クールな年下男子は、俺の生徒で理想のお嫁さん!?

有村千代

文字の大きさ
上 下
28 / 61

第7話 さよならは突然に(2)

しおりを挟む

    ◇

「えっ、美緒が? ……うん、うんわかった。もう今日は授業もないし、俺もなるべく早く帰るようにするよ」
 由紀子から職場に電話がかかってきて、諒太はすぐに帰らせてもらうことにした。
 その日も里親候補との面会があったのだが、児童相談所へ向かう途中、美緒が「おなかがいたい」と訴えてきたのだという。
 美緒はどこか様子がおかしく、面会をキャンセルして小児科を受診したらしい。特に異常はなかったようだけれど、医者が言うには心因性の腹痛かもしれないし、様子を見てほしいとのことだ。こんなふうに緊急の連絡をもらうなんて、初めてのことだった。
 急いで自宅に帰ると、美緒を抱っこした由紀子が出迎えてくれて、気遣わしげな表情を浮かべる。
「もう、『焦って帰ってこないで』って言ったのに。事故にでも遭ったらどうするの」
「ごめん、つい。――美緒、お腹痛くなっちゃったんだって? 大丈夫?」
 抱き上げて訊ねると、美緒は小さく頷いた。その様子からは、いつもの明るさは微塵も感じない。
「母さん、あとは俺に任せて。美緒のことありがとう」
「任せて、って……あなた一人で平気なの?」
「もちろん。もう母さんだって若くないんだから、甘えてばかりいらんないよ」
 諒太は努めて明るく答える。
 由紀子は心配そうにしていたものの、ふっと笑みをこぼした。
「何かあったらすぐに連絡しなさい」
 そう言って、彼女はアパートを出ていく。
 それを見送ると、諒太は美緒を抱っこしながらリビングへ連れていった。
 ソファーに座って頭を撫でてやるも、美緒は額を押しつけるようにして顔も見せてはくれない。相変わらずだんまりを決めている。
「ん、よしよし。知らない人とたくさんお話したから、疲れちゃったんだよな? ……どうしたら元気出るかな?」
 美緒が顔を伏せたまま首を横に振る。諒太は言葉を続けた。
「何かして遊ぶ? 食べたいものとかある?」
「………………」
「美緒……言ってくれなきゃわかんないよ」
 諒太は途方に暮れてしまう。美緒はこちらの胸元に顔を埋めてくるばかりだ。トントン、とその背中を優しく叩いてみるけれど、子供の扱いがわかっていない自分が歯痒くて仕方がない。
 母親の前では見栄を張ってしまったが、やはり頼るべきだったか――いや、それも今さら遅い。
(どうしよう。どうしたらいいんだろう……)
 しっかりしろ、とは思うものの、不安と自責の念が込み上げてままならない。頭の中はぐるぐると混乱するばかりだ。
 と、そのときだった。ドアチャイムを誰かが鳴らしたのは。
(ああ、こんなときにっ)
 諒太は仕方なしに、美緒を抱っこしたまま立ち上がる。相手を確認したところで思わず固まった。
「嘘、なんでっ!?」
 玄関ドアを開けてみれば、そこには橘が立っていた。何でもないことのように、彼は淡々と言葉を返してくる。
「学校の廊下で先生とすれ違って、あまりに差し迫った顔してたから何かあったのかと。一応LINEもしたんすけど、気づきませんでした?」
「ご、ごめん。それどころじゃなくって」
 言いつつ、美緒の体を抱えなおした。美緒に目をやるなり、橘は首を傾げる。
「どうしたの、美緒ちゃん? 元気ないね」
 それから、こちらに小声で「何かあったんですか?」と問いかけてくるのだが、
「橘ぁ~」
「いや、なんで先生が涙目になってるんすか」
 諒太はもういっぱいいっぱいだった。とりあえず橘を部屋の中に迎え入れ、ゆっくりと事情を話すことにしたのだった。
しおりを挟む
□イラスト置き場
https://poipiku.com/401008/
「第5話 二度目の告白」のイメージイラストなど

□アクリルキーホルダーを受注生産頒布します(ご予約は7月上旬〆切)
https://subaraya.booth.pm/items/4864614
ご関心のある方はよろしければご一緒に~
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

処理中です...