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第4話 加速する疑似恋愛(3)
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「えっ? ど、どこかおかしいか?」
「違う違うっ、いい意味でやばいってこと! いつにも増してカッコいいっつーか……デートっての、意識してくれたのかなって」
「そんなの当然だろ。ましてや、初めてのデートなんだし」
隆之が照れたように頭を掻いてみせる。
こちらまで気恥ずかしさが伝染してくるようだ。これまでも客とは何度も出かけてきたが、隆之とは初めてのことなのである――意識すると、妙にドキドキとするものがあった。
「ナツ? 店に合流の連絡しなくていいのか?」
「あ! そ、そうだった」
隆之に声をかけられて、ナツはハッと我に返った。
出張の場合は、合流時に店へ連絡を入れるのが決まりだ。スマートフォンを取り出すと、手早く連絡を済ませた。
「っぶね、ちょっとうっかりしてた……助かったよ~」
「気がついてよかった。じゃ、そろそろ行くか」
隆之が手を伸ばしてきて、ナツの手を包む。そのまま指を絡めとられ、いわゆる《恋人繋ぎ》の状態になった。
(うわ、隆之さんの手でっか……俺はそういった目で見られるの慣れてっからいーけど――大丈夫なのかな)
この程度のスキンシップは日常茶飯事なのだが、まさか隆之の方から手を握ってもらえるとは思わず動揺してしまう。
案の定、通行人がチラチラとこちらを見ていた。しかし、隆之は全く気にしていない様子で、ナツもまた笑みを浮かべながら隣に並ぶ。
恋人らしいデートの雰囲気に、心が躍るのを感じていた。
隆之に連れられて向かった先は、リゾート感が漂うハワイアンカフェだった。デートコースを利用する客とは、個室のある飲食店で食事をとることが多いため新鮮なチョイスだ。
店内は照明が抑えられており、ウクレレのゆったりとしたBGMが流れている。ほのかに漂うフローラルな香りは南国の花・プルメリアだろうか。
店員に案内され、席に着いたところでメニューを受け取る。ナツはグァバジュースとパンケーキ、隆之はホットコーヒーをそれぞれ注文した。
「おお~っ、美味しそう!」
注文した品がテーブルに揃うなり、ナツは目を輝かせる。
ふっくらと厚みがあるスフレタイプのパンケーキに、たっぷり盛られた生クリームやフルーツの数々が眩しい――興奮気味にスマートフォンで撮影したのち、ナイフとフォークを手に取った。
いただきます、と一口サイズに切り分けて口に運べば、ふわりとした食感のあとに甘酸っぱさが広がって幸せな気分になった。生クリームはほどよく甘く、これならぺろりと食べられてしまいそうだ。
「んっま~! やばい……すっげー美味しいよ、隆之さんっ」
満面の笑顔を向けて言うと、隆之はコーヒーを一口飲んで微笑みかえしてくれた。
「そいつはよかった」
「隆之さんはコーヒーだけ? 何か食べないの?」
「ついさっき食事したばかりだし、こういったの一人で食べきれる気がしないんだ。昔なら食べられたかもしれないが」
「ふーん? じゃあ、さ――」
切り分けたパンケーキを、そっと隆之の口元へと持っていく。
「はい、あーん」と声をかけてやれば、すぐに意図を察したようだった。やや気恥ずかしそうにしながらも素直に口を開け、差し出されたそれにぱくりとかぶりつく。
「……確かにこれはうまいな」
「でしょでしょっ? 言ってなかったけど、実は最近ちょうどパンケーキにハマっててさあ」
「ああ、そのことならブログに書いていたのを見たよ」
「えっ? ブログ見てくれたの?」
個人情報の漏洩やトラブルを防ぐため、店のルールとして個人的なSNSの所有は認められておらず、代わりにホームページにブログを開設しているのだ。基本的にはボーイの出勤予定と簡単なコメント、そして写真を掲載しているのだが、なかには近況報告を書いている者もいて、ナツもその一人だった。
「まさか、それで?」問いかけると、隆之はこくりと頷いた。
「ここしばらくのしか読めていないが」
「んーんっ、すげー嬉しい! ……あ、ってことは」
身を乗り出し、ナツは隆之の耳元にイタズラっぽく囁く。
「エッチな自撮りも見てくれた?」
「っ!」
途端、隆之がコーヒーを吹き出しそうになった。顔がほんのりと赤らんでいて、毎度からかい甲斐があるというものである。
「ハハッ隆之さんってば、顔赤くなってる! ねえねえどうだった、興奮してくれた?」
「ったく……君というやつは。こんなところでする話じゃないだろうが」
隆之が咳払いをする。ナツがニヤニヤとする一方、気を取り直して言葉を続けた。
「でもまあ、何はともあれよかった。喜んでくれたみたいで」
「なあに? 改まってさ」
「いや、いつも俺ばっかりだから、今日は君に楽しんでもらえたらいいなと思っていたんだ」
一転して、今度はこちらが照れる番だった。
「違う違うっ、いい意味でやばいってこと! いつにも増してカッコいいっつーか……デートっての、意識してくれたのかなって」
「そんなの当然だろ。ましてや、初めてのデートなんだし」
隆之が照れたように頭を掻いてみせる。
こちらまで気恥ずかしさが伝染してくるようだ。これまでも客とは何度も出かけてきたが、隆之とは初めてのことなのである――意識すると、妙にドキドキとするものがあった。
「ナツ? 店に合流の連絡しなくていいのか?」
「あ! そ、そうだった」
隆之に声をかけられて、ナツはハッと我に返った。
出張の場合は、合流時に店へ連絡を入れるのが決まりだ。スマートフォンを取り出すと、手早く連絡を済ませた。
「っぶね、ちょっとうっかりしてた……助かったよ~」
「気がついてよかった。じゃ、そろそろ行くか」
隆之が手を伸ばしてきて、ナツの手を包む。そのまま指を絡めとられ、いわゆる《恋人繋ぎ》の状態になった。
(うわ、隆之さんの手でっか……俺はそういった目で見られるの慣れてっからいーけど――大丈夫なのかな)
この程度のスキンシップは日常茶飯事なのだが、まさか隆之の方から手を握ってもらえるとは思わず動揺してしまう。
案の定、通行人がチラチラとこちらを見ていた。しかし、隆之は全く気にしていない様子で、ナツもまた笑みを浮かべながら隣に並ぶ。
恋人らしいデートの雰囲気に、心が躍るのを感じていた。
隆之に連れられて向かった先は、リゾート感が漂うハワイアンカフェだった。デートコースを利用する客とは、個室のある飲食店で食事をとることが多いため新鮮なチョイスだ。
店内は照明が抑えられており、ウクレレのゆったりとしたBGMが流れている。ほのかに漂うフローラルな香りは南国の花・プルメリアだろうか。
店員に案内され、席に着いたところでメニューを受け取る。ナツはグァバジュースとパンケーキ、隆之はホットコーヒーをそれぞれ注文した。
「おお~っ、美味しそう!」
注文した品がテーブルに揃うなり、ナツは目を輝かせる。
ふっくらと厚みがあるスフレタイプのパンケーキに、たっぷり盛られた生クリームやフルーツの数々が眩しい――興奮気味にスマートフォンで撮影したのち、ナイフとフォークを手に取った。
いただきます、と一口サイズに切り分けて口に運べば、ふわりとした食感のあとに甘酸っぱさが広がって幸せな気分になった。生クリームはほどよく甘く、これならぺろりと食べられてしまいそうだ。
「んっま~! やばい……すっげー美味しいよ、隆之さんっ」
満面の笑顔を向けて言うと、隆之はコーヒーを一口飲んで微笑みかえしてくれた。
「そいつはよかった」
「隆之さんはコーヒーだけ? 何か食べないの?」
「ついさっき食事したばかりだし、こういったの一人で食べきれる気がしないんだ。昔なら食べられたかもしれないが」
「ふーん? じゃあ、さ――」
切り分けたパンケーキを、そっと隆之の口元へと持っていく。
「はい、あーん」と声をかけてやれば、すぐに意図を察したようだった。やや気恥ずかしそうにしながらも素直に口を開け、差し出されたそれにぱくりとかぶりつく。
「……確かにこれはうまいな」
「でしょでしょっ? 言ってなかったけど、実は最近ちょうどパンケーキにハマっててさあ」
「ああ、そのことならブログに書いていたのを見たよ」
「えっ? ブログ見てくれたの?」
個人情報の漏洩やトラブルを防ぐため、店のルールとして個人的なSNSの所有は認められておらず、代わりにホームページにブログを開設しているのだ。基本的にはボーイの出勤予定と簡単なコメント、そして写真を掲載しているのだが、なかには近況報告を書いている者もいて、ナツもその一人だった。
「まさか、それで?」問いかけると、隆之はこくりと頷いた。
「ここしばらくのしか読めていないが」
「んーんっ、すげー嬉しい! ……あ、ってことは」
身を乗り出し、ナツは隆之の耳元にイタズラっぽく囁く。
「エッチな自撮りも見てくれた?」
「っ!」
途端、隆之がコーヒーを吹き出しそうになった。顔がほんのりと赤らんでいて、毎度からかい甲斐があるというものである。
「ハハッ隆之さんってば、顔赤くなってる! ねえねえどうだった、興奮してくれた?」
「ったく……君というやつは。こんなところでする話じゃないだろうが」
隆之が咳払いをする。ナツがニヤニヤとする一方、気を取り直して言葉を続けた。
「でもまあ、何はともあれよかった。喜んでくれたみたいで」
「なあに? 改まってさ」
「いや、いつも俺ばっかりだから、今日は君に楽しんでもらえたらいいなと思っていたんだ」
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