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第2.5話 恋ではなく…(2)
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(……なに落ち込んでんだろ。別に、隆之さんが誰を指名しようと関係ねえって)
言い聞かせてはみるものの、一度抱いた感情はなかなか消えてはくれなかった。
と、こちらの様子をじっと見ていたのか、京極が声高らかに笑いだす。
「ぶはははっ! こいつ、マジな顔してやがる!」
「ちょ、笑うことないじゃん!」
「いや安心しろよ。『指名する前に確認したい』つって、ファイル見学に来ただけなんだわ」
「……へ?」
「ちょうどヒカルが待機してたもんで顔見せもしてやったんだが、気に入らなかったのかそのまま帰っちまってさ。ヒカルのやつプライド高ぇし、なだめるの大変だったよ」
「ほ、ホントなのそれ!? ファイル見学だけって!」
店内ではサービスの一環として、ウェブサイト上で公開していない写真を閲覧できるようになっている。加えて、待機中のボーイならば顔見せも可能だ。
が、まさかファイル見学だけで帰ったとは思わず、ナツはぽかんと口を開けて固まってしまった。
京極はなおも笑みを浮かべている。
「嘘なんかついてどうすんだ。なんなら顧客リストでも見てみればいいんじゃねェの」
「そこまでしなくてもいーけど……まさか俺、からかわれた系?」
「つい、出来心でな。乗り替えられなくてよかったなあ?」
からかい混じりに言われ、ナツは眉根を寄せた。こちらは気が気でなかったのにあんまりだ。
(けど、ちょっとホッとした。隆之さん、また指名してくれるかな……)
ナツは小さく息をつくと、残りのトーストを一気に食べきった。まだ隆之の真意はわからないけれど、考えただけでなんだかソワソワとしてしまう。
「お前さん、よっぽど気に入ってんだな?」
「ええ? だから違う、って言ってんじゃん。ただ、ちょっといろいろあってさ。珍しいお客さんっつーか……ものすごくフツーにフツーの人だし」
「ほーお?」
「いやまあ、体の相性は抜群だと思うけど。それに真面目で、真面目すぎちゃうほど真面目で」
「おいおい、どんだけ真面目なんだそりゃ」
「もうすっごく真面目なんだよっ、心配になっちゃうくらい! でも、そういったところが……好き、かなあ」
言ってからハッとした。自分は一体何を言っているのだろう。
見れば、京極はニタニタと口角を上げている。
「ふうん、『好き』ときたか。まァなんだ、ウチの店だとそのあたりは自己責任だし? 金が関わるような禁止行為に触れなけりゃ、俺も文句は――」
「待ってよ、変な意味じゃないかんね!? 人として純粋な意味でっ!」
「へいへい、ナツくんのタイプは生真面目な野郎かあ。……及川さん、覚えとこっと」
「だーかーらあーっ!」
煙草を手にベランダへと出ていく京極を見送り、ナツはムッとした。
京極も人が悪い。ちっとも本気にしてないくせに、悪ふざけで茶化してくるから始末におえないのだ。こちらの反応が面白くて仕方ないのだろう。
(困っちゃうよなあ。俺にはもう……恋とか愛だなんて感覚、わかんねーのに)
胸中で呟いて、何気なくノートパソコンに目を落とす。
すると、ちょうど新しい予約が入っていた――予約者は及川隆之、指名はナツ。待ち望んでいた人物の名に、ナツは人知れず目を細めたのだった。
言い聞かせてはみるものの、一度抱いた感情はなかなか消えてはくれなかった。
と、こちらの様子をじっと見ていたのか、京極が声高らかに笑いだす。
「ぶはははっ! こいつ、マジな顔してやがる!」
「ちょ、笑うことないじゃん!」
「いや安心しろよ。『指名する前に確認したい』つって、ファイル見学に来ただけなんだわ」
「……へ?」
「ちょうどヒカルが待機してたもんで顔見せもしてやったんだが、気に入らなかったのかそのまま帰っちまってさ。ヒカルのやつプライド高ぇし、なだめるの大変だったよ」
「ほ、ホントなのそれ!? ファイル見学だけって!」
店内ではサービスの一環として、ウェブサイト上で公開していない写真を閲覧できるようになっている。加えて、待機中のボーイならば顔見せも可能だ。
が、まさかファイル見学だけで帰ったとは思わず、ナツはぽかんと口を開けて固まってしまった。
京極はなおも笑みを浮かべている。
「嘘なんかついてどうすんだ。なんなら顧客リストでも見てみればいいんじゃねェの」
「そこまでしなくてもいーけど……まさか俺、からかわれた系?」
「つい、出来心でな。乗り替えられなくてよかったなあ?」
からかい混じりに言われ、ナツは眉根を寄せた。こちらは気が気でなかったのにあんまりだ。
(けど、ちょっとホッとした。隆之さん、また指名してくれるかな……)
ナツは小さく息をつくと、残りのトーストを一気に食べきった。まだ隆之の真意はわからないけれど、考えただけでなんだかソワソワとしてしまう。
「お前さん、よっぽど気に入ってんだな?」
「ええ? だから違う、って言ってんじゃん。ただ、ちょっといろいろあってさ。珍しいお客さんっつーか……ものすごくフツーにフツーの人だし」
「ほーお?」
「いやまあ、体の相性は抜群だと思うけど。それに真面目で、真面目すぎちゃうほど真面目で」
「おいおい、どんだけ真面目なんだそりゃ」
「もうすっごく真面目なんだよっ、心配になっちゃうくらい! でも、そういったところが……好き、かなあ」
言ってからハッとした。自分は一体何を言っているのだろう。
見れば、京極はニタニタと口角を上げている。
「ふうん、『好き』ときたか。まァなんだ、ウチの店だとそのあたりは自己責任だし? 金が関わるような禁止行為に触れなけりゃ、俺も文句は――」
「待ってよ、変な意味じゃないかんね!? 人として純粋な意味でっ!」
「へいへい、ナツくんのタイプは生真面目な野郎かあ。……及川さん、覚えとこっと」
「だーかーらあーっ!」
煙草を手にベランダへと出ていく京極を見送り、ナツはムッとした。
京極も人が悪い。ちっとも本気にしてないくせに、悪ふざけで茶化してくるから始末におえないのだ。こちらの反応が面白くて仕方ないのだろう。
(困っちゃうよなあ。俺にはもう……恋とか愛だなんて感覚、わかんねーのに)
胸中で呟いて、何気なくノートパソコンに目を落とす。
すると、ちょうど新しい予約が入っていた――予約者は及川隆之、指名はナツ。待ち望んでいた人物の名に、ナツは人知れず目を細めたのだった。
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