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第九章 逆流
逆流(10)
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二人がキスをしている。
まるで僕に見せつけるように。
明莉はくぐもった声を漏らしながら、両手を振って小さく抵抗する。
でもそれは本気の抵抗からは程遠いものだった。
「やだ、先生っ。――秋翔くんが見ているんですよ。やめてください」
「――じゃあ、彼が見ていない所なら良いのかい? 明莉ちゃん」
離した明莉の唇が半分開く。
傾けた彼女の頭からボブヘアの髪が耳朶に流れる。
後ろから抱きしめられた僕の幼馴染は、真白先生と見つめ合う。
その視線がちらりと一瞬だけ僕の方に動いて、また先生へと戻った。
「そういうわけじゃないんですけど……。あ――そういうわけなのかな?」
「ははは。明莉ちゃんはいつも可愛いね。……君は僕の癒しだよ。――君だけが僕の心に平穏をくれる。――君だけが僕を救ってくれるんだ。だからどんなことがあっても、君のことは僕が守ってあげるからね」
「――真白先生」
明莉の瞳が潤んで、その瞳孔が開く。――純情に濡れた漆黒。
心の柔らかい部分が、真白先生に向けて露出しているみたいだった。
僕は――何も言えずに。ポケットの中のスマートフォンを握りしめる。
とっておきの最終兵器は――あっけなく無効化された。
核兵器は支配を与えるものではなく、戦略的安定性――抑止力を与えるものに過ぎなかった。
核による抑止力が成った後は、社会経済的及び外交的戦略による攻防が雌雄を決する。
ではその最終兵器の行使に頼らず、僕は――明莉を奪い返せるのか?
真白先生は示そうとしているのだろう。――それは否だと。
僕に真白先生の腕の中にある明莉を奪い返すことなんて出来ないのだと。
他の雄へと、性交した雌が自らのものであると、知らしめる表示行為。
この一回り年上の男がやろうとしていることは、――そういうことなのだ。
「――明莉。……駄目だ。駄目なんだ。生徒と教師が付き合っちゃだめなんだ」
新たなカードを手に取れない僕は、ただ竹槍を翳すしかなかった。
――そんなものでB29は落とせないのに。
それが今の僕にできる――全てだった。
「ごめんね、秋翔くん。心配かけてごめんね。幼馴染としてそうやって心配してくれる秋翔くんのこと、本当にありがたいって思うよ? ――でも私は今、真白先生のことを信じたいの。――真白先生のことが好きなの」
「――明莉」
後ろから男に抱きしめられたまま、明莉は天使のような笑顔を浮かべる。
「――だから秋翔くんが持っている動画。やっぱり消してくれたら嬉しいし、私たちのことも応援してくれたら嬉しい」
そうやって僕の幼馴染は純粋な笑顔を浮かべる。画面な中のアイドルみたいに。
「……出来ない。……出来ないよ。明莉。――それは出来ないんだ」
僕は半歩後ずさる。生徒指導室の中央テーブルに体がぶつかった。
「明莉ちゃん。――彼だって急な出来事で頭の整理がつかないんだよ。いくら言葉で語っても、こういう時、人間の脳が理解できる量には限界があるんだよ。分かってあげなさい」
「――でも私、秋翔くんにはちゃんと分かってほしくて。――ちゃんと私の気持ちを分かった上で応援してほしくて」
後ろから覗き込む真白先生を、明莉は振り返る。
十歳ほど年の離れた恋人同士は、そうやって至近距離で見つめ合う。
「うん。そうだね。わかるよ。明莉ちゃんの気持ちはよく分かる。――だから言葉じゃなくってね。はっきりと示してあげる方が、回り回って――彼のためになるんだよ」
「――え? どういうこと……あむっ」
見上げる明莉の唇を、真白先生の唇が覆った。
上から被せるように。明莉の言葉を封じ込めるみたいに。
明莉は目を閉じる。その腰に回す真白先生の腕が彼女を引き寄せた。
そのの接合点は長い時間、繋がったままだった。
二人の内側をざらついた舌が行き来している。
僕はただその様子を、生徒指導室のテーブルに手を突いて見守るしかなかった。
真白先生は言った。これは「三人の進路を決める進路指導」なのだと。
――これが僕に与えられる指導だというのか? 偶然入手した動画を用いて教師に抗い、逆走する運命に抗い、未来を変えようとした僕に、与えられる指導だというのか!?
繋がったまま、彼女の視線がちらりとこちらを伺う。
唇が離される。透明な糸が二人の口の間に渡った。
明莉が目を伏せる。後ろから真白先生が彼女の胸を下から支えるように愛撫し始める。
「だめぇ……先生ぇ。――秋翔くんが見ているよぉ」
「――大丈夫だよ。ううん、だからこそだよ。……彼には言葉で伝えるよりも、ちゃんと見てもらった方が良いと思うんだ。僕と明莉ちゃんが、ちゃんと愛し合っているんだっていうことを」
「――愛し合っていること?」
「そうだよ? ……愛し合っていることさ」
指先が制服越しに見える胸の膨らみを乗り越えて、その上へと滑っていく。
彼女の首周り。少し乱れて第一ボタンが外れたブラウスから首元が覗く。
真白先生の指先がその第二ボタンに掛かった。
彼が手を動かすと、明莉の第二ボタンが外された。
そして次に第三ボタンが――外された。
「――先生。……恥ずかしいよ。幼馴染だけど、高校生になってから秋翔くんにそんな内側まで見られたことない――と思うから。小学生の頃は――いっぱい見られていると思うんだけど……」
「全然大丈夫だよ? 明莉ちゃん。君の彼氏である僕がそれで大丈夫なんだ。――だから君は何も気にすることはないんだよ?」
ブレザーの下で彼女のブラウスが開けられた。
その下から白いキャミソール。そこから透けて白いブラジャーが見える。
――僕は生唾を飲み込んだ。
一旦、彼女の体を離すと、真白先生は明莉のジャケットをそっと脱がせた。
後ろからその袖を引っ張って脱がせる。明莉は抵抗せずその流れに従った。
脱がされた彼女のジャケットは背後の作業台へと無造作に置かれる。
ずっと好きだった僕の幼馴染が前を開けたブラウスとスカートの姿になる。
その姿は――どこか大人っぽかった。
香奈恵さんみたいな意味での成熟を感じたわけではない。
背伸びをして大人になろうとする彼女の心と、十分に発育した体の凹凸が、はちきれそうな果実のみたいに、その果汁を周囲へと放っている。
その明莉の上体をまた後ろから真白先生が抱きしめる。
「――先生ぇ……」
「明莉ちゃん。可愛いよ。素敵だよ。君は――僕のたった一つの拠り所なんだよ」
真白先生が何度も彼女の耳元で囁きかける。
そして明莉の耳朶を甘く噛んだ。
僕の幼馴染は小さくおとがいを逸らす。
そしてそれに抵抗するように――もしくは受け入れるように、背後に回した左手で彼の頭を抱え込んだ。
「くすぐったいです……。恥ずかしいです……」
「それは君が感じている証拠なんだよ? 僕のことを、それに――彼の視線を」
真白先生がちらりとこちらを伺う。
閉じていた明莉のまぶたが開かれ、一瞬だけ僕と目が合った。
でもその視線はすぐに逸らされた。
また顔は伏せられる。――羞恥と快楽と共に。
僕はただ――長い睫毛が伸びた彼女の目を「綺麗だな」と思っていた。
真白先生が彼女のブラウスのボタンを全て外す。
明莉の前面が開けられて、キャミソールに包まれたブラジャーと素肌が露わになる。
――明莉は何かに耐えるように下唇を噛み締めた。
真白先生の左手が彼女の胸元に添えられる。
開かれた手のひらがゆっくりと滑る。
その手はブラジャーの下へと侵入した。
彼女の右の乳房を包む。柔らかそうな白い丘に野蛮な指先が沈みこむ。
「――あっ。せ……先生ぃ」
明莉が小さく声をあげる。
それは柑橘系の果実から弾かれる飛沫のようだ。
男はさらに彼女の果汁を味わおうと手を動かす。
右手をキャミソールの上に這わせて下ろした。
そしてスカートのウエストベルトの隙間から手のひらを差し入れられる。
「……ひゃっ」
明莉が上体を縮こまらせた。そして真白先生の顔を見上げる。
下唇を噛みながら。何かを訴えかけるように。
その抗議めいた表情を優しい笑顔で受け止めて、真白先生はその右手をさらに奥へと差し入れていく。――そして明莉のショーツの中へとその手を滑り込ませた。
「――あぁ……。あっ」
真白先生の指先が、明莉の花唇へと沈み込んでいくいくのが、――なんとなく僕にも分かった。
まるで僕に見せつけるように。
明莉はくぐもった声を漏らしながら、両手を振って小さく抵抗する。
でもそれは本気の抵抗からは程遠いものだった。
「やだ、先生っ。――秋翔くんが見ているんですよ。やめてください」
「――じゃあ、彼が見ていない所なら良いのかい? 明莉ちゃん」
離した明莉の唇が半分開く。
傾けた彼女の頭からボブヘアの髪が耳朶に流れる。
後ろから抱きしめられた僕の幼馴染は、真白先生と見つめ合う。
その視線がちらりと一瞬だけ僕の方に動いて、また先生へと戻った。
「そういうわけじゃないんですけど……。あ――そういうわけなのかな?」
「ははは。明莉ちゃんはいつも可愛いね。……君は僕の癒しだよ。――君だけが僕の心に平穏をくれる。――君だけが僕を救ってくれるんだ。だからどんなことがあっても、君のことは僕が守ってあげるからね」
「――真白先生」
明莉の瞳が潤んで、その瞳孔が開く。――純情に濡れた漆黒。
心の柔らかい部分が、真白先生に向けて露出しているみたいだった。
僕は――何も言えずに。ポケットの中のスマートフォンを握りしめる。
とっておきの最終兵器は――あっけなく無効化された。
核兵器は支配を与えるものではなく、戦略的安定性――抑止力を与えるものに過ぎなかった。
核による抑止力が成った後は、社会経済的及び外交的戦略による攻防が雌雄を決する。
ではその最終兵器の行使に頼らず、僕は――明莉を奪い返せるのか?
真白先生は示そうとしているのだろう。――それは否だと。
僕に真白先生の腕の中にある明莉を奪い返すことなんて出来ないのだと。
他の雄へと、性交した雌が自らのものであると、知らしめる表示行為。
この一回り年上の男がやろうとしていることは、――そういうことなのだ。
「――明莉。……駄目だ。駄目なんだ。生徒と教師が付き合っちゃだめなんだ」
新たなカードを手に取れない僕は、ただ竹槍を翳すしかなかった。
――そんなものでB29は落とせないのに。
それが今の僕にできる――全てだった。
「ごめんね、秋翔くん。心配かけてごめんね。幼馴染としてそうやって心配してくれる秋翔くんのこと、本当にありがたいって思うよ? ――でも私は今、真白先生のことを信じたいの。――真白先生のことが好きなの」
「――明莉」
後ろから男に抱きしめられたまま、明莉は天使のような笑顔を浮かべる。
「――だから秋翔くんが持っている動画。やっぱり消してくれたら嬉しいし、私たちのことも応援してくれたら嬉しい」
そうやって僕の幼馴染は純粋な笑顔を浮かべる。画面な中のアイドルみたいに。
「……出来ない。……出来ないよ。明莉。――それは出来ないんだ」
僕は半歩後ずさる。生徒指導室の中央テーブルに体がぶつかった。
「明莉ちゃん。――彼だって急な出来事で頭の整理がつかないんだよ。いくら言葉で語っても、こういう時、人間の脳が理解できる量には限界があるんだよ。分かってあげなさい」
「――でも私、秋翔くんにはちゃんと分かってほしくて。――ちゃんと私の気持ちを分かった上で応援してほしくて」
後ろから覗き込む真白先生を、明莉は振り返る。
十歳ほど年の離れた恋人同士は、そうやって至近距離で見つめ合う。
「うん。そうだね。わかるよ。明莉ちゃんの気持ちはよく分かる。――だから言葉じゃなくってね。はっきりと示してあげる方が、回り回って――彼のためになるんだよ」
「――え? どういうこと……あむっ」
見上げる明莉の唇を、真白先生の唇が覆った。
上から被せるように。明莉の言葉を封じ込めるみたいに。
明莉は目を閉じる。その腰に回す真白先生の腕が彼女を引き寄せた。
そのの接合点は長い時間、繋がったままだった。
二人の内側をざらついた舌が行き来している。
僕はただその様子を、生徒指導室のテーブルに手を突いて見守るしかなかった。
真白先生は言った。これは「三人の進路を決める進路指導」なのだと。
――これが僕に与えられる指導だというのか? 偶然入手した動画を用いて教師に抗い、逆走する運命に抗い、未来を変えようとした僕に、与えられる指導だというのか!?
繋がったまま、彼女の視線がちらりとこちらを伺う。
唇が離される。透明な糸が二人の口の間に渡った。
明莉が目を伏せる。後ろから真白先生が彼女の胸を下から支えるように愛撫し始める。
「だめぇ……先生ぇ。――秋翔くんが見ているよぉ」
「――大丈夫だよ。ううん、だからこそだよ。……彼には言葉で伝えるよりも、ちゃんと見てもらった方が良いと思うんだ。僕と明莉ちゃんが、ちゃんと愛し合っているんだっていうことを」
「――愛し合っていること?」
「そうだよ? ……愛し合っていることさ」
指先が制服越しに見える胸の膨らみを乗り越えて、その上へと滑っていく。
彼女の首周り。少し乱れて第一ボタンが外れたブラウスから首元が覗く。
真白先生の指先がその第二ボタンに掛かった。
彼が手を動かすと、明莉の第二ボタンが外された。
そして次に第三ボタンが――外された。
「――先生。……恥ずかしいよ。幼馴染だけど、高校生になってから秋翔くんにそんな内側まで見られたことない――と思うから。小学生の頃は――いっぱい見られていると思うんだけど……」
「全然大丈夫だよ? 明莉ちゃん。君の彼氏である僕がそれで大丈夫なんだ。――だから君は何も気にすることはないんだよ?」
ブレザーの下で彼女のブラウスが開けられた。
その下から白いキャミソール。そこから透けて白いブラジャーが見える。
――僕は生唾を飲み込んだ。
一旦、彼女の体を離すと、真白先生は明莉のジャケットをそっと脱がせた。
後ろからその袖を引っ張って脱がせる。明莉は抵抗せずその流れに従った。
脱がされた彼女のジャケットは背後の作業台へと無造作に置かれる。
ずっと好きだった僕の幼馴染が前を開けたブラウスとスカートの姿になる。
その姿は――どこか大人っぽかった。
香奈恵さんみたいな意味での成熟を感じたわけではない。
背伸びをして大人になろうとする彼女の心と、十分に発育した体の凹凸が、はちきれそうな果実のみたいに、その果汁を周囲へと放っている。
その明莉の上体をまた後ろから真白先生が抱きしめる。
「――先生ぇ……」
「明莉ちゃん。可愛いよ。素敵だよ。君は――僕のたった一つの拠り所なんだよ」
真白先生が何度も彼女の耳元で囁きかける。
そして明莉の耳朶を甘く噛んだ。
僕の幼馴染は小さくおとがいを逸らす。
そしてそれに抵抗するように――もしくは受け入れるように、背後に回した左手で彼の頭を抱え込んだ。
「くすぐったいです……。恥ずかしいです……」
「それは君が感じている証拠なんだよ? 僕のことを、それに――彼の視線を」
真白先生がちらりとこちらを伺う。
閉じていた明莉のまぶたが開かれ、一瞬だけ僕と目が合った。
でもその視線はすぐに逸らされた。
また顔は伏せられる。――羞恥と快楽と共に。
僕はただ――長い睫毛が伸びた彼女の目を「綺麗だな」と思っていた。
真白先生が彼女のブラウスのボタンを全て外す。
明莉の前面が開けられて、キャミソールに包まれたブラジャーと素肌が露わになる。
――明莉は何かに耐えるように下唇を噛み締めた。
真白先生の左手が彼女の胸元に添えられる。
開かれた手のひらがゆっくりと滑る。
その手はブラジャーの下へと侵入した。
彼女の右の乳房を包む。柔らかそうな白い丘に野蛮な指先が沈みこむ。
「――あっ。せ……先生ぃ」
明莉が小さく声をあげる。
それは柑橘系の果実から弾かれる飛沫のようだ。
男はさらに彼女の果汁を味わおうと手を動かす。
右手をキャミソールの上に這わせて下ろした。
そしてスカートのウエストベルトの隙間から手のひらを差し入れられる。
「……ひゃっ」
明莉が上体を縮こまらせた。そして真白先生の顔を見上げる。
下唇を噛みながら。何かを訴えかけるように。
その抗議めいた表情を優しい笑顔で受け止めて、真白先生はその右手をさらに奥へと差し入れていく。――そして明莉のショーツの中へとその手を滑り込ませた。
「――あぁ……。あっ」
真白先生の指先が、明莉の花唇へと沈み込んでいくいくのが、――なんとなく僕にも分かった。
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