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第2話 甘い恋のトラップ(3)
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「……からかうなよ」
「ハハッごめんごめん! 隆之さん、遊び慣れてないカンジがしてつい」
「そりゃそうだ。こういった店、今まで来たことなかったし……君と縁ができなきゃ一生来なかっただろうしな」
言うと、ナツがきょとんとして首を傾げた。
「お姉さんがいるようなフツーの風俗でも?」
「ああ。きっとないな」
「おっ――じゃあ、ちょうど俺と出会ってよかったワケだ? ねえねえ、男同士もイイっしょ? 思わぬ扉が開いちゃったねぇ」
「そういう言い方されると複雑なんだが。まあ、下手に異性を相手にしようものなら彼女と重ねてただろうしな……ある意味、よかったのかもしれない」
「ふうん? 俺のこと、ちゃんと俺として見てくれてんだ?」
その言葉に隆之はギクリとして固まった。
「そ、れは」
「って当然かあ! おっぱいねーし、逆についてるもんあるしねぇ」
ナツは調子よく笑ったけれど、そう言われると自分でもわからなくなってしまう。ただ一人が嫌だっただけで、相手が男であろうが誰でもよかったのだろうか――以前感じたものと同じような疑問が再び湧き上がった。
(確かにこの子は男から見ても……その、綺麗な外見をしているけれど。何度も男だって言い聞かせているのにな)
そのようなことを考えながらも、「マッサージしてもいい?」というナツの言葉に頷いてうつ伏せになる。
ナツはマッサージオイルを手のひらで伸ばし、背中から腰にかけて塗り広げていった。背骨に沿ってマッサージされたあと、首筋から肩甲骨、両肩の端まで揉みほぐされ、心地よさに自然と力が抜けていく。
温かく、しなやかな手のひら。それを感じているうちに眠ってしまうのが常だった。普段は薬を飲んでもあまり眠れず、目の下にクマを作っているくらいなのに――ナツに触れられると不思議と心が安らぐのだ。
しかし、九十分という時間は短い。ナツの申し訳なさそうな声に起こされて、隆之は軽く欠伸をかみ殺した。
「ごめんね、起こしちゃって。そろそろ時間だけど、延長どうする?」
「いや遠慮しておくよ、今日もマッサージまでしてくれてありがとう。……なんかいつも寝てばっかりだな、俺」
「あーそれは全然いいし、むしろ嬉しいんだけどさ。夜、眠れなかったりすんの?」
「ちょっと……な」
曖昧に答えつつベッドから起き上がる。
気をつかわせるつもりはなかったのだが、ナツは心配そうに眉尻を下げていた。
「そっか、一人寝って寂しいもんね」
「……ああ。夜になると、どうにもいろいろと考えこんでしまうというか」
「どんなこと考えちゃうの?」
ナツが声を落として問いかけてくる。隆之は少し躊躇ったものの、素直に胸の内を打ち明けることにした。
「これから先、ずっと孤独でいるような気がして――後先のことを考えたら怖くて仕方ないんだ。彼女が残していったものが多すぎて参ってしまう……」
力なく笑って前髪を掻き上げる。そんな隆之に対し、ナツはそっと身を寄せてくれた。
「今は、俺がいるよ?」
優しい声音とともに正面から抱きしめられてしまい、隆之の目頭が熱くなる。甘えるようにナツの肩口へと額を押しつければ、そっと背中をさすられて、なんだか幼子にでもなった気分だった。
「情けなくて悪い」
「あんまり自分のこと悪く言っちゃ駄目だよ。それだけ辛かったんでしょ? もう少し自分に優しくしてあげたら?」
「それができたら苦労しないんだが、本当のことだしな」
「わ、ストイック。もっと肩の力抜いたらいいのに……でも、そんなところも隆之さんの魅力なんだよね」
「……そう言ってもらえると救われる気がするよ」
ナツが苦笑を返す。と、そこで終了十分前を知らせるタイマーが鳴った。
「ああ、タイマー鳴っちった」
一瞬残念そうな顔をするも、すぐに切り替えて体を離す。
隆之も名残り惜しく思いながら重い腰を上げた。この時間は甘い夢から醒めるようで、知らずのうちにため息が出てしまう。
「あ……あのさっ。よかったら今度、添い寝してあげよっか?」
「え?」
不意にナツがそう提案してくる。隆之が目を丸くすると、彼は視線を逸らして頭を掻いた。
「っと、ほら! 一晩中過ごせるロングコースあるの知んない? 俺が隆之さんのためにできることって少ないけどさ――そういったことならいくらでもできるし、してあげたいっつーか……」
「ハハッごめんごめん! 隆之さん、遊び慣れてないカンジがしてつい」
「そりゃそうだ。こういった店、今まで来たことなかったし……君と縁ができなきゃ一生来なかっただろうしな」
言うと、ナツがきょとんとして首を傾げた。
「お姉さんがいるようなフツーの風俗でも?」
「ああ。きっとないな」
「おっ――じゃあ、ちょうど俺と出会ってよかったワケだ? ねえねえ、男同士もイイっしょ? 思わぬ扉が開いちゃったねぇ」
「そういう言い方されると複雑なんだが。まあ、下手に異性を相手にしようものなら彼女と重ねてただろうしな……ある意味、よかったのかもしれない」
「ふうん? 俺のこと、ちゃんと俺として見てくれてんだ?」
その言葉に隆之はギクリとして固まった。
「そ、れは」
「って当然かあ! おっぱいねーし、逆についてるもんあるしねぇ」
ナツは調子よく笑ったけれど、そう言われると自分でもわからなくなってしまう。ただ一人が嫌だっただけで、相手が男であろうが誰でもよかったのだろうか――以前感じたものと同じような疑問が再び湧き上がった。
(確かにこの子は男から見ても……その、綺麗な外見をしているけれど。何度も男だって言い聞かせているのにな)
そのようなことを考えながらも、「マッサージしてもいい?」というナツの言葉に頷いてうつ伏せになる。
ナツはマッサージオイルを手のひらで伸ばし、背中から腰にかけて塗り広げていった。背骨に沿ってマッサージされたあと、首筋から肩甲骨、両肩の端まで揉みほぐされ、心地よさに自然と力が抜けていく。
温かく、しなやかな手のひら。それを感じているうちに眠ってしまうのが常だった。普段は薬を飲んでもあまり眠れず、目の下にクマを作っているくらいなのに――ナツに触れられると不思議と心が安らぐのだ。
しかし、九十分という時間は短い。ナツの申し訳なさそうな声に起こされて、隆之は軽く欠伸をかみ殺した。
「ごめんね、起こしちゃって。そろそろ時間だけど、延長どうする?」
「いや遠慮しておくよ、今日もマッサージまでしてくれてありがとう。……なんかいつも寝てばっかりだな、俺」
「あーそれは全然いいし、むしろ嬉しいんだけどさ。夜、眠れなかったりすんの?」
「ちょっと……な」
曖昧に答えつつベッドから起き上がる。
気をつかわせるつもりはなかったのだが、ナツは心配そうに眉尻を下げていた。
「そっか、一人寝って寂しいもんね」
「……ああ。夜になると、どうにもいろいろと考えこんでしまうというか」
「どんなこと考えちゃうの?」
ナツが声を落として問いかけてくる。隆之は少し躊躇ったものの、素直に胸の内を打ち明けることにした。
「これから先、ずっと孤独でいるような気がして――後先のことを考えたら怖くて仕方ないんだ。彼女が残していったものが多すぎて参ってしまう……」
力なく笑って前髪を掻き上げる。そんな隆之に対し、ナツはそっと身を寄せてくれた。
「今は、俺がいるよ?」
優しい声音とともに正面から抱きしめられてしまい、隆之の目頭が熱くなる。甘えるようにナツの肩口へと額を押しつければ、そっと背中をさすられて、なんだか幼子にでもなった気分だった。
「情けなくて悪い」
「あんまり自分のこと悪く言っちゃ駄目だよ。それだけ辛かったんでしょ? もう少し自分に優しくしてあげたら?」
「それができたら苦労しないんだが、本当のことだしな」
「わ、ストイック。もっと肩の力抜いたらいいのに……でも、そんなところも隆之さんの魅力なんだよね」
「……そう言ってもらえると救われる気がするよ」
ナツが苦笑を返す。と、そこで終了十分前を知らせるタイマーが鳴った。
「ああ、タイマー鳴っちった」
一瞬残念そうな顔をするも、すぐに切り替えて体を離す。
隆之も名残り惜しく思いながら重い腰を上げた。この時間は甘い夢から醒めるようで、知らずのうちにため息が出てしまう。
「あ……あのさっ。よかったら今度、添い寝してあげよっか?」
「え?」
不意にナツがそう提案してくる。隆之が目を丸くすると、彼は視線を逸らして頭を掻いた。
「っと、ほら! 一晩中過ごせるロングコースあるの知んない? 俺が隆之さんのためにできることって少ないけどさ――そういったことならいくらでもできるし、してあげたいっつーか……」
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