角の生えたサルたち

西洋司

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対象者の2割増しで仕上げるべし_02

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 シノは、ショウタの情報提出義務違反を見抜くと、咎める口調でこう訊ねた。

「ねぇアンタ。本部にはちゃんと報告しているの?」

 ショウタに耳打ちすると、彼はニコリと笑って、

「上級エージェントのシノさんが、困らない程度には、……はははっ」

 コノヤローッ! 

 しかし、現場での仲違いはマジでヤバい。そうシノはぎりぎりで心を落ち着かせる。
 
 そもそも、ショウタは出世街道驀進中のシノのことを相当嫌っているはず。
 おそらく彼女の急な着任を知り、嫌がらせも兼ねて情報のサポタージュをしていたのだろうと、彼女は考えた。

 まぁシノ自身も、外見から内心に至るまでショウタのこと全てが気に食わないんだけどね。

 とにかく、この世界に来る前のブリーフィングでは得られなかったことなので、完璧主義者のシノは改めてショウタとの連携が必要だと認識し、胃を重くするのであった。

 そんな様々な思惑とは関係なく、ホノオはデッサンを描き終え、静かに鉛筆を置いた。
 でもワーッと叫ぶと、神経質そうに頭を抱えて黙り込んでしまったのである。

 ショウタは、何だかイヤな予感をしつつそのデッサンを受け取ると、思わず顔を顰めた。
 なぁホンとにこれ渡していいの? と、念を押して訊ねる位に。

 すると、オマエの判断で勝手にやってくれ。そう言わんばかりに左手を2回シッシと払い除けるので、逆らうことなく、リンゴにその似顔絵を手渡すことにした。

 いざリンゴは自分を描いた似顔絵が出来上がり、期待を込めた眼差しで嬉しそうに受け取って、じっと見た。
 でも、次第に苦虫を噛んだような顔つきになり。終いには大きくため息を吐いてしまう。

「リンゴどう、絵の出来栄えは?」

 マホは肩越しに覗き込むと、直ぐに鬼の首を取ったように愉悦に塗れた邪悪な笑顔で、

「この下手糞っ! やっぱアンタ向いてないわっ!」

 そうホノオに向かって叫ぶと、悄然としたホノオやリンゴの気持ちなどお構いなく、ムキになった子供のように嘲笑うのである。

 さすがにこの態度は非礼であり、かなりムカつくものであった。
 やにわに、リンゴはマホの胸倉に掴みかかり、オマエまだ引きずってんのかよと吼えると、腹立ちまぎれにマホの頬を引っ叩こうとした。

 でも、マホは縄を抜けるようにするりと避け。
 リンゴの伸ばした右手首をしっかと掴むと、逆にぐりんと捻り上げてしまった。

 堪らず痛い痛いと悲鳴を上げるリンゴに、眉間に皺を寄せて歪んだ笑顔のマホが叫ぶ。

「アンタさぁ、いつまでも調子に乗ってるんじゃないわよっ! 元々美術志望で腕力ないクセに、それがちょ~っちモデル体型だからっていっつも自信満々でさ、偉そうにっ!」

 ゴリオは彼女達の関係を熟知している。だから、女子同士が言い合いになったり、掴み合いの喧嘩をしようが基本、我関せずである。
 ただし、その争いの火種が五砲ホノオだということが、堪らなく不愉快で不愉快で仕方がない。

 ガキの頃から、リンゴはこの街の王子であるホノオに憧れを抱いていた。しかし、どんなに親しくなっても自分には手の届かない彼を、マホが独占する権利を持っている。

 まぁ、それは仕方のないことだ。持って生まれた運命とか、巡り合わせとかいうものなのだから。
 だけど、マホはホノオのたったひとつの過去の過ちとやらに目を尖らせて、いつまでも嫌味たらたら。
 ホンとマジでウザいったらありゃしない。

「いつまでもアンタがそんな態度だから、ホノオ君がおかしくなっちゃうんだよっ!」

 リンゴがマホに向かって叫ぶと、ホノオはシュンとして、更に小さくなってしまった。

 ついに、2人の女子はお互いに相手の髪を掴み合いの喧嘩を始めるに至り、ゴリオの嫉妬心は、もうまさに怒髪天を衝くが如し。全身の血が煮え滾るのであった。
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