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10 ミラ・シルウィット その2_03

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 あぁっ。懐かしいなぁ、このひりつくような緊張感。
 ハルコンの心の中に、急速に戻ってくる前世の記憶。

 道場の空気や温度、畳の匂い。道着の感触。稽古仲間達の汗と熱気。
 ぶつかり稽古。鉄の味のする唾液。徐々に力を付けていくことで得られる、その上昇感。

 仲間達との切磋琢磨。信頼感。多幸感。
 そんな遠く隔たれたはずの記憶。諸々が再び蘇えってくるのだ。

 これが、いわゆる感応力なのだろうか?
 
 肉体も性別も年齢も世界すら全て変化しているというのに、ちゃんと身体が動いてくれる。私の身体は、精神は、……決して私を裏切らない。その安心感に思わず震える。

 気が付くと、ハルコンはミラの稽古着の腕を取って、するりと投げ倒してしまっていた。

「えっ!?」

 咄嗟に受け身を取って、床に手を衝くミラ。
 そのまま唖然とした表情で、ハルコンをじっと見つめ返す。

「これで、一本だね!」

 ハルコンは、ニシシと笑った。
 だが、ミラは気を取り直して、直ぐに距離を取って構えた。

 ハルコンは、自身の両手をグーパーさせながら、ふと思う。
 
 へぇーっ。どうやら私、……身体がちゃんと型を覚えていてくれてたみたいだね。
 決して練習は裏切らないんだ。やはり、合気道五段は伊達じゃなかったんだねぇ。

「ハルコン様は、……何か武術の心得がおありなのですか?」

 ミラが、おそるおそる訊ねてきた。

「今は、……特にないのかも」

 その言葉に、ミラは驚愕した表情で、ハルコンのことを穴が開く程じっと見つめている。

「ならば、今度こそハルコン様の胸をお借りいたしますっ!」

「いいよーっ! かかってきてっ!」

「イヤァーーーッッ!!」

 掛け声とともに、闘争心剥き出しで距離を詰めてくるミラ。
 でも、ハルコンはそんな彼女の迫りくる勢いを利用して腕を掴むや、流れるように投げ飛ばしてしまった。

 だが、ミラはまるで敏捷な猫のように、くるりと床に着地するや、

「まだまだぁーっっ!」

 なおも食い下がって飛びかかってくる。ミラの闘争心、その集中力たるや、なかなかよし。

「私からもかかっていくよーっ!」

 ハルコンはそう叫ぶや、ミラ目がけて突進する。
 お互いに相手の腕を掴み合い、投げのタイミングを見計らって、一進一退の攻防を繰り広げる。

 ハルコンは彼女の真剣さに応えようと、一切手加減なく投げをこなしてゆく。
 それからしばらく後、ミラの体力が尽きるまで、2人の攻防は続くのであった。
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