幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

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第5章

行商見習い

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詳細な話し合いの結果、トーレがフィンリーの両親に先ずは手紙で打診し、その結果次第で預けることになった。
幻獣士ギルドでは時間停止のマジックバックの確保と、フィンリーの特訓が急務となった。
トーレに預けるまでに、幻獣達との最低限の連携などを確認しなければならない。
同期の2人は経験者だが、フィンリーだけは未経験だからだ。
正式に決まるまでは本人フィンリーにはトーレのことは伏せて、午前中の訓練は保護施設の元幻獣使いの手伝いを兼ねて行うように変更になった。
「銀狼は体色のため目立つ。だから気配や足音を隠すのが上手い種族で、足も狼型の中では早い。ただ、幼少期に人間に飼われていた影響がどこまであるか分からないから一般的な狼型の特徴を教える。」
作業は幼狼の世話やブラッシングを教わった。
フィンリーの仕事中兄妹は、狼系の幻獣を持つ幻獣士や幻獣使いと一緒に森での狩りの仕方を練習をしていた。
午後からはアドバイスをもとに狼兄妹の能力の確認をした。
今までは念話の練習がメインだった。
《アンバル、何が得意?》
《走るのが得意!》
《ヴェルデは?》
《探すの》
《じゃあ探す時はヴェルデが先頭で、警戒はアンバルだね。》
《うん》
幻獣士ギルドとしてもフィンリーの様な実務経験のない者と、幻獣も野生としての経験の少ない者の指導方法が今後の一番の課題になる。
フィンリーは幻獣使いの経験はないが、強い熱意を持っていたので試験的に挑戦させたのだ。
二期生からは従魔士や幻獣使いの一定の実務経験者のみに挑戦を許し、経験が少ない幻獣使いや従魔士、従魔士見習いは当面引き受けないと各ギルドへ通知した。
トーレよりフィンリーの両親と話し合いが済み、条件付きで預かることに決まったという手紙が届いた。
ギルドとの契約は、約3ヶ月間トーレに付いて採取を含めた素材専門の行商人としての資質を確認すること。
契約期間内の経費については、迎えに来るまでに本人が迷いの森で採取した素材代金を充て、残りはトーレが立て替え幻獣士ギルドと折半することになった。
ギルド製の軟膏やポーションを販売した手数料を契約終了後にフィンリーの給与とし、自身が採取した素材の代金の一部を小遣いとして、残りはトーレがもらうことになった。
その話しを本人フィンリーにすると喜び、迎えに来るまでの間に付き添いの幻獣士か、幻獣使いが手配出来た日は試練の森での採取訓練を精力的に行った。
迎えに来た時には何とか最低限の技量は身についた。
「素材専門の行商人のトーレだ。今日から3ヶ月間素材採取や行商人としての資質を見させてもらう。
厳しくチェックするからそのつもりで。」
「はい、頑張ります。よろしくお願いします。」
アンバルとヴェルデもフィンリーの左右にお座りの状態で一緒に頭を下げていた。
1人と2匹の様子を周りの大人達は一瞬だけ微笑ましそうな表情を見せた。
最初の10日程は幻獣士の冒険者が護衛を務め、護衛との付き合い方や協力の仕方を教えたり、野営などの知識の確認や問題点の指導を受ける予定だ。
フィンリーの行商見習い初日はリベルタの商業ギルドにトーレの臨時の見習い登録をすることだった。
地元で見習いの登録をして以来なので緊張した。
契約内容や期間を商業ギルドで確認・登録してもらうためだ。
リベルタではレナードに絶大な信用があるため、本人に通信で確認を取るだけですんなり許可が降りた。
商業ギルドでマジックバックの期間登録も済ませ、頼まれた納品分も納めた。
明日からいよいよ見極めのための修行が始まる。
翌日からは基本的に野営になる。
大きなギルドがある町以外は、町や村の中であっても広場に泊まる。
フィンリーが一人前になった時のことを想定した実地検証の側面もあるからだった。
フィンリーは野営については自信があった。
小さな頃から良く両親と行商の旅をしていたから。
トーレはわざと便利な機能の野営グッズを一切用意せず、初心者の行商人や冒険者が使う普通の野営道具など最低限の装備品のみを用意した。
護衛の幻獣士にも自身の使用以外はグッズを控える様に頼んであった。
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