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第三章 動画

動画(7)

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「――本気なの?」


 香奈恵さんの顔には驚きと戸惑いの色が満ちる。
 ――その中に住まう一片の軽蔑。
 それが僕の嗜虐性をを刺激する。


「本気ですよ。――香奈恵さん」


 顰める眉。懊悩に潤んだ瞳が見つめ返す。

 僕がこの年上の女性に投げかけているのは憎悪ではない。
 むしろ憐れみであり、慈しみだ。

 少し開く彼女の紅い唇に、愛欲が刺激される。


 髪は長くて、明莉のボブヘアとは似ても似つかない。
 それでも目の前の女性は、僕の男性自身を刺激するには十分に蠱惑的だった。

 下腹部の奥に、熱の塊が蠢く。
 股間の僕自身が、凝固していく。

 情熱が、制服のズボンを押し上げた。


「それって、あなたに……その、口でしろってこと?」


 まだ聞き間違いか何かだとでも思っているのだろうか?
 この状況からすれば当然の成り行きで、僕の要求は極めて自然なものなのに。

 明莉の唇を真白先生に奪われた。
 だから僕は香奈恵さんの唇を奪い返す。
 こんなに分かりやすいことはない。


「そうですよ? 僕の明莉は、真白先生――あなたの夫の男性器を咥えさせられた。しゃぶらされた。だから僕は真白先生の香奈恵さんに、同じことをしてもらう。公平性も、正当性も、十分にある要求だと思いますけれど?」
「――公平性? ……正当性?」


 両手をお尻の左右に突いたまま、僕の顔を覗き込む。
 納得いかないという様子の香奈恵さん。

 もし納得いかなくても――僕は議論に興じるつもりはないのだけれど。

 これは僕からの要求なのだ。
 交渉の余地など――存在しない。


「そうです。明莉が真白先生にさせられたように、あなたが僕のアソコを咥えてください。アソコをしゃぶってください。――そして僕を悦ばせてください」
「――悠木くんは、それが誠人さんへの復讐になるって……そう考えているの? 私に彼を裏切らせて、フェラチオさせることが?」
「……そうですよ?」
「私を口を、慰みものにすることが?」
「はい」


 真白香奈恵は下唇を噛む

 視線を落として何かを考えているようだ。

 その苦悩する様子は、――美しかった。

 虚ろだった瞳に苦悶が宿る。
 懊悩の中に昏い光が灯る。
 

 ――生命とは苦しみに抗う時、その輝きを最も美しく放つのだ。

 何処かの哲学者が言っていたそんな言葉を、今、思い出した。


「でも、慰みものっていうだけじゃなくて、僕が香奈恵さんに口でしてほしいって気持ちは、本当ですよ?」
「――それ言ってること、変わっていないわよ? 悠木くん」
「……そうでしょうか?」
「そうよ」


 僕の肉棒は待ちきれずに勃起している。

 さっき嗅いだ彼女の匂いが、また漂ってくる。

 女性の香りは良い匂いとかいうだけじゃない。
 生々しくて、肉体的なものだと知った。


「もし私がフェ……フェラチオをしなかったら、あなたはその動画を――」
「校長先生なり教育委員会なりに提出します。もしくは公開します」


 即答だ。言うまでもない。


「――でも、そんなことをしたら、あなたの好きな篠宮明莉さん? だって、ただじゃ済まないんじゃない? ね?」


 平凡な抵抗。再考するまでもない。


「――なんとかします」
「……なんとかって」
「香奈恵さん、忘れているかもしれませんけど、僕は元放送部ですし一人で映画を作るくらいの映像屋なんですよ? モザイクやぼかし、カットを使った編集くらい造作もないんです」


 それでもきっと本当に提出や公開を行えば、犯人探しは間違いなく始まる。

 だから明莉は無傷ではいられないだろう。


 でもそれはもう考え終えた可能性で、彼女に抱かせる疑問ではない。

 僕自身にとってこれは、選び終えた選択なのだ。
 そして貴女は、一方の選択肢しか選べない。


「僕がこの動画を提出したら、間違いなく真白先生は退職を余儀なくされるでしょう。軽くても停職や休職。――どっちにしろ教師は続けられない。……それは香奈恵さんとっても困るんでしょう?」
「――それは、その通りよ……」


 彼女は観念したように、息を吐いた。


「確認するけれど、私があなたのおちんちん舐めて、……今日、口でしてあげたら、もう、その動画は提出とか公開とか、しないでいてくれるのよね?」


 前屈みに、縋るように尋ねる彼女。

 白いニットに胸の膨らみが強調される。


「――約束します。僕はこの動画を決して、学校や教育委員会へ提出したりしません」


 僕は真剣な表情を作る。
 ここは信じてもらわなければ始まらないのだ。

 約束には信頼関係が必要なのだ。


 彼女はソファの上で目を閉じた。

 心臓の音が三度ほど鳴った。

 やがて決意したように、彼女はその瞼を開いた。

 黒い目に底の無い光を宿して。


「わかった。するわ。してあげる。悠木くんのあそこを――気持ち良くしてあげる」


 そう言って、真白香奈恵は立ち上がった。

 形の良いお尻が、黒いスキニージーンズに包まれて、僕の目の前に持ち上がった。
 触れたくなる、柔らかそうな膨らみだった。


 香奈恵さんは腰に手を当てて、振り返った。
 表情は、どこか吹っ切れた様子だった。

 大人の女性が年下の高校生の相手をする、そんな余裕さえ感じられた。


 僕はといえば、その逆だ。
 そうと決まれば、今度は迫ってきた現実にドギマギしてしまう。


 勢い込んで彼女の唇を求めたものの、僕自身にそんな体験は無い。

 フェラチオだって、セックスだって経験は無い。
 純朴な青春時代を生きる、ごく普通な男子高校生なのである。

 
 実質的に幼馴染の篠宮明莉への想いが初恋で、その恋も告白にさえ到達していない。
 だから僕に性行為の経験なんてあろうはずもない。

 僕は童貞なのだ。チェリーボーイなのだ!


「シャワーは浴びる?」
「……え?」


 何気なく問いかける香奈恵さん、僕は驚いて声をあげた。
 そんなこと考えてもいなかったから。


「……あ、さすがにそれは大仰かな。悠木くん、着替えも無いもんね」
「はい。でも、何故、シャワー?」
「ていうか私、誠人さんにフェラチオなんてエッチの時にしかしことがないし。エッチの前には、普通、シャワーを浴びるから。……どうなのかなって」


 そういうものなのか。
 そういうものなんだろうな。

 僕には知識も経験も無いから、香奈恵さんのリードに委ねるしかない。


「僕は……どちらでもいいです」
「そう? 私はあんまり清潔じゃないあそこを口にしたくないから洗ってほしいけど……。まぁ、ウェットティッシュで拭くくらいにしようかな?」
「あ、はい。それでお願いします」


 さすがに今から真白先生の家でシャワーを浴びるのは、ちょっと身構えてしまう。

 それにこの流れで全裸になってシャワーを浴びたら、止まれなくなる気がした。
 僕の中の性衝動が、更に先へと、この身体を突き動かしてしまいそうに思われた。


「――じゃあ、その場所でいい? 座っておいてくれたらいいから」
「――はい」


 彼女は中指で長い髪を左耳に掛ける。
 机の上のウェットティッシュのボックスを取ると、それを絨毯の上に置いた。


 そして僕の前へと跪く。
 制服のズボンを穿いた僕。
 その両膝に、彼女は手のひらを当てると、そっと左右に開いた。

 僕はその動きに委ねるように、股を開く。

 開脚した太腿の付け根――僕の股間は明らかに盛り上がっている。
 僕の分身がちょっとした尾根を作っていた。


「――もう元気じゃん?」
「……香奈恵さんに、興奮していたんです」
「そんなこと言っていると、明莉さんに嫌われるわよ?」


 僕の膝の間から、香奈恵さんが僕を見上げる。

 学校の同級生たちの中に混じっても、彼女は一際美しく見えるだろう。
 同じ学年の女子生徒たちよりも、ひとまわり大人な女性。


 そんな彼女の右手が天の岩戸へと近づいていく。
 ――僕の分身が閉じ込められた天の岩戸へと。

 彼女の指先が踊り、股間のファスナーへ向かう。

 彼女の吐息が音を立てて、無言のメロディーを奏でる。

 彼女の上気した表情が全てをさらけ出し、僕を口淫のハーモニーへと誘う。

 やがて彼女の人差し指が僕の下腹部に到達する。
 つままれたスライダーは緩やかに引きずり下ろされていく。


 そして天の岩戸は開かれた。


 彼女の指先がブリーフの隙間から滑り込み、僕の分身を捕まえる。
 拘束から放たれた僕自身は、彼女の滑らかな手に導かれ、外の世界へ飛び出した。


「――あ、……大きい」


 小さく彼女が吐息を漏らす。


「……そうですか?」
「あ、……うん。まぁね……」


 肉棒は彼女の手に包まれる。
 少し冷たいけれど優しくて、安堵感を興奮の中に覚える。

 褐色の皮に包まれた先端を親指と人差し指で丸く囲む。
 直立した男の昂りに沿わせて、彼女はそれを下へと引きずり下ろした。

 少しの痛みを覚える。
 やがて僕の分身が衣を脱いで、その頭部を現した。

 ――その首元に白い汚れが付着している。


「……ちょっと汚れているね」
「――あっ、……すみません」
「ううん、気にしないで」

 彼女はウェットティッシュのボックスを叩いて蓋を開ける。
 中から数枚のティッシュを引き出すと、丁寧にカリ首回りの恥垢を拭った。
 ソファ脇の小さなゴミ箱に使い終わったティッシュを捨てる。

 それから彼女は、その顔を、右手で握りしめた僕の肉棒へと――近づけた。
 彼女の唇が、僕の亀頭へと、キスするように触れる。


「……うっ!」


 思わず声を漏らした。
 左手で髪を掻き上げた香奈恵さんは、上目遣い僕の顔を見上げると、少し微笑む。


 そして彼女は、ゆっくりと丸く、――唇を開いた。
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