角の生えたサルたち

西洋司

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私が求めた人間の鮮やかな生な感覚_02

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「ねぇ、私達あの場から逃げちゃったけど、……大丈夫ですかねぇ?」

「OK、……シノは何も気にしなくて問題なしっ!」

「ならぁ、……了解ってことでっ!」

 さっきから、自転車の後部席のシノと並走するショウタの2人が、緊張感なく話をしている。

 何ていうか、これはシノとショウタに共通するんだけど。
 未来人は、世界大戦の最中、修羅場をくぐり抜けて来たようなヤカラだ。故に、非常に肝が据わっているらしい。

「ゴリオ達は警察に捕まったけど、ボク達やマホちゃんのことは黙ってると思うよ」

「へぇーっ、どうして?」

「この街で、……五砲家に都合の悪いことを告げ口するヤツなんて、いないからさ」

 まぁ正解だ。それは、ホノオには決して口に出せない答えでもある。
 今回はリンゴのおかげで、上手く立ち回れたと言えた。

「で、どうすんのホノオ? このままプラプラしてたら、ボク達捕まっちゃうよぉ?」

「そうだなぁ、……」

 ホノオはショウタと相談し、学校に戻ったら待ち伏せされる恐れがあるので、一時的に身を隠す場所を検討する。

「なら、秘密基地に行くか!」

 その場所は街外れの森の奥にある。
 道中、改進高の不良学生達に出食わさないように、細心の注意を払って移動すると、20分ほどで、無事ヨウ姉さんの住居兼アトリエに辿り着くことができた。

 ここは子供の頃のホノオが秘密基地にしていた遊び場で、トタン屋根にコンクリートブロック造の、ちょっち広めの小屋である。電気も水道も繋がっており、手入れは行き届いていた。

 今現在は、ここにヨウ姉さんがたった一人で暮らしている。
 小屋の直ぐ近くにセメント工場があり、アトリエからは大型ダンプカーが列を成して原料を運び出す様子が一望できる。

 ヨウ姉さんは、今日学校が非番だ。ホノオ達が突然訪問した時は、野山で採れた野草を花瓶に差して、デッサンをしているところだった。

   *          *

「一体どうしたオマエら? 今日の私は非番で、いろいろとやることがあるんだぞ! ほら、どうせ大した用じゃないんだろ? さっさと帰った帰った!」

 ヨウ姉さんは、あらかじめ連絡を入れずに訪ねて来たホノオを見て、ちょっち怪訝な顔をする。

 彼女は外向きの服装ではなく、Tシャツにショートパンツ、長髪を無造作に髪ゴムで留めただけの、ホンとラフな格好だ。

 ホノオとしては、人里離れた森の中、一人暮らしの若い義姉がこんな調子では、いささか無防備すぎて心配なんだけど。

 まぁ、口とは裏腹に小屋の中に迎え入れてくれたのは、大助かりなんだけどね。

「おや。キミは誰だい?」

 姉の問いかけに、シノはニコリと笑顔を作ると、

「四谷シノです。ホノオさんのサポートをするために、バルボラ機関から派遣されて来ました。しばらくの間、よろしくお願い致します」

 そう言ってぺこりと頭を下げると、ヨウ姉さんもひとつ頷いた。

「そっか、キミもバルボラの天使か。ホノオには、ショウタだけでなくシノちゃんまで機関が寄こすなんてさ。ホンと私もあやかりたいもんだよ」

 彼女も美術を志す人間だ。いろいろあったけど、今も逃げずに絵と向き合っている。

「おや、そう言えばシノちゃん。キミさ、もしかしたら、100年前の南フランスにも顔出したりしてないかしら? 本家の蔵ン中にね、曾祖父さんの絵が残っていてね、何だかキミに似ているのよねぇ」

 シノは思い出したように複雑な顔をした。

「ヴィンセントさん、私の絵を描いていたのですか? あの人とは距離を感じていましたから、そんな絵が残っているなんて信じられません」

「彼と仲悪かったの?」

 率直に訊ねる姉に、しばし考えた様子のシノは、

「結局のところ、……お互いのコミュニケーション不足だったのですかねぇ」

 あれ? あの人って女嫌いなんじゃなかったの? 全く何なのよ、もう!
 そんな風に感じて、思わずしかめっ面をするシノ。

「なるほどねぇ。キミの言いたいことは大体ワカったよ」

 ヨウ姉さんは何事か納得したかのように、うんうんと頷いた。
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