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第1章
目覚め
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幼獣は全身の痛みでうっすら意識が戻る。
両親に少し遅くなるけど必ず戻って来るから他の仲間達と待っているように言われたのに、突然胸騒ぎがして岩穴から飛び出して夢中になって走った。
母の気配がして気が緩んだ途端に人間に見つかり、攻撃を避け切れずに怪我をした。母が気配に気付き駆け付けて追い払ってくれ、若い雄が首根っこを咥えて逃げてくれた。
少し前までずっと痛くて、寒くて、寂しかった。今度こそ迎えが来るまで待っているように言われが、ひとりぼっちだからすごくすごく長く感じていた。
でも今は前とは違って痛いけど、なんだか温かくなって来て嬉しくなった。
温かさにホッとしていたら、何かが喉の奥に入ってきたので思わず飲み込んだ。そうしたらまた瞼が下がって来て眠たくなり意識を手放した。
「やれやれ、一緒に寝てしまったか」
男は目を覚ますと傷の具合を確認する。真っ赤に染まるほど血が滲んでいる箇所なくホッとする。さっきの水魔法で傷の血止めは上手く出来たらしい。
立ち上がり、食事と採取した素材をしまうため居間を出た。
良い匂いがする。幻獣の多くは普段は魔力や精霊力などや、自然の気を身体に取り込んでいるため食事は特に必要はない。一部特定の物を主食にする種族もいるにはいるが、鋼の森には常時食事を必要とした種族はいなかった。例外的に早く成長したい時や、取り込む気が少ない時は、食べ物で栄養を摂取することがあった。弱っている今は栄養を必要としているため、幼獣は本能から匂いで急に空腹を感じて目が覚めた。
男は今までの経験から幻獣達が食事が基本的には要らないことは知っているが、食べない訳でもないことも知っている。怪我や毒などで弱っていた時は食べることがあったので、ミルクに少量の蜂蜜を入れ温め、深めの皿と一緒に暖炉の側まで持って来た。
いつでもすぐに温かいものが出せるように、少しだけ皿に入れて冷ますために入れておき、鍋は暖炉のすぐ前に置いた。
それほど待つこともなく、鼻をピクピクさせたと思ったら目を開けたため、急いで鍋から軽く1杯を汲んで皿へ注ぐ。
まだはっきり目が覚めていないのか、食べ物の匂いに意識が向いているのか、ゆっくりと寝床から這い出て皿に顔を向けた。しきりに匂いを嗅いだ後、皿に顔をつけるようにして飲み始めた。少量だったためあっという間になくなった。まだ足りないのか皿を舐め回していた。
「もう少し飲むか?」
男が声をかけて初めて、幼獣は側に人間がいることに気づいた。人間は狂った獣より残虐で恐ろしい存在だと成獣達が繰り返し言っていたことも覚えていた。
頭はパニックになって真っ白になったが、体は傷付けられた時の恐怖で震え出し、後退りをして寝床に隠れた。
痛みと寒さで朦朧としていたため、助けられたのが人間だと思うはずもなく、更に空腹だったため油断してしまった。
せっかく助かったと思ったのに人間に捕まってしまうなんてと思って震えた。
狭い場所に入れられて戦わされたり、籠という物に入れられ死ぬまで出してもらえないなど、苦しめられる運命が待っているらしいと。
しかも獣のように生きるために襲うのではなく、どこまでも追い回され、遠くから魔法で殺されるらしい。自分もきっと仲間どころか、他の幻獣にさえも会えずに殺されてしまうのだろうと思って震えた。もう駄目だと思ってキツく目を瞑り、震えたまま極度の緊張のあまり意識を失っていた。
両親に少し遅くなるけど必ず戻って来るから他の仲間達と待っているように言われたのに、突然胸騒ぎがして岩穴から飛び出して夢中になって走った。
母の気配がして気が緩んだ途端に人間に見つかり、攻撃を避け切れずに怪我をした。母が気配に気付き駆け付けて追い払ってくれ、若い雄が首根っこを咥えて逃げてくれた。
少し前までずっと痛くて、寒くて、寂しかった。今度こそ迎えが来るまで待っているように言われが、ひとりぼっちだからすごくすごく長く感じていた。
でも今は前とは違って痛いけど、なんだか温かくなって来て嬉しくなった。
温かさにホッとしていたら、何かが喉の奥に入ってきたので思わず飲み込んだ。そうしたらまた瞼が下がって来て眠たくなり意識を手放した。
「やれやれ、一緒に寝てしまったか」
男は目を覚ますと傷の具合を確認する。真っ赤に染まるほど血が滲んでいる箇所なくホッとする。さっきの水魔法で傷の血止めは上手く出来たらしい。
立ち上がり、食事と採取した素材をしまうため居間を出た。
良い匂いがする。幻獣の多くは普段は魔力や精霊力などや、自然の気を身体に取り込んでいるため食事は特に必要はない。一部特定の物を主食にする種族もいるにはいるが、鋼の森には常時食事を必要とした種族はいなかった。例外的に早く成長したい時や、取り込む気が少ない時は、食べ物で栄養を摂取することがあった。弱っている今は栄養を必要としているため、幼獣は本能から匂いで急に空腹を感じて目が覚めた。
男は今までの経験から幻獣達が食事が基本的には要らないことは知っているが、食べない訳でもないことも知っている。怪我や毒などで弱っていた時は食べることがあったので、ミルクに少量の蜂蜜を入れ温め、深めの皿と一緒に暖炉の側まで持って来た。
いつでもすぐに温かいものが出せるように、少しだけ皿に入れて冷ますために入れておき、鍋は暖炉のすぐ前に置いた。
それほど待つこともなく、鼻をピクピクさせたと思ったら目を開けたため、急いで鍋から軽く1杯を汲んで皿へ注ぐ。
まだはっきり目が覚めていないのか、食べ物の匂いに意識が向いているのか、ゆっくりと寝床から這い出て皿に顔を向けた。しきりに匂いを嗅いだ後、皿に顔をつけるようにして飲み始めた。少量だったためあっという間になくなった。まだ足りないのか皿を舐め回していた。
「もう少し飲むか?」
男が声をかけて初めて、幼獣は側に人間がいることに気づいた。人間は狂った獣より残虐で恐ろしい存在だと成獣達が繰り返し言っていたことも覚えていた。
頭はパニックになって真っ白になったが、体は傷付けられた時の恐怖で震え出し、後退りをして寝床に隠れた。
痛みと寒さで朦朧としていたため、助けられたのが人間だと思うはずもなく、更に空腹だったため油断してしまった。
せっかく助かったと思ったのに人間に捕まってしまうなんてと思って震えた。
狭い場所に入れられて戦わされたり、籠という物に入れられ死ぬまで出してもらえないなど、苦しめられる運命が待っているらしいと。
しかも獣のように生きるために襲うのではなく、どこまでも追い回され、遠くから魔法で殺されるらしい。自分もきっと仲間どころか、他の幻獣にさえも会えずに殺されてしまうのだろうと思って震えた。もう駄目だと思ってキツく目を瞑り、震えたまま極度の緊張のあまり意識を失っていた。
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