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私が求めた人間の鮮やかな生な感覚_01
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シノは先程のショウタのサポタージュに、一瞬目を剝いたりしたけれど、一方で、この過去世界の若者達の人間模様を十二分に堪能していた。
あぁ面白いなぁ、素晴らしいなぁと思い始めていたのだ。
人間は『恋愛』とあらば、角の生えたサルのように、感情むき出しであらぬ力を発揮する生き物なのだなぁと。
これは、計画社会が進行し、結婚相手すら政府のコンピュータが用意するような、そんな硬直した自分達の時代にはない感覚だよなぁと。
まさに私が求めた、人間の鮮やかな生な感覚なんだよなぁと。
彼女は意を決すると、がっくりと項垂れるホノオに近づいて、
「ねぇキミ達さぁ、前に何かあったのですかね?」
まるで、宝物を手に入れた子供のような笑顔で、彼にそう訊ねたのだ。
ホノオは見上げると、その笑顔がまるでピュアなオーラを放つ、好奇心に満ちた邪悪な妖精のように思われた。
「全部、オレとヨウ姉さんが悪いんだよ」
シノは後悔に満ちたホノオの呻くような言葉を聞いて思った。これじゃいかんなぁと。
私の対象者が、このままではダメ人間となって、何も残さずに朽ちていく。そんな危険な、よくありがちな予感に苛まれてしまうのだ。
私の使命は、対象者からアイコンを受け取って、未来社会に持ち帰ること。
そのために、皇帝アポロから『恋愛許可』を特例で頂いている。
なら私は対象者のホノオを色仕掛けで篭絡してもいいワケだし、とにかく描かせさえすればいいのだ。
そう現状を再確認して、今一度彼女は気持ちを震い立たせるのであった。
* *
「ウオオォォォーッッ!!」
突然、ゴリオが叫び声を上げた。
その場にいる誰もがギョッとした顔をして、思わず彼をじっと見る。
凝視したと言って良い。
ゴリオは両腕を高く掲げ、両足を大地に踏ん張って全身をプルプルといきり立たせるや、その巨体を躍らせるようにホノオ目がけて猛然と襲いかかって来た。
シノは未来世界でマスターした格闘技を活かし、何ら臆することなくホノオの前に出て、姿勢を取って構えた。
でも、ホノオはそんな彼女の左肩に手を置いて引き下がらせると、前に進み出る。
「ホノオさんっ!」
侠気を見せられて、感激するシノ。
「大丈夫っ!」
ホノオの言葉に、シノの双眼がクワッと開いた。
彼は、常人離れした動体視力でゴリオと対峙した。
巨体が間近に迫る。
ホノオは限界まで神経を研ぎ澄ませ、目の端にゴリオの手下6人がいるのを見極め、
「ほぉら、よぉっーとっっ!」
掛け声一閃、ゴリオを一本背負い。
その巨体は、6人の手下に盛大に叩きつけられるのであった。
「お見事っ!」
思わずシノが叫んだ。
「テメェッッ! コノヤロォォーッッ!」
ゴリオはあまりの痛さに星の回る頭を押さえつつ、首を振って叫び声を発す。
「ピィーッ、ピピィーッ!! 何をやってるっ! キミ達、止めなさいっ!!」
騒ぎを聞きつけた警官数名が、警笛を鳴らしながら駆け込んで来た。
「このバカッ! ポリ公が来ちゃったじゃんっ!」
リンゴは金切り声を上げ、ゴリオの頭をパシンと引っ叩いた。
それからホノオ達に向かって、ほらさっさと行けっ! と叫んで、手をシッシとする。
「ホノオッ! 急げっ! 警察に捕まるぞっ!」
ショウタがマウンテンバイクを差し出すと、それに飛び乗り、ホノオはリンゴに一礼、シノを後部座席に乗せると、迷うことなくこの場から逃走を試みる。ショウタもママチャリに乗って追いかけて来る。
マホ達は騒ぎに乗じて現場からトンズラできたけど、ゴリオ達の一派は警官らに取り押さえられてしまった。
騒然とした現場からは、少しでも早く遠くまでズラかろう。
大体ゴリオが暴れたから悪いんだし。それに、リンゴが上手くやってくれると思う、たぶん。
シノがくすくすと笑いながら背中に身を預けて密着して来る。でも、あいにくとホノオには、その豊かな胸の感触を楽しむ余裕なんてさらさら起こらなかった。
あぁ面白いなぁ、素晴らしいなぁと思い始めていたのだ。
人間は『恋愛』とあらば、角の生えたサルのように、感情むき出しであらぬ力を発揮する生き物なのだなぁと。
これは、計画社会が進行し、結婚相手すら政府のコンピュータが用意するような、そんな硬直した自分達の時代にはない感覚だよなぁと。
まさに私が求めた、人間の鮮やかな生な感覚なんだよなぁと。
彼女は意を決すると、がっくりと項垂れるホノオに近づいて、
「ねぇキミ達さぁ、前に何かあったのですかね?」
まるで、宝物を手に入れた子供のような笑顔で、彼にそう訊ねたのだ。
ホノオは見上げると、その笑顔がまるでピュアなオーラを放つ、好奇心に満ちた邪悪な妖精のように思われた。
「全部、オレとヨウ姉さんが悪いんだよ」
シノは後悔に満ちたホノオの呻くような言葉を聞いて思った。これじゃいかんなぁと。
私の対象者が、このままではダメ人間となって、何も残さずに朽ちていく。そんな危険な、よくありがちな予感に苛まれてしまうのだ。
私の使命は、対象者からアイコンを受け取って、未来社会に持ち帰ること。
そのために、皇帝アポロから『恋愛許可』を特例で頂いている。
なら私は対象者のホノオを色仕掛けで篭絡してもいいワケだし、とにかく描かせさえすればいいのだ。
そう現状を再確認して、今一度彼女は気持ちを震い立たせるのであった。
* *
「ウオオォォォーッッ!!」
突然、ゴリオが叫び声を上げた。
その場にいる誰もがギョッとした顔をして、思わず彼をじっと見る。
凝視したと言って良い。
ゴリオは両腕を高く掲げ、両足を大地に踏ん張って全身をプルプルといきり立たせるや、その巨体を躍らせるようにホノオ目がけて猛然と襲いかかって来た。
シノは未来世界でマスターした格闘技を活かし、何ら臆することなくホノオの前に出て、姿勢を取って構えた。
でも、ホノオはそんな彼女の左肩に手を置いて引き下がらせると、前に進み出る。
「ホノオさんっ!」
侠気を見せられて、感激するシノ。
「大丈夫っ!」
ホノオの言葉に、シノの双眼がクワッと開いた。
彼は、常人離れした動体視力でゴリオと対峙した。
巨体が間近に迫る。
ホノオは限界まで神経を研ぎ澄ませ、目の端にゴリオの手下6人がいるのを見極め、
「ほぉら、よぉっーとっっ!」
掛け声一閃、ゴリオを一本背負い。
その巨体は、6人の手下に盛大に叩きつけられるのであった。
「お見事っ!」
思わずシノが叫んだ。
「テメェッッ! コノヤロォォーッッ!」
ゴリオはあまりの痛さに星の回る頭を押さえつつ、首を振って叫び声を発す。
「ピィーッ、ピピィーッ!! 何をやってるっ! キミ達、止めなさいっ!!」
騒ぎを聞きつけた警官数名が、警笛を鳴らしながら駆け込んで来た。
「このバカッ! ポリ公が来ちゃったじゃんっ!」
リンゴは金切り声を上げ、ゴリオの頭をパシンと引っ叩いた。
それからホノオ達に向かって、ほらさっさと行けっ! と叫んで、手をシッシとする。
「ホノオッ! 急げっ! 警察に捕まるぞっ!」
ショウタがマウンテンバイクを差し出すと、それに飛び乗り、ホノオはリンゴに一礼、シノを後部座席に乗せると、迷うことなくこの場から逃走を試みる。ショウタもママチャリに乗って追いかけて来る。
マホ達は騒ぎに乗じて現場からトンズラできたけど、ゴリオ達の一派は警官らに取り押さえられてしまった。
騒然とした現場からは、少しでも早く遠くまでズラかろう。
大体ゴリオが暴れたから悪いんだし。それに、リンゴが上手くやってくれると思う、たぶん。
シノがくすくすと笑いながら背中に身を預けて密着して来る。でも、あいにくとホノオには、その豊かな胸の感触を楽しむ余裕なんてさらさら起こらなかった。
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