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第九章 逆流
逆流(2)
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水上からの電話が途絶えてから対面座位の体勢になって森さんに挿入した。
蕩けるようなキスをして、彼女は何度も自分から腰を振った。
二週間前まで、僕らはただの同級生だった。そして彼女は親友の恋人。
それがあの日から転がりだして、知り合いから友人へ、友人から親友へ。
そしてこうして僕らは繋がりあっている。
「――アアァ、気持ちいぃ。気持ちいぃよぅ。秋翔くんっ」
「美樹……美樹……。いくよっ。――受け止めてね」
「う……うん。来てっ! いいよ! いいからぁ!」
「いくっ! ああぁあああぁあっ!」
「んっ……んんん~っ」
彼女のお尻をしっかりと捕まえる。その中にまた僕は精を放った。
二回目だからさっきに比べると量は少なかった。でも僕の子種たちは森美樹の子宮口へと向かって旅立っていった。彼女の膣がそれを優しく受け止めた。
白いキャミソールも脱がせた彼女は全裸だった。もちろん僕も全裸だ。
射精を終えた後、彼女の胸の先端を啄む。森美樹は小さく声を漏らした。
乱れた茶色い髪に手櫛を通すと、彼女はくすぐったそうに目を閉じた。
僕らはそのまましばらく抱き合っていた。お互いの体温で温め合うように。
性行為には及んだものの僕の精液は全て彼女の中に収まった。だから僕らの身体は綺麗なものだった。二人でシャワーを浴びようかどうしようかと相談していると。一階の方から物音が聞こえた。「ただいまー」と女性の声。森美樹の母親が帰ってきたみたいだ。
「――お母さん、帰ってきちゃったみたい……」
「じゃあ、シャワーは……無理だね」
森さんは掛け布団で胸を隠しながら無言で頷いた。
女友達のお母さんとの全裸で初対面を迎える勇気は、僕にもさすがにない。
森さんから貰ったウェットティッシュで股間を拭くと、手早く制服を着た。
森さんも急いで下着を身につけると、パーカーに腕を通してフレアスカートを穿き直す。
「あ……、匂い、……大丈夫かな?」
「あっ、そっか。消さなくっちゃだね――」
香奈恵さんとファミレスの多目的トイレでセックスした時に気付いたのだ。
やっぱりエッチをして精液を注ぐと、刺激臭が女性の身体に残るのだと。
それは性交後の女性特有の匂いによっても、ある程度打ち消される。
でも鼻が利く人ならば簡単に分かってしまうのだと思う。
森さんのお母さんがどういう人なのかは知らない。
でも何も恋人同士でもない僕らが性交したことを知らせる必要はないのだ。
しかも彼女に直接子種を注いだのだということは――尚更。
森さんは本棚の上からファブリーズを取り出すと、しゅっしゅっとベッドの上と自分の服、そして僕の制服へと吹きかけた。
「――ファブリーズしたから……大丈夫なはず」
「森さんって、ファブリーズの力を、強く信じている派?」
「うーん、信者ではないけれど、そこそこ使う派かな~」
「まぁ、何もしないよりかはマシだろうしね……」
僕らは部屋の窓を開けて十分ほど空気を入れ替えた。
そして匂いが抜けるのを待ってから、部屋を出た。
――時計の針はもう七時前を差していた。
「あら、靴がいつもと少し違うと思ったら、洋平くんじゃなかったのね?」
「――あ、お邪魔していました。すみません」
一階のダイニングルームから顔を出したのは中年の女性だった。
森さんのお母さんだと一目見てわかった。茶色い髪の毛に柔らかい笑顔。
あぁ、いい人なんだろうなぁ、と思わせられるそんな笑顔だった。
高校生の娘を持つ母親らしい、いかにもおばさんという感じの人。
――でも、こういう女性の方が、母親としては普通なんだろうな。
若々しすぎる自分の母親の顔を思い出して、ふとそんなことを思った。
おばさんは興味深々といった様子だ。
隣を見ると森さんが何故だかもじもじとしていた。
どう答えたものかと、考えあぐねているみたいに。
――おい、ちょっと。そういう仕草をした方が、怪しまれるでしょうが!
「えっと、森さんが休まれたのでお見舞いに……ね?」
助け舟を出すような感じで、森さんに発言を促す。
「あ、うん。そうなの。悠木くん、お見舞いに来てくれてね」
「――悠木くん、って言うのね?」
お母さんは好奇心に満ちた目で僕を見上げる。
完全にワイドショー好きな主婦の目。
僕が帰った後に森さんが質問攻めにされたりするんだろうなぁ……。
「うん。同じクラスの悠木秋翔くん。洋平の親友で勉強もめっちゃできる優等生なんだよ!」
「優等生って……テストの成績が良いだけの実質問題児だよ。――初めまして、悠木秋翔です。森さんには色々とお世話になっています。あと幼馴染の篠宮明莉と水上の四人で、仲良くさせていただいています」
一応、本当のことを言って、自己紹介をする。
「テストの成績が良いだけ」というのを嫌味と取るか、謙遜と取るかは、おばさん次第だ。でもそれは本当のことで僕は優等生なんかではないのである。
学校の成績通知表を見れば一目瞭然。欠席日数や早退日数なんかが優等生の数値からは程遠い。
「あら、そうなのね。こちらこそ娘がお世話になっております~。……あっ、じゃあ、先週の日曜日にダブルデートで遊園地に行ったって言っていた友達?」
なんだか筒抜けらしい。
そういうことまでお母さんと話せる森美樹は、本当に健全な家庭に育つ健全な女の子だよなぁって思う。
「そうそう。――あ、ごめんね悠木くん、なんか色々喋っちゃっていて」
「別にいいよ? 家族で学校の話とか、友人関係を話すのは、むしろいいことでしょ?」
僕がそう返すと、おばさんは「あらー」と口に開いた手を当てた。
なんだか感心しているご様子。思いがけずおばさんの点数を稼いでしまったらしい。
「なんだかしっかりしてられるのね~、悠木くんって。大人びているっていうか。……あっ、もしかして悠木くんって、PTAで委員をされている悠木奈那さんの息子さん?」
「――え、あ、はい。悠木奈那は僕の母ですが。……母をご存知なんですか?」
「ええ、PTAで、ちょっとお仕事を一緒にしたことがあってねぇ。――お母さん……若くて綺麗な人よね?」
「――ありがとうございます。母に伝えておきます。喜ぶと思います」
初対面の人には必ず言われる母への賛辞だ。耳にタコが出来るほど聞いた。
でも話す側は初めてなのでちゃんと伝えないといけないと思っている。
それに、そういう言葉を伝えれば、母は毎回必ず喜ぶから。
僕の母親のことを知らなかった森さんは「へー、そうなんだー」と興味深そうに聞いていた。そして母親が僕のことを警戒していないことに安堵した様子でもあった。
彼女の膣内には今だって白濁色の僕の精液が満ちているのだ。
娘が彼氏でもない男に種付けされたと知って何も感じない親はいないだろう。
――あ、いや、僕の母親ならば、――もしくは。
「悠木くんは、めっちゃ頭良くてね。バスケットボール部で忙しい洋平のかわりに、あーしに最近勉強を教えてくれるんだぁ」
「まぁ、そうなの。奈那さんの息子さんならさぞかし頭も良いでしょうし、それは是非是非ね。来年は大学受験ですし、この子の成績は……ねぇ、ご存知かも知れませんけど、私、心配しているのよ? まぁ、この母にしてこの娘ありだから、自分の高校生時代を振り返ると何も言えないんですけどね~。ほほほ……」
おばさんはそう言って明るく笑った。
なんだか良いお母さんだな、って思った。
「はい。僕も教えることは良い復習になるので。お世話になった分はちゃんと教えることで返そうかなって思っています。――いつもは放課後の図書室とかでやるんですけれど、もしかしたらまたお邪魔するかもしれませんので、その時はまたよろしくお願いします」
「はいはい。――いつでも来てね、悠木くん。もう覚えたから~」
そう言っておばさんはなんだか楽しそうに、森さんに目配せをしていた。
森さんはなんだか恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていた。
ベッドの上での照れ笑いとはまた違う照れ笑いだったから、照れ笑いにもいろんな種類があるんだなぁ、なんてどうでもいいことを僕は考えた。
それからもう一度挨拶をすると、僕は靴を履いて玄関から外に出た。
道路まで出ると、日は落ちていて風は冷たかった。
サンダルを履いたパーカー姿の森さんが門扉まで出てきてくれた。
「――ごめんね。お母さんがなんだか要らないこと言って」
「全然いいよ。いいお母さんだね」
「そう? 普通だよ~。悠木くんのお母さんこそ、なんだか凄い人みたいだね?」
「全然凄くないよ。……普通のお母さんのほうが、きっと――絶対にいいよ」
僕はそう言って苦笑いを浮かべた。
森さんは少し不思議そうな表情を作ったが、それ以上尋ねてはこなかった。
「――じゃあ行くね。明日は、学校でちゃんと会えるよね?」
「うん、ありがと。お陰さまで元気出たから、きっと行くよ。――今日の急な出来事で身体がびっくりして、また発熱でも起きない限りはね!」
「あはは。そうなったら僕が責任取らなきゃいけないね――」
「うん。そーだよ。どうにかなったら、悠木くんが責任とってくれなくちゃ、なんだからね~。ニシシ」
それはきっと違う意味も含まれた「責任」という言葉だった。
門扉の前で彼女が僕を見上げる。それは何だか僕に縋るような視線だった。
僕はその唇に――そっとキスをする。
呆然とする彼女に背を向けて、僕は手を振りながら駅へと歩きだした。
冬の風が吹く。駅へ続く街路にもうほとんど人通りは無かった。
両手を制服ズボンのポケットに突っ込みながら、気持ちよく風を浴びる。
性行為後の身体は、まだやっぱり火照っていたから。
駅が近づいたあたりでポケットの中の携帯電話が震えた。
取り出してみると、LINEのメッセージ通知だった。――森さんからだった。
『誰かに見られていたら、どうするのよ~!!』
メッセージと共に怒っているウサギのスタンプが送られてきた。
僕はテヘペロと舌を出すクマのスタンプを返しておいた。
一瞬「森ちゃんが可愛かったから、つい」などと返そうかとも思ったけれど、彼女のLINEを水上が覗いたりすることがあるかもしれない。――一応、その可能性は警戒しておいた。
でも森さんは、こういう普通なところが可愛いなと思うのだ。
もしこの世界に篠宮明莉が存在しなければ、森さんを恋人にしたいと思うかもしれない。
――そんな風にさえ思った。
その時、携帯がまた着信を知らせた。今度は音声通話だ。画面を見る。
発信者は――真白香奈恵だった。
蕩けるようなキスをして、彼女は何度も自分から腰を振った。
二週間前まで、僕らはただの同級生だった。そして彼女は親友の恋人。
それがあの日から転がりだして、知り合いから友人へ、友人から親友へ。
そしてこうして僕らは繋がりあっている。
「――アアァ、気持ちいぃ。気持ちいぃよぅ。秋翔くんっ」
「美樹……美樹……。いくよっ。――受け止めてね」
「う……うん。来てっ! いいよ! いいからぁ!」
「いくっ! ああぁあああぁあっ!」
「んっ……んんん~っ」
彼女のお尻をしっかりと捕まえる。その中にまた僕は精を放った。
二回目だからさっきに比べると量は少なかった。でも僕の子種たちは森美樹の子宮口へと向かって旅立っていった。彼女の膣がそれを優しく受け止めた。
白いキャミソールも脱がせた彼女は全裸だった。もちろん僕も全裸だ。
射精を終えた後、彼女の胸の先端を啄む。森美樹は小さく声を漏らした。
乱れた茶色い髪に手櫛を通すと、彼女はくすぐったそうに目を閉じた。
僕らはそのまましばらく抱き合っていた。お互いの体温で温め合うように。
性行為には及んだものの僕の精液は全て彼女の中に収まった。だから僕らの身体は綺麗なものだった。二人でシャワーを浴びようかどうしようかと相談していると。一階の方から物音が聞こえた。「ただいまー」と女性の声。森美樹の母親が帰ってきたみたいだ。
「――お母さん、帰ってきちゃったみたい……」
「じゃあ、シャワーは……無理だね」
森さんは掛け布団で胸を隠しながら無言で頷いた。
女友達のお母さんとの全裸で初対面を迎える勇気は、僕にもさすがにない。
森さんから貰ったウェットティッシュで股間を拭くと、手早く制服を着た。
森さんも急いで下着を身につけると、パーカーに腕を通してフレアスカートを穿き直す。
「あ……、匂い、……大丈夫かな?」
「あっ、そっか。消さなくっちゃだね――」
香奈恵さんとファミレスの多目的トイレでセックスした時に気付いたのだ。
やっぱりエッチをして精液を注ぐと、刺激臭が女性の身体に残るのだと。
それは性交後の女性特有の匂いによっても、ある程度打ち消される。
でも鼻が利く人ならば簡単に分かってしまうのだと思う。
森さんのお母さんがどういう人なのかは知らない。
でも何も恋人同士でもない僕らが性交したことを知らせる必要はないのだ。
しかも彼女に直接子種を注いだのだということは――尚更。
森さんは本棚の上からファブリーズを取り出すと、しゅっしゅっとベッドの上と自分の服、そして僕の制服へと吹きかけた。
「――ファブリーズしたから……大丈夫なはず」
「森さんって、ファブリーズの力を、強く信じている派?」
「うーん、信者ではないけれど、そこそこ使う派かな~」
「まぁ、何もしないよりかはマシだろうしね……」
僕らは部屋の窓を開けて十分ほど空気を入れ替えた。
そして匂いが抜けるのを待ってから、部屋を出た。
――時計の針はもう七時前を差していた。
「あら、靴がいつもと少し違うと思ったら、洋平くんじゃなかったのね?」
「――あ、お邪魔していました。すみません」
一階のダイニングルームから顔を出したのは中年の女性だった。
森さんのお母さんだと一目見てわかった。茶色い髪の毛に柔らかい笑顔。
あぁ、いい人なんだろうなぁ、と思わせられるそんな笑顔だった。
高校生の娘を持つ母親らしい、いかにもおばさんという感じの人。
――でも、こういう女性の方が、母親としては普通なんだろうな。
若々しすぎる自分の母親の顔を思い出して、ふとそんなことを思った。
おばさんは興味深々といった様子だ。
隣を見ると森さんが何故だかもじもじとしていた。
どう答えたものかと、考えあぐねているみたいに。
――おい、ちょっと。そういう仕草をした方が、怪しまれるでしょうが!
「えっと、森さんが休まれたのでお見舞いに……ね?」
助け舟を出すような感じで、森さんに発言を促す。
「あ、うん。そうなの。悠木くん、お見舞いに来てくれてね」
「――悠木くん、って言うのね?」
お母さんは好奇心に満ちた目で僕を見上げる。
完全にワイドショー好きな主婦の目。
僕が帰った後に森さんが質問攻めにされたりするんだろうなぁ……。
「うん。同じクラスの悠木秋翔くん。洋平の親友で勉強もめっちゃできる優等生なんだよ!」
「優等生って……テストの成績が良いだけの実質問題児だよ。――初めまして、悠木秋翔です。森さんには色々とお世話になっています。あと幼馴染の篠宮明莉と水上の四人で、仲良くさせていただいています」
一応、本当のことを言って、自己紹介をする。
「テストの成績が良いだけ」というのを嫌味と取るか、謙遜と取るかは、おばさん次第だ。でもそれは本当のことで僕は優等生なんかではないのである。
学校の成績通知表を見れば一目瞭然。欠席日数や早退日数なんかが優等生の数値からは程遠い。
「あら、そうなのね。こちらこそ娘がお世話になっております~。……あっ、じゃあ、先週の日曜日にダブルデートで遊園地に行ったって言っていた友達?」
なんだか筒抜けらしい。
そういうことまでお母さんと話せる森美樹は、本当に健全な家庭に育つ健全な女の子だよなぁって思う。
「そうそう。――あ、ごめんね悠木くん、なんか色々喋っちゃっていて」
「別にいいよ? 家族で学校の話とか、友人関係を話すのは、むしろいいことでしょ?」
僕がそう返すと、おばさんは「あらー」と口に開いた手を当てた。
なんだか感心しているご様子。思いがけずおばさんの点数を稼いでしまったらしい。
「なんだかしっかりしてられるのね~、悠木くんって。大人びているっていうか。……あっ、もしかして悠木くんって、PTAで委員をされている悠木奈那さんの息子さん?」
「――え、あ、はい。悠木奈那は僕の母ですが。……母をご存知なんですか?」
「ええ、PTAで、ちょっとお仕事を一緒にしたことがあってねぇ。――お母さん……若くて綺麗な人よね?」
「――ありがとうございます。母に伝えておきます。喜ぶと思います」
初対面の人には必ず言われる母への賛辞だ。耳にタコが出来るほど聞いた。
でも話す側は初めてなのでちゃんと伝えないといけないと思っている。
それに、そういう言葉を伝えれば、母は毎回必ず喜ぶから。
僕の母親のことを知らなかった森さんは「へー、そうなんだー」と興味深そうに聞いていた。そして母親が僕のことを警戒していないことに安堵した様子でもあった。
彼女の膣内には今だって白濁色の僕の精液が満ちているのだ。
娘が彼氏でもない男に種付けされたと知って何も感じない親はいないだろう。
――あ、いや、僕の母親ならば、――もしくは。
「悠木くんは、めっちゃ頭良くてね。バスケットボール部で忙しい洋平のかわりに、あーしに最近勉強を教えてくれるんだぁ」
「まぁ、そうなの。奈那さんの息子さんならさぞかし頭も良いでしょうし、それは是非是非ね。来年は大学受験ですし、この子の成績は……ねぇ、ご存知かも知れませんけど、私、心配しているのよ? まぁ、この母にしてこの娘ありだから、自分の高校生時代を振り返ると何も言えないんですけどね~。ほほほ……」
おばさんはそう言って明るく笑った。
なんだか良いお母さんだな、って思った。
「はい。僕も教えることは良い復習になるので。お世話になった分はちゃんと教えることで返そうかなって思っています。――いつもは放課後の図書室とかでやるんですけれど、もしかしたらまたお邪魔するかもしれませんので、その時はまたよろしくお願いします」
「はいはい。――いつでも来てね、悠木くん。もう覚えたから~」
そう言っておばさんはなんだか楽しそうに、森さんに目配せをしていた。
森さんはなんだか恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていた。
ベッドの上での照れ笑いとはまた違う照れ笑いだったから、照れ笑いにもいろんな種類があるんだなぁ、なんてどうでもいいことを僕は考えた。
それからもう一度挨拶をすると、僕は靴を履いて玄関から外に出た。
道路まで出ると、日は落ちていて風は冷たかった。
サンダルを履いたパーカー姿の森さんが門扉まで出てきてくれた。
「――ごめんね。お母さんがなんだか要らないこと言って」
「全然いいよ。いいお母さんだね」
「そう? 普通だよ~。悠木くんのお母さんこそ、なんだか凄い人みたいだね?」
「全然凄くないよ。……普通のお母さんのほうが、きっと――絶対にいいよ」
僕はそう言って苦笑いを浮かべた。
森さんは少し不思議そうな表情を作ったが、それ以上尋ねてはこなかった。
「――じゃあ行くね。明日は、学校でちゃんと会えるよね?」
「うん、ありがと。お陰さまで元気出たから、きっと行くよ。――今日の急な出来事で身体がびっくりして、また発熱でも起きない限りはね!」
「あはは。そうなったら僕が責任取らなきゃいけないね――」
「うん。そーだよ。どうにかなったら、悠木くんが責任とってくれなくちゃ、なんだからね~。ニシシ」
それはきっと違う意味も含まれた「責任」という言葉だった。
門扉の前で彼女が僕を見上げる。それは何だか僕に縋るような視線だった。
僕はその唇に――そっとキスをする。
呆然とする彼女に背を向けて、僕は手を振りながら駅へと歩きだした。
冬の風が吹く。駅へ続く街路にもうほとんど人通りは無かった。
両手を制服ズボンのポケットに突っ込みながら、気持ちよく風を浴びる。
性行為後の身体は、まだやっぱり火照っていたから。
駅が近づいたあたりでポケットの中の携帯電話が震えた。
取り出してみると、LINEのメッセージ通知だった。――森さんからだった。
『誰かに見られていたら、どうするのよ~!!』
メッセージと共に怒っているウサギのスタンプが送られてきた。
僕はテヘペロと舌を出すクマのスタンプを返しておいた。
一瞬「森ちゃんが可愛かったから、つい」などと返そうかとも思ったけれど、彼女のLINEを水上が覗いたりすることがあるかもしれない。――一応、その可能性は警戒しておいた。
でも森さんは、こういう普通なところが可愛いなと思うのだ。
もしこの世界に篠宮明莉が存在しなければ、森さんを恋人にしたいと思うかもしれない。
――そんな風にさえ思った。
その時、携帯がまた着信を知らせた。今度は音声通話だ。画面を見る。
発信者は――真白香奈恵だった。
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