角の生えたサルたち

西洋司

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 最近、シノは良く笑うようになった。

 元々愛想のいい彼女は、それはそれで笑顔を浮かべてはいたものの、でも、……どこか物事を上手く回すための方便のような使い方だったように思われた。

 それが五砲家に半年もいると、少しずつ打ち解けたというか油断が出て来たというか。
 まぁ何となくだけど、……素の彼女のようなものが、見え隠れするようになって来たと思う。

 今の五砲家は3世代同居状態にあり、何だか賑やかになって来たなぁなんて思ってみたりする。
 高校の美術部は、ヨウ姉さんがいなくなった後、大学院の後輩の三好さんが引き継いで、オレ達の指導に当たっている。

 ショウタのいなくなった穴はとても大きかった。でも、後輩達は相変わらず一生懸命集中して絵を描いているから、オレが部を引退し、後を任せても問題ないだろう。

 マホとは、信頼関係を着実に築いていると思う。
 少しずつ彼女を口説いて、モデルをやらないかと勧誘しているのだけど。
 でも、……もうしばらく考えさせてと言って、上手くかわされてしまっている。

 まぁ照れ隠し半分で、半分はやっても構わないと思ってくれているといいんだけど。
 だから、ここんとこずっとシノにモデルをお願いしている。

 彼女は、もうしばらくの間は五砲家にいて、アイコン制作のための地力アップ、そのサポートを続けるつもりなんだそうな。

「ねぇホノオさん、……マホさんには、もう少し積極的に行った方がいいですよ!」

 シノはモデルをしながら、ちらりとこちらに視線を送り、タイミングを見てコメントして来る。

「まぁ、そうなんだけどなぁ」

 彼女に言わせると、最近『恋愛』というものが少しだけワカったような気がして来たのだという。
 オレが良かったなと言うと、彼女は満足そうに澄ました顔つきになる。

 その表情は、描いていて、とてもインスピレーションが湧いて来る。
 シノという少女は、これまでこうやって多くの絵描き達から信頼を勝ち取って来たんだろうなぁと思った。

 そんなある日のこと、……マホが遂に覚悟を決めた様子で、

「私も、……ヨウ姉さんのように、ヌードモデルやってもいいよっ!」

 そんなことを言って来た。
 オレは、彼女の気が変わらないウチに、一点の油彩画を3日で仕上げた。
 
 彼女とはこれからもずっと長く付き合うワケだから、今回は裸婦ではなく、学生らしく高校の制服姿でモデルをお願いした。
 
 場所は高校の美術部の部室のアトリエ。後輩達にもオレの本気を見せておこうと思っていたので、マホの申し出は大変ありがたかった。
 
 その際、オレの描画の様子は逐一ビデオカメラで保存され、以降入部する後輩達の制作手本として活用されることになる。

 そして、その時の絵がアイコンとなった。                                           
                                    了 
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