――盗作疑惑が掛かっている」
意味がわからず、僕らはただ首を傾げた。
篠宮明莉が僕の前で胸を開けて別の男に弄られている。
それはきっと現実ではなくて夢の続き。
あの冬の終わりから、僕の悪夢はまだ続いているのだ――きっと。
絡まり合う二人を見ながら、僕の意識は過去の記憶へと落ちていった――。
☆
二年前――高校一年生になった春。僕と明莉は同じ中学から同じ高校へと進学した。
高校生になった僕らにとって、部活選びは重要な意思決定だった。
いろいろ部活を見て回った僕らは、結局二人で放送部に入部することにした。
小学校、中学校と、いつも同じ仲良しグループだった僕と明莉。
映像や音声コンテンツの制作が趣味だった僕と、アナウンサーやDJ、声優の仕事に興味を持っていた明莉。二人が校内放送と映像作品制作を主な活動とする放送部に入部したのは、とても自然な成り行きだった。
高校の部活で目立っていて、話題の中心になるのはいつも体育系だ。それこそ水上の参加するバスケットボール部なんていうのは、花形の一つなんだと思う。
放送部は文化系だから体育系に比べれば基本的には地味な部活だ。それでも文化系の中にあって、この高校の放送部はちょっとばかし目立った存在だった。
週に一回流される校内放送は全校生徒が聞く学校の公共メディア。それが放送部の認知度を高めていた。それから毎年の文化祭で流されるアイキャッチムービーは放送部が制作するというのも伝統的に決まっていた。
そんなこんなで地味な文化系の中でも放送部の存在はちょっと異質な存在だった。
だから部員数も文化系の中ではそこそこいて各学年それぞれ三人から五人ほどいた。
真白先生という女子学生に人気の若い先生を顧問の存在もその存在感に一役買っていた。
放送部は悪い場所じゃなかった。入部してくる女子生徒の中にはそんな真白先生のファンみたいな生徒もいて、不純な感じが無くもなかったけれど、それが部活全体に大きな悪影響を及ぼすほどではなかった。むしろそんな女子生徒の存在がクラブを華やかにしていた。
人間関係もいたって普通。お互いに干渉しすぎずに、それでも逸脱は許さずに、微妙な空気の支配が阿吽の呼吸の中で続いているような感じ。良く言えば平和な集団、悪く言えば村社会。
そんな中に少しばかり面倒な先輩がいた。三年生の佐渡先輩。
ちょっと自己顕示欲の強い先輩で、かつ下級生には不遜な態度を示すことも多い先輩だった。でも映像作品制作のセンスは悪くなくて、その技術的な部分に関しては僕もそれなりの敬意を示していた。
ただ時々自分に都合の良い嘘をつくところがあり、人間的な意味では佐渡先輩のことは好きになれなかった。ただ彼がつく嘘は、いつもそんなに大きなものではなくて「ものの見方の違い」や「勘違い」の範囲におさめられるものがほとんどだった。だから彼が特段の事件を起こして指導されるといったことは無かった。放送部の中でも佐渡先輩の問題に気付かない部員が少なからずいた。
何より佐渡先輩は成績もよくて、外面もよかった。だから、先生方への覚えも悪くなかったのだ。だから教職員含め、ある程度距離のある人間は彼のそういう悪い一面に気づきさえしなかった。――彼と近しい人間は彼のことをそれなりに警戒していたのだけれど。
ここで語るようなものではない小さなトラブルは一年間の間にちょこちょことあった。けれども、それは高校生活を送っていればどんな部活に所属していてもあるようなことだ。総じて僕らは概ね順調で青臭い高校生活を送っていた。――高校一年生の終わりまでは。
高校一年生の冬に事件は起きた。
僕らの部活では、しばしば映像作品を外部のコンテストに投稿する。
それは企業が主催するものであったり、公的な機関が主催するものだったりする。いろいろなコンテストがある。僕らの放送部は毎年同じコンテストに出すというよりかは、その年々の部員の事情に合わせて、出すコンテストを変えていた。
去年、僕らが挑戦したコンテストは非営利団体のとある一般社団法人が主催するコンテストだった。文部科学省が後援しているコンテストで、他のコンテスト以上に公共性の高い箔のついたコンテストだった。
秋口に締め切りのあったそのコンテストに僕と明莉、そしてその他数名の放送部員がそれぞれに作品を応募した。その中に佐渡先輩の名前もあった。
佐渡先輩は三年生だから本来はもう引退の時期だったけれど、早めの推薦入試で有名私立大学への合格を決めていた佐渡先輩は高校生活最後の挑戦として映像作品を投稿したのだ。
真白先生は「あいつも有終の美を飾りたいらしい。まぁ、飾ってもらえるといいな、この放送部室に」と冗談ぽく言っていた。
僕らは放送部として作品投稿前に品評会を持つのが常だった。その会ではお互いの作品の経過を報告しあい、また投稿前にそれぞれの作品を品評しあうのだ。
僕と明莉のグループも、他の二年生や一年生のグループも秋口の締め切り前に、品評会を通してお互いに作品に関して意見を言い合い、より良い作品作りを目指した。
もっとも創作活動にはありがちなことで、皆、締め切りギリギリにならないとちゃんとした完成品を作らない。だから品評し合うのは、途中の半完成品であったり、部分的な映像クリップであったり、プロットを示した絵コンテだったりするのだけれど。――僕はそういう創作における切磋琢磨の場が嫌いではなかった。
ただ僕の視点からすれば、正直なところ、他の部員の作品クオリティは決して高くなくて、高校生が「作ってみました」の域を出るものではなかったのだけれど。
――佐渡先輩の作品を除いては。
佐渡先輩には実力があった。人間としての根本はひん曲がっていると思うのだけれど、より良い作品を作りたいという意思だけは本物だった。
その欲求の根本が灰色の自己顕示欲や承認欲求に支えられているとしても、それで出てくる映像作品が魅力的であればそれでいいと、あの頃の僕は思っていた。
何処か達観して。何処か大人ぶって。
佐渡先輩が在校中最後となるコンテストにどんな作品を投げ入れてくるのか、僕は楽しみにしていた。その作品を投稿前に見せてもらい、それを自分が品評することを楽しみにしていた。何度も言うけれど、僕は佐渡先輩の人間性は嫌いだったけれど、その作品は好きだったから。
放送部に所属する生徒の多くは「放送」という雑駁とした言葉か、真白先生のスター性に惹かれてやってくる。だから僕みたいに映像制作に明確な意思を持っている生徒は少なかった。だからそういう意味で、佐渡先輩も当時の僕にとっては数少ない主たる目的を共有した放送部員だったのだ。――人間的には嫌いだったけれど。
でも去年の秋、佐渡先輩は品評会に作品を持ってこなかった。
「忙しくて制作が間に合っていない」
「三年の最後で忙しい」
「最後だから自分の力だけで仕上げたい」
そんな場当たり的な理由を並べて、部活動の一環である品評会への作品提示を拒んだ。
他人の作品は見て頭ごなしの論評をするくせに、自分の作品は評価の場に晒さない。僕はちょっとその態度に釈然としないものを感じた。
それでも品評会に参加するのが佐渡先輩を除いて二年生と一年生のみということもあり、年上の先輩に苦言を呈するようなことは出来なかった。
一応、真白先生に相談したけれど「まぁ、本人が拒否するなら――強制もしづらいな」と、常識的な反応を返すのみだった。
そして僕らは作品を完成させ、そのコンテストへの応募を終えた。
結局、僕らは応募が完了する最後まで、佐渡先輩の作品を鑑賞することはなかった。
コンテストの審査は応募が締め切られた後に進んでいく。
まず予選があり、受賞の可能性があるものと、そうではないものがより分けられる。
ここは大体クオリティチェックで、僕の印象としては映像作品と呼べるものが残り、「作ってみました」程度の作品は落とされる。
結果は各校に通知される。年末に届いた連絡で、僕と明莉の作品、二年生の先輩の作品、そして佐渡先輩の作品が予選を通過したことが知らされた。
――正直なところ予想通りだった。
品評会で僕は他の生徒の作品は見ていたから、それぞれの作品のクオリティは分かっていた。だからその結果は、とても納得のいくものだった。
佐渡先輩の作品が残ったのも「やっぱりか」と思った。人間的には嫌いだからこそ、彼のことはどこかで仮想敵のライバルみたいに思っている節がある。だからかその活躍に悪い気はしなかった。
それから大晦日とお正月を挟んで、僕らはコンテストの最終結果を待った。
去年のお正月、僕と明莉は他の友達数人と、近所の神社に初詣へと出かけた。
明莉はお正月らしいお洒落をしていて本当に可愛かった。
高校生になってから、どんどん可愛くなる彼女に、僕の中にあった幼馴染としての友情は、すっかりと恋愛感情へと変わっていた。
それはもともとあった庇護欲をより肥大化したものへと変えていて、彼女へと自分の想いを伝えたいという気持ちは日増しに大きなものへと変わっていた。
十年以上の月日によって育てられてた彼女への想いは、どこか自分の手にも負えない存在へと成長を遂げていたのかもしれない。
初詣で告白なんてするのもアリかもしれないなぁ、なんて思ったけれど、他の友達もいたから僕は結局のところ一歩を踏み出せなかった。
今から考えると、あの時一歩を踏み出していたら、――何か変わったのかもしれないな。
一月の学校が始まり。しばらくすると真白先生が吉報を持ってきた。
僕と明莉の作品、そして佐渡先輩の作品が受賞候補に残っているというのだ。
佐渡先輩は審査員特別賞、僕と明莉の作品は佳作。
結果発表はまだ先で、それまでは絶対に秘密ということだった。
連絡の理由は最終選考会議を終えてから行う種々の情報確認だった。
僕らは浮かれた。佐渡先輩よりランクの低い賞なのはちょっとだけ悔しかった。でもそれは仕方ない。
それに佐渡先輩はこれが最後。僕らにはあと二年チャンスがある。
この頃の僕らには明るい未来しか見えていなかった。
初めての受賞。初めて二人で成し遂げた成果。
僕は思った。受賞が決まったら、明莉に告白しよう。
ずっと好きだった。恋人として付き合ってほしい。
――そう告白しようと。
事前連絡から数日が過ぎた頃、コンテスト主催の一般社団法人から職員室に電話がかかってきた。
冬なのにふわふわとした陽気の中にあった僕たちを、その電話が冷たい地面へと叩き落とすことになる。
放課後、放送部室にやってきた真白先生は僕と明莉を呼び出して言った。
「おまえたちの投稿作品に――盗作疑惑が掛かっている」
意味がわからず、僕らはただ首を傾げた。
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