上 下
89 / 169

15 民が救われるのなら、それでいい_03

しおりを挟む
   *          *

「ふむ。こうすれば、結果こうなって上手くいく。そのように予めワカっているような……まぁ、そういう者を我々は『賢者』とでも呼ぶべきかね?」

 王ラスキンが、率直にカイルズに訊ねてくる。宰相もじっと見てくる。

「そのような『賢者』がおられましたら、私めも隠居して、領でゆったり過ごせるのですが」

「なるほど! そうだろう、そうだろう!」

 王はそう言って宰相とお互いに顔を見合わせると、楽しそうに笑った。
 すると、宰相が女占い師の方にちらりと目をやると、

「まぁ、確かに『賢者』と言えば、一人だけ私にも心当たりがあるのだが。如何せん、まだまだ子供のようだ。あなたは、御存じですかな、女占い師殿?」

 王と宰相は、父への追及を止める気はないらしい。

 ハルコンが女占い師の視点で見ると、父カイルズが余計な事喋ってくれるなよぉ、といった表情でこちらを軽く睨んでいるのが窺えた。

 王と宰相は「賢者」の出現を心待ちにしているのか、期待に溢れた顔をされている。

「私からは何とも。占うこともできますが、如何なさいますか?」

 女占い師は、暗にこう言っているのだ。これ以上踏み込むと、カイルズの手札をムリヤリ奪うことにもなりかねませんよ、と。

 すると、王と宰相が「「まぁ、そうだろうなぁ」」とぼやいて、一度話はそこで止まった。
 ハルコンは、本日もまた父カイルズが矢面に立たされてしまい、正直申しワケないなぁと思った。

 ここで、カイルズがおもむろにこう話し出した。

「私は、これまでの政策が己の力のみで成し得た等とは微塵も思っておりません。様々な政策や社会基盤の整備、産業の促進、新商品の開発、……。あくまで民があってこそ、それらは実現して参りました。全てはラスキン国王陛下の下での統治と采配により、民が心を平らにして励んだ結果だと考えております」

「なるほど、カイルズはそのように捉えておるのか?」

「はい。善政を布く陛下のご配慮と、国民皆の努力、皆の協力、皆の創意工夫あってこそ初めて人々の生活は改善されるとの認識でおります」

「そうか、そうか、……。ならば訊ねたい。カイルズはロスシルドについて、どう考えておる? どうだろう、正直に答えて貰えるかね?」

 現状、ロスシルド領では、セイントーク領産品の模造品が大量に作られていること。
 だが、これまでカイルズはあえて権利を訴えようとはせず、沈黙を保ったままだ。

 すると、王は更に言葉を重ねて、こう訊ねてきた。

「カイルズよ! オマエが常々唱えている『民の生活が第一』は、なかなか感心できる考え方だ。だが、ロスシルドに苦情を一切言わないのも、どうかと思うぞ?」

 憂慮された表情で、カイルズに諭すように話しかける王ラスキン。

 ハルコンは、その問いに父がどう答えるのか、じっと見守った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

13番目の苔王子に嫁いだらめっちゃ幸せになりました

花月
恋愛
わたしはアリシア=ヘイストン18歳。侯爵家の令嬢だ。跡継ぎ競争に敗れ、ヘイストン家を出なければならなくなった。その為に父親がお膳立てしたのはこの国の皇子との婚姻だが、何と13番目で名前も顔を分からない。そんな皇子に輿入れしたがいいけれど、出迎えにくる皇子の姿はなし。そして新婚宅となるのは苔に覆われた【苔城】で従業員はほんの数人。 はたしてわたしは幸せな結婚生活を送ることが出来るのだろうか――!?  *【sideA】のみでしたら健全ラブストーリーです。  綺麗なまま終わりたい方はここまでをお勧めします。 (注意です!) *【sideA】は健全ラブストーリーですが【side B】は異なります。 因みに【side B】は【side A】の話の違った面から…弟シャルルの視点で始まります。 ドロドロは嫌、近親相姦的な物は嫌、また絶対ほのぼの恋愛が良いと思う方は特にどうぞお気を付けください。 ブラウザバックか、そっとじでお願いしますm(__)m

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

オレはスキル【殺虫スプレー】で虫系モンスターを相手に無双する

竹井ゴールド
ファンタジー
 スキル授与の日、【殺虫スプレー】という訳の分からないスキルを授与された貧乏男爵の令息アラン・ザクであるオレは前世の大園耕作の記憶を思い出す。  その後、「ウチは貧乏なんだ。有益なスキルでもない三男をウチに置いておく余裕はない。籍はこちらで抜いておく。今後は平民として生きるように」と口減らしの為に死んだ母親の実家の商家へと養子に出されるが、それは前世の記憶を得たオレからすれば渡りに船だった。  貧乏男爵家なんぞに未来はない。  この【殺虫スプレー】で、いや、あえてここはかっこよくファンタジー風に言い直そう。  【虫系モンスター専用即死近距離噴射ガス】と。  これを使って成り上がってやる。  そう心に決めてオレは母方の実家へと向かうフリをして貧乏男爵家から旅立ったのだった。

【完結】冷遇された翡翠の令嬢は二度と貴方と婚約致しません!

ユユ
恋愛
酷い人生だった。 神様なんていないと思った。 死にゆく中、今まで必死に祈っていた自分が愚かに感じた。 苦しみながら意識を失ったはずが、起きたら婚約前だった。 絶対にあの男とは婚約しないと決めた。 そして未来に起きることに向けて対策をすることにした。 * 完結保証あり。 * 作り話です。 * 巻き戻りの話です。 * 処刑描写あり。 * R18は保険程度。 暇つぶしにどうぞ。

アルファポリスでホクホク計画~実録・投稿インセンティブで稼ぐ☆ 初書籍発売中 ☆第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞(22年12月16205)

天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
 ~ これは、投稿インセンティブを稼ぎながら10万文字かける人を目指す戦いの記録である ~ アルファポリスでお小遣いを稼ぐと決めた私がやったこと、感じたことを綴ったエッセイ 文章を書いているんだから、自分の文章で稼いだお金で本が買いたい。 投稿インセンティブを稼ぎたい。 ついでに長編書ける人になりたい。 10万文字が目安なのは分かるけど、なかなか10万文字が書けない。 そんな私がアルファポリスでやったこと、感じたことを綴ったエッセイです。 。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。. 初書籍「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」が、レジーナブックスさまより発売中です。 月戸先生による可愛く美しいイラストと共にお楽しみいただけます。 清楚系イケオジ辺境伯アレクサンドロ(笑)と、頑張り屋さんの悪役令嬢(?)クラウディアの物語。 よろしくお願いいたします。m(_ _)m  。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。.

ハルシャギク 禁じられた遊び

あおみなみ
恋愛
1970年代半ば、F県片山市。 少し遠くの街からやってきた6歳の千尋は、 タイミングが悪く家の近所の幼稚園に入れなかったこともあり、 うまく友達ができなかった。 いつものようにひとりで砂場で遊んでいると、 2歳年上の「ユウ」と名乗る、みすぼらしい男の子に声をかけられる。 ユウは5歳年上の兄と父親の3人で暮らしていたが、 兄は手癖が悪く、父親は暴力団員ではないかといううわさがあり、 ユウ自身もあまり評判のいい子供ではなかった。 ユウは千尋のことを「チビ」と呼び、妹のようにかわいがっていたが、 2人のとある「遊び」が千尋の家族に知られ…。

最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音
ファンタジー
『目的はただ1つ、1年間でその喋り方をどうにかすること』  辺境伯令嬢である主人公はそんな手紙を持たされ実家を追放された為、冒険者にならざるを得なかった。 「人生ってクソぞーーーーーー!!!」 「嬢ちゃんうるせぇよッ!」  隣の部屋の男が相棒になるとも知らず、現状を嘆いた。  リィンという偽名を名乗った少女はへっぽこ言語を駆使し、相棒のおっさんもといライアーと共に次々襲いかかる災厄に立ち向かう。  盗賊、スタンピード、敵国のスパイ。挙句の果てに心当たりが全くないのに王族誘拐疑惑!? 世界よ、私が一体何をした!?  最低ランクと舐めてかかる敵が居れば痛い目を見る。立ちはだかる敵を薙ぎ倒し、味方から「敵に同情する」と言われながらも、でこぼこ最凶コンビは我が道を進む。 「誰かあのFランク共の脅威度を上げろッッ!」  あいつら最低ランク詐欺だ。  とは、ライバルパーティーのリーダーのお言葉だ。  ────これは嘘つき達の物語 *毎日更新中*小説家になろうと重複投稿

女性のオナニー!

rtokpr
青春
女子のえっち

処理中です...