クールな年下男子は、俺の生徒で理想のお嫁さん!?

有村千代

文字の大きさ
上 下
1 / 61

第1話 嫁にほしくなるほどのカレ(1)

しおりを挟む
《台所は女の城》というのも時代錯誤で、「女だからこうあるべき、男だからこうあるべき」というのも過去の話だ。
 今は共働きも当たり前になってきているし、家事を分担する家庭がほとんどだろう。

 まあ何にせよ、独身者が増加している昨今では、男だって家事の一つや二つできなければやっていけない世の中ではあるのだが――坂上諒太さかがみりょうたは思う。それはそれとして、“できすぎてしまう”男もいるのか、と。

 月に一度、市民センターで開催される料理教室。諒太の視線の先にあるのは、手際よく野菜を切る青年の姿だった。

 諒太よりやや年下で、おそらく二十歳そこそこ。大学生といったところだろうか。長身で利発そうな顔立ちをしており、短く切りそろえられた黒髪にも清潔感がある。なによりも堂々とした印象で、姿勢がよく、動きのひとつひとつに無駄がない。

 料理教室は定員十二名のなか、四人一組で実習をする形式だ。受講生は主婦層と思しき女性が多く、男性は諒太と彼の二人だけ。そのようなこともあり、諒太は彼と同じグループになったのだが、その存在感たるや凄まじいものがある。

 他の受講生に比べ、包丁さばきからして明らかに違う。彼は常に周囲の注目を集めており、諒太もまた、見惚れるようにその姿を追っていた。

「すっげえ。嫁さんにほしいくらいだ……」

 思わず声に出してしまい、諒太は自分の口を手で押さえる。我ながら何を言っているのだろう――ハッとするも、もう遅い。

「はあ、嫌っすけど」

 ばちっと本人と目が合い、整った眉を寄せられる。ついでに、隣にいた講師にクスッと笑われてしまった。

「いや、ごめんよ……今の忘れて」

 言って、諒太は苦笑いを浮かべた。こんなことを口走ってしまうなんてどうかしている。穴があったら入りたいとはこのことだ。

(気まずっ!)

 相手はさして気にしていない様子で、淡々と調理を続けていたが、諒太としては気が気ではない。
 今日が第一回目の料理教室だというのに、いきなりの失態で最悪だ。しばらく諒太は、まともに顔を上げることができなかった。





 やがて調理が終わると、グループで作った料理がテーブルに並ぶ。
 新じゃがを使用した肉じゃがをメインに、梅としらすのおかかご飯、ほうれん草の白和え、春キャベツとしめじのみそ汁――昼食にしては少し重いが、見た目にも美しく、あっさりとした味付けでつい箸が進んでしまった。

 その後、受講生たちの多くは帰り支度を始めていたが、なかには講師と話をしたり、そのまま井戸端会議を楽しんだりする者もいた。
 無論、諒太はそんな輪のなかに入れるわけもなく、早々に荷物をまとめて退散しようとする。

 と、ロビーに出たところで、ふいに背後から「あの」と声をかけられた。

「すみません。俺、冗談とか通じなくて」

 振り返れば、例の彼が立っていた。どうやら諒太を追いかけてきたらしい。

「あー、いいってそんな。俺もどうかしてたというか」

 冗談の類ではなかったのだが、わざわざ訂正する必要もないし、そういうことにしてもらった方が助かる。そう思った矢先、

「まさか本当に?」
「ちっがーう! 確かに料理の腕に惚れ込んだのはあるけど、俺のタイプじゃないしっ」
「?」

 勢いづくあまり、いらぬことを言ってしまった。咳払いをし、努めて平静を装いながら口を開く。

「にしても、君ほんとすごいね。あんなに手際良くできるんだもん。びっくりしたよ」
「それほどでも。うち小料理屋なもんで、たまに手伝いをしては覚えたっていうか」
「ああ、だから慣れてるのか。じゃあ将来は店を継いだり、とか?」
「一応そのつもりですけど、まだまだ勉強の身っすよ」
「はー、真面目なんだねえ」

 諒太は感心して言った。
 先ほどまで気まずさを感じていたのが嘘のようだ。いざ話してみたら、意外と気さくな男で親しみやすい。

「方向どっち?」と訊くと駅の方を指差したので、それからは歩きながら話すことにした。

「俺なんか、料理はからっきし駄目だから尊敬するよ」
「でも、ちゃんと覚えようとしてるじゃないすか。男で料理教室通おうって人、なかなかいないと思います」

 褒めてくれているのだろうか。必要に迫られただけにすぎないのだが、悪い気はせず、なんだか照れくさい。

「まあね、子供にあったかい手料理食わせてやりたくって」
「お子さんいたんですか」
「つっても、姪っ子預かってるだけだよ? 姉貴の子供で、これがまた可愛いんだ」
「姪っ子」

 合点がいかないらしく言葉を反芻した彼に、諒太は笑みを浮かべながら説明する。

「嘘みたいな話なんだけど、姉貴が離婚してたうえに蒸発しちゃってさ。そんで、きちんとした親のもとで暮らせるようになるまで、俺が保護してるんだ」
しおりを挟む
□イラスト置き場
https://poipiku.com/401008/
「第5話 二度目の告白」のイメージイラストなど

□アクリルキーホルダーを受注生産頒布します(ご予約は7月上旬〆切)
https://subaraya.booth.pm/items/4864614
ご関心のある方はよろしければご一緒に~
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

Sweet☆Sweet~蜂蜜よりも甘い彼氏ができました

葉月めいこ
BL
紳士系ヤクザ×ツンデレ大学生の年の差ラブストーリー 最悪な展開からの運命的な出会い 年の瀬――あとひと月もすれば今年も終わる。 そんな時、新庄天希(しんじょうあまき)はなぜかヤクザの車に乗せられていた。 人生最悪の展開、と思ったけれど。 思いがけずに運命的な出会いをしました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~

みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。 成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪ イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)

処理中です...