生きたい

今世紀,最狂のゴリラ女

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気がつけば彼女の背を目で追っていた。

ここには奇抜な格好をしている学生は多くいる
其々の美学に基づく美を自分で表しているからか
皆、個性的な姿になっていくのだと思う。

彼女は特別派手な容姿をしているわけでは無い。
捻る様な癖の付いた青髪や高いヒールに高身長で中性的な面立ち
そんなの此処では地味の内に入ってしまう。
だから彼女が目立つような場所ではないのだ
けれど、彼女の存在に...美しさに気づけば
ソレは返って彼女を背景から浮いて見せている姿なのだった。

休日の午後、何時ものカフェへ行くと
彼女が端の席に座ってパソコンをいじっていた

何故だろう...とても恐ろしく思えた
真顔だがどこか高揚しているかの様な不思議な表情
背中を冷たい物が伝い落ちる様な感覚がした
これが所謂,畏怖というものなのだろうか
恐ろしくも素晴らしい物を目の当たりにした時の感情...

日が沈みかけるまで私はカフェで
資料集めや論文制作をしていた。
面倒くさく感じても、作業に一段落付けば
自分の理想を具現化した至高のモデルが見れる
そう心に念じていると
案外、簡単に作業が進んでいった
私は至って単純な本能に忠実な人間だったのだ

カフェを出ると寄り道などせずに帰る道を歩いて行く
家までの距離はそう遠く無いが兎に角、道が暗い
街頭はついているけれど光が弱いせいでかなり近くの物しか見れない
だからなるべく早く帰ろうとしていた。
あともう少しで家につく頃だった
背中に衝撃が来て押し倒される様に前に倒れる
いや、実際に押し倒されており馬乗りにされている
相手の呼吸音は妙に色気を含んでいて荒々しい
仰向けに転がされて、相手と目が合った。
「なんでそんなに嬉しそうなのよ?」
相手が眉根を寄せて尋ねる
私は無意識の内に笑っていたのだろう、だって相手が彼女だったから...
初めて聞いた声は思っていたよりずっと低くて脳に残った
息がかかり合うほどの距離にいる事が信じられない
彼女は少し間を置いてから、いかにもツマラナイと云った様子で言葉を紡ぐ
「残念___怖がる顔が見たかったのに」
視界の端で白銀に光る何かが揺れる____フルーツナイフだ
けれどそれを置いてしまうと私の首に手を当てて力を込め始める
「アンタ殺されそうなのよ?分かる?」
私は彼女の期待とは裏腹に幸せそうな笑顔を見せた
彼女は不快そうに私を見つめてくる
殺される?万々歳、モデルが私に触れてくれるだけで結構だ。
この世に思い残すことはない。それ程までに彼女は私の理想なのだから

「飽きた」
意識を手放しかけたところで彼女が不意に言葉を放つ
首を絞めていた手が離され私の胸の辺りに置かれた
私は大きく咳き込み嗚咽を吐き出しながらも
霞む視界の中で満足感と幸福感を感じながら彼女を眺め続けた
「歪んだ表情かおが好きなの、アンタじゃ愉しめないわ」
冷え切った目をしている.......私に対しての興味が失せたようだった
何を思ったのか馬乗りになったまま
彼女は手を伸ばして私のかばんを漁り出す
すると、複数枚の写真を手に取り口角を上げて頬を赤く染める

「これなぁに?」
彼女が持っている写真...それは私が彼女を盗撮した写真だ
「ふーん、アンタ大人しそうな顔してるのにストーカーなのね」
私はイエスともノーとも答え無い。
私は見かける度に盗撮をするだけであってストーカーでは無い。
...があながち間違っても無い気がしたから無言を返した。
彼女なら無回答は肯定の証として受け取るだろう

「私以外にこんな変人が居たなんて!!!最高だわ!!!」
うっとりとした表情に嬉々とした声
彼女は狂っているのだろうか、だとしたら尚美しい
私が謳う美学は正に目の前にある気がした

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