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第3章
報い
しおりを挟むそれからしばらくして各地で奇妙な現象が続いた。
同じ日に同じように街道に沿って森の中を移動していても、魔獣に襲われる旅人や商隊がいたり、
普段は魔物が出ない場所で襲われる貴族や冒険者がいたりと常識的に考えられないことが続いた。
また運悪く追われていた商隊を助けたために魔物や魔獣に囲まれても、助けた側の護衛や冒険者は当て身などで意識を刈られても、大怪我を負うのは追われた者達だけだった。
最初の頃は訳が分からず怯えていた人も、おかしな現象に何やら理由があるらしいと感じるようになった。
今まで各地の迷いの森で成果を挙げていたある部隊が、迷いの森から出た後に全滅したことから、ある噂が流れ出した。
『幻獣達に何かをして報復されたのでは?』
と。
その噂は大陸全土に支店のある2つの奴隷商の傘下の商隊だけが執拗に追いかけ回されたり、奴隷を輸送する馬車だけが壊された上に皆殺しにされて更に広まった。
それはもちろん幻獣を無闇やたらに惨殺した部隊や、奴隷の中に幻獣や希少な魔獣の子がいたから殺害されたのだ。
追いかけ回されたのは、直接関係していないが匿ったり、名義を貸したりなど協力した者やその家族や親戚で、かつ、幻獣を蔑む発言や扱いが悪い者達であった。
そして世間では知られてはいないが、本来魔物が出ない場所で襲われた貴族や冒険者達は、実は襲ったのは幻獣であり、水楼で凄惨な映像を繰り返し見せられたことだが、誰もそのことは口にしなかった。
一部の冒険者は心を病み廃業して田舎帰った者もいた。
冒険者の多くは改心したかのように態度が変わったという。
貴族の中には幻獣を怖がり手放す者もいた。
手放された幻獣達はすぐさま冒険者ギルドが手を回して引き取った。
非合法に幻獣を取り扱っていた奴隷商が、この現象で次々に廃業や縮小を余儀なくされた。
そのことで王族や貴族、大商人達から不満が続出した。
特に欲深いスタークツ帝国とアデッソ王国では、軍隊を派遣してでも幻獣を手に入れようと目論んでいた。
スタークツ帝国とアデッソ王国の一部の王族と貴族が、幻獣のキマイラ化による軍隊化の真の黒幕なのだが、そこまでは冒険者ギルドも掴んでいなかった。
「フェンリルの子が手に入ったと聞いたのに、輸送途中で襲われ全滅しただと!」
スタークツ帝国の王族で次期皇帝を狙っている男が、アデッソ王国の侯爵の男と研究所がある、とある小国の離宮跡地の屋敷で叫んでいた。
フェンリルの子を野良犬の子として研究所に納品されると聞き、実験前に姿を見ようとわざわざお忍びでやって来たのに、遅れるだけでも許せないのに、来ないとは腹立たしいと。
「奴隷商も代金は違約金と一緒に返却するから手を引きたいと言っているそうです」
「なんだと!」
「闇ギルドの雇っていた犯罪者集団も、ギルド所属の者も、迷いの森に行った者は帰って来なくなったそうです。
こちらは手付金を返却して来ました」
「やはり金で雇った者達は信用ならんな」
「殿下、この件は手を引いた方が得策かと」
怒鳴られて震えていた研究所の所長は、侯爵の言葉を聞いて青ざめた。
「侯爵様お待ち下さい。
研究を止めよと言うのですか?」
「新しい素材が容易に手に入らない以上、中止するしかありません」
「しかしせっかく人工的に凶魔化する技術は後少しだったろう。
キマイラ計画は凍結するしかないが」
侯爵の言葉に冷静になった王族の男。
「いえ、この計画全てから手を引きましょう。迷いの森がきな臭い。
精鋭部隊さえも森を出た後に全滅したと噂が流れていますから」
「まさか空腹なる吸血姫とあだ名される部隊ではないだろうな」
「そのまさかです、殿下。
だから手を引こうと提案しているのです」
「そうしよう。
そうと決まればここに居てはまずい。
行くぞ」
「殿下、私の別邸へ行きましょう」
足早に部屋を出て行く2人を光るものが追うように付いていく。
室内には長年の研究を突然打ち切られて呆然と床に倒れ込んだ所長だけが取り残された。
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