幻獣士の王と呼ばれた男

瑠璃垣玲緒

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第4章

主人の試練

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幻獣達が仲間に暴力を振われている幻覚を見せられている時、同様に主人であるアーウィンも試されていた。

濃い霧で転倒した時にポケットに入れているサナが怪我をしない様に白狼のところへー行かせた。
サナが飛び降りられる高さに屈むと勢い良く飛んで駆けて行った。
進むに連れて濃くなる霧に、とうとう常に付き添う様に側にいるリーダ-さえ姿が見えなくなった。
繋がっているリーダーとサナ以外の5匹の白狼達の存在が薄れて来て心配になった。
《よう相棒、皆んなは付いて来ているか?》
なんの反応もなければ、気づいたら側に居たはずのリーダーさえも居ない。
慌てて立ち止まり周囲を探る。
霧で視界が遮られただけでなく、感覚も鈍くなっているのかそんなに離れたつもりはないのに、存在を感じられない。
幻獣術は仮契約では視認出来る距離しか繋がらないが、ほんの少し前まで感じていたのに、互いが疾走していない状況で念話が通じないのは異常だった。
注意深く気配を探ると、何体か白狼らしい気配を感じたので歩き始める。
少し霧が薄くなったと思ったら、相棒と群れの白狼が薄っすらと見えた。
ホッとして近付くと突然リーダーが自分に向かって唸って来た。
アーウィンは信じられなかった。
仲間を庇って怪我をしたところを助けて以来、時間をかけて仲良くなって仮契約までした。
それ以降自分に向かって唸ることは一度としてなかったからだ。
リーダーだけでなく他の5匹も警戒するように唸っている。
刺激をしないように立ち止まり、敵意がないことを示すため小さく手を挙げた。
野生の熊なら大きく見せるために腕を伸ばすが、今は攻撃を仕掛けないことを示すためなので、耳の高さくらいの位置である。
《俺が分からないのか?》
優しく問いかけるように念話で話しかけた。
警戒を解くどころか、配下の1匹が襲いかかって来た。
咄嗟に身体を捻って避けたが、次々と飛びかかって来る。
アーウィンは必死になって避け続けた。
何があっても相棒と群れの白狼を傷付ける行為をしてはいけない。
一度でも傷付ければ二度と再契約はしてもらえないからだ。
白狼の猛襲が止んだと思ったら姿が見えなくなっていた。
膝をついて座り込む。
カサカサという音と共に白狼のところへ行かせたサナが現れた。
サナは野うさぎ用の罠に誤って嵌ってしまい衰弱していたところを助けてからの付き合いだ。
鼠型の幻獣は白狼達と比べ寿命が短いし、名付けの仮契約でないと意思疎通が少し難しいため名前がある。
体勢を立て直してサナを呼ぶ。
《サナおいで》
恐怖で固まった時の様にピクリともしない。
近付いて抱き上げると暴れ出した。
《サナ痛かったか?》
必死に逃げようと暴れ回るので指に力を入れたら不快そうな鳴き声をあげた。
慌てて少し緩めると抜け出そうと指を噛まれた。
痛くても放り出すことはせず、更に緩めると抜け出して逃げて行った。
アーウィンは信じている幻獣達の豹変に戸惑っていた。
また霧が濃くなり、そのままでいると相棒の遠吠えが聞こえた。
ハッとして声の聞こえた方向へ走り出す。
気がつくと霧が薄くなっており、しばらくして相棒達の姿が見えた。
先程の態度に刺激をしない様にと手前で止まり念話で話しかける。
《相棒?俺が分かるか?》
《良カッタ、見ツカッタ》
アーウィンはホッとして駆け寄って抱き締めた。
《良かった!さっきは警戒されて困ったよ》
《我モ、ゴ主人様ノ偽物ニ遭ッタ》
《そうか、あれは偽物だったか》
「チュ!」
仲良しの白狼からリーダーの背中に移って来たサナが駆け寄って肩に乗り、首筋に擦り寄って来た。
《そうか、サナも偽物に遭ったんだな》
そうだという意思を伝えて来た。
ひとしきり幻獣と魔獣達を撫で回して立ち上がる。
《さて、行こうか》
互いが見える程度には薄くなった霧の中を進み始めた。

主人と幻獣の絆を試す幻覚は、闇の精霊王のダーストニのもの。
実際にはほとんど移動していないし、痛覚なども幻である。
1ヵ月の期間のみ担当することになった。
それを知るのは精霊王達のみ。
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