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31 王ラスキンと神の御使い_07

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『やっ、やりましたわっ、女エルフ殿っ! これでハルコン様にお会いすることが叶いましたわっ!』

『良かったですね、ステラ様!』

 そう言って、互いに手を取り合って喜び合う2人。
 このたび、ステラ第三皇女殿下のファイルド国への留学が、正式に決定した。

 現在、コリンド国とファイルド国は休戦状態にある。
 以前のコリンドなら、隙を突いて新たに戦端を開くこともあり得たのだが、特にここ数年は行動を控えていた。

 コリンドは貧しい国だ。国内に目立った産業はなく、身分制度にもうるさい。
 公共インフラも貧弱で、皇室のある帝都ですら、汚水の垂れ流しなど当たり前の状態だった。

 だが、隣国の貴族の少年ハルコン・セイントークの助力により、状況は大幅に改善した。

 皇室ですら衛生環境がひどい有様だったものの、「石鹸による手洗い」をハルコンから提唱されて、それを国の施策として直ちに実行したのだ。

 すると、目に見えて状況は改善されていった。
 石鹸製造を国の直轄で計画的に行った結果、今では近隣諸国に輸出するまでになり、外貨を獲得する機会にも恵まれるようになった。

 もはや戦後の混乱期は終わりを告げ、次は「教育」に力を入れて、国富の向上を目指す段階に差しかかっているのだ。

 その流れの一環で、ステラ第三皇女殿下の留学は、「教育」の面で大いに期待されるものだった。

 今回、改めてコリンドの皇帝がファイルド国からの書簡に目を通すと、気になる文言のいくつかを見て、深く長いため息を吐かれていた。

 その書面には、仮に今後両国の間で戦端が開かれた場合、隣国が「火薬」を使用することで、こちらに甚大な被害が齎されることになる旨、明記されていたのだ。

『陛下、書簡には向こうの提案を受け容れた場合、何らかの便宜を図るとあります。如何なさいますか?』

『ステラの留学も、その件を吟味した上での決定だ。漸く体調が戻ったところで心配ではある。だが、……、隣国への留学は、本人のたっての希望でもあってな。困ったものだな』

 宰相と共に皇帝は顔を振った後、しばしの間腕組みをして、考えを巡らせていらっしゃる。
 その傍らには女エルフが控えており、先程から皇帝と宰相の様子をじっと窺っていた。

『そもそもここ最近の発展は、全てにおいてハルコン・セイントークという少年が関わっているのだ! 宰相よ、オマエはこの少年が一体何者だと思うか?』

『やはり、……「神の御使い」なのでしょうか?』

 この少年については、最近のファイルド国の目覚ましい復興に大いに関わっていることが、様々な調査で判明している。

 かつて、冬の夜に見た夢のお告げ、漆黒の夜の闇を真昼の太陽のように照らす一番星。
 それこそが「神の御使い」としての本質であり、このハルコンという少年が、混迷の戦後復興期に僥倖を齎すであろう存在に間違いない。

 皇帝個人としては、末娘の件も含めてラスキンの提案を受け容れたかった。
 そうすれば、ファイルド国にいる神の御使いの恩寵がコリンド国にまで届いてくるのだ。

 しかしながら、コリンドの戦後復興政策は、最近やっと回り始めたばかり。
 恩恵のゆきとどかない地方では、まだまだ国民の不満が高い現状だ。

 そもそも隣国への敵意を利用して新たなる戦端を開く案が、有力貴族を含めた御前会議において、いまだ優勢であったりもするのだ。

『ファイルド国王ラスキンの提案を受け容れることは、何もこちらが屈するというワケではないと思うのだが、……』

『先方は、和平案として新型兵器開発の可能性をちらつかせながら、姫様の留学受け入れを申し出てきました。これには、必ず乗るべきです!』

『そうだな。ステラは隣国に留学して、とにかくハルコンと会いたがっている。ここは娘の頑張りに、一度期待してみるとするか、……』

 その葛藤する様子を、女エルフの目を通してハルコンは全て把握していた。
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