幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

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第4章

挑戦

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更に別の場所では、冒険者の戦士職で相棒の幻獣を老衰で失った竜人族のチェレスティーナが歩いていた。
チェレスティーナの前の相棒は変異種の小型猛禽類で、雛の時に巣から落ちたのを偶然通りかかりキャッチして育てた。
野生動物は弱い変異種の育児放棄をすることがあり、親鳥は落ちた子を探すことがなかった。
苦労して成体になった後は良い仕事の相棒だった。
寿命が長い竜人族にとっては15年弱は短い時間だが、ある日の朝巣の中でぐったりしているのを見つけたが、発見が遅く『主様』の一言が最期の言葉で手の中で段々冷たくなっていった。
同僚に生まれたばかりのもっと長命の幻獣を勧められたが、猛禽類以外の相棒を持つつもりはなかったので断った。
新しい相棒を求めて幻獣士ギルド本部に来て、少なくとも2羽の猛禽類を保護して、幻獣エリアに居ると聞き挑戦することに決めた。
現時点での幻獣士は2種族以上か、同じ種族の群れと契約している者が多い。
幻獣使いは3年~5年で仮契約が切れ、更新してもらえるかは個体によって決まるため、余裕がある者は複数としていたためだ。
私はどちらにしても最初の本契約は猛禽類と心に強く決めている。
前の相棒を思い出せる様にだ。
仮契約では片言しか聞こえなかったし、離れ過ぎてしまうと存在は分かるが声が届かなかった。
もっと繋がっていればもう少し早く気付けて最期に何を言いたかったか聞けたかもしれないと、本契約のことを知った時に思った。
見えない場所まで行っても繋がるのを体感したいし、飛んで行く姿を見て前の相棒も思い出せるだろう。
どこでも、どんな些細なことでも良いから、前の相棒と同じところがある幻獣が良いと強く強く願った。
その思いが通じチェレスティーナには銀鷹1羽と銀梟1羽が接触して来た。
見下ろす様に目の前の大木に止まった銀鷹1羽と銀梟は、種族こそ違うが同じ屋敷の同じ部屋で鑑賞用兼品評会用として雛の頃に攫われて育った。
親元で狩りの仕方を教わっていた同室の他の猛禽類や鳥類の幻獣や変異種は故郷や似た環境の森に戻って行った。
しかし離乳食を卒業してなんとか飛べる様になったばかりで2羽共攫われたため、いくら食事が魔素でも生きられるとはいえ、狩猟本能はあってもどうやれば狩りを成功させられるのか分からず、保護されてからまるで兄弟の様に寄り添って過ごして来た。
保護された鳥類は他には小型種しかおらず、狩りを教えてくれる者も居なかったから主人が欲しかった。
チェレスティーナからは前の相棒の猛禽類の残り香がしたため、2羽は姿を現してみたのだ。
チェレスティーナはずっと木の上の方ばかりを見ていたので、少し離れていても直ぐに見つけることが出来た。
《初めまして。聞こえますか?》
《聞コエル》
答えたのは大きく見える方だった。
離れた大木の上の方なのではっきりした種族は判らなかった。
《お姿が良く見えないのでもう少し近付いてもいいですか?》
《下ニ行ク》
そう言うや大きい方が数百mのところまで降りて来た。
ギリギリ肩乗せられるくらいの大きさの見事な銀鷹1羽だった。
続く様に隣の枝に小さな方も降り立ったが、小柄な銀梟だった。
《御二方共美しい姿を見せてくれてありがとう。》
《我等ハ雛ノ時ニ捕マッタ。狩リ出来ナイ》
銀鷹から不安気な響きが伝わってきた。
《大丈夫、前の相棒は巣から落ちた雛だったから。君達はちゃんと飛べているから充分だよ》
《前ノ相棒?同じ?》
《飛び方から教えたよ。野生とは違う狩りの仕方かも知れないけど教えるから一緒に頑張らないか?》
《外ニ出レル?》
《あぁ、迷いの森以外でも何処でも行きたいところがあれば連れて行く。
安全を確認出来れば、仕事や訓練の時以外は好きに飛ぶ機会も作ってやるよ》
《鎖ナシデ?》
《もちろん。登録の証の足環は付けるけど、鎖は付けないから安心してくれ》
《止マリ木ホシイ》
突然梟から念話が届いた。
《それぞれ専門のを用意しよう。
契約が終わったら気に入った物を探しに行こう》

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