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おまけSS いつかきっと、三々九度
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よく晴れた休日。二人は散歩がてら、近隣の神社へと参拝に来ていた。
「神前式もいいもんだなあ」
ふと高山が呟いて、静かに侑人も頷く。
視線の先には、白無垢の新婦と紋付羽織袴の新郎が、神職に導かれて歩いていた。雅楽が境内に響くなか、厳かに本殿まで移動する姿を見届ける。
「あの後、お神酒飲んだりするんだっけ?」
「ああ、三々九度な。新郎新婦が順番に盃を交わして、『これから一緒になります』って神様の前で契りを結ぶんだよ」
高山はどこか感慨深げに言いながら、こちらの顔をじっと見つめてきた。侑人は目をぱちくりとさせて、軽く首を傾げる。
「なに?」
「いや、白無垢似合いそうだと思って」
「……高山さん、頭大丈夫?」
本気で心配になってしまい、侑人は困惑顔で返した。冗談で言ったのかもしれないが、高山の思考回路はたまにわからない。
一方で高山はさして気にすることもなく、ふっと口元を緩めた。
「何はともあれ、そうやって二人のことを神様に誓うのもいいかもな」
「え?」
「だから神前式だよ、俺らもさ」
さらりと言ってのける高山。対して、侑人は面食らってしまい言葉を失っていた。
「神前式? 俺らが……!?」
やっとのことで口にすると、高山はさらに笑みを深めた。
「考えてみりゃ、日本じゃ挙式してないわけだし。それこそ、日本で同性婚が認められたときにでも――ってのはどうだ? 今まで認められなかったぶん、二回もできて得だろ?」
「は、はあ!? そっ……そんなこと言ったらいつになるんだか。仮に認められたとしても、ずっと先のことなんじゃねーの?」
「ははっ、そのときはお互いジジイになってそうだな? ま、それはそれで渋みが出ていいだろ。きっと和装にぴったりだ」
「………………」
その言葉を受けて、侑人は年老いた高山の姿を想像してみる。歳を重ねたところで、さらに魅力が増すのだろうと思えるから不思議だった。
深く刻まれた皺に、綺麗にまとめ上げられた白髪。そして、紋付羽織袴を颯爽と着こなしている姿といったら――、
「格好いい……」
「うん?」
「な、なんでもないっ」
思わず漏れた思考に、侑人はぶんぶんと首を横に振る。高山は不思議そうにしていたが、やがて人知れず手を握ってきた。
「いつか、本当にそんな日が来るといいよな」
秘め事のように密やかな声。
将来のことを話してくれる高山の姿は、いつだって楽しそうで眩しい。そして、それが嬉しくてたまらなくて、もうどうしようもなくなってしまう。
(いけね……最近、涙もろくなったかも)
皺だらけの手を取り合い、二人で盃に注がれたお神酒を口にして――そんな光景を思い浮かべたら、なんだか余計に来るものがあった。
侑人は涙を堪えつつ、高山の手をそっと握り返す。
「白無垢だけは勘弁だからな」
「そいつは残念。似合うと思うんだがなあ」
「ったく……俺のことになると、ほんっとバカになるんだから」
そんなやり取りをしているうちにも、本殿から神楽の調べが聞こえてきてハッとする。今まさにこれから、夫婦の契りが結ばれようとしているのだろう。
「――……」
あらためて高山と視線を交わし、優しく微笑み合う。
そうして遠い将来の夢を描きながら、二人は再び歩き出したのだった。
─────────────────────
<追記>
ここまで読んでくださりありがとうございました、これにて一区切りです!
(何か執筆できたらおまけとして投稿したいと思います)
また、8月からは新しい作品を公開しますので、よろしければお付き合いいただけますと幸いです!
「神前式もいいもんだなあ」
ふと高山が呟いて、静かに侑人も頷く。
視線の先には、白無垢の新婦と紋付羽織袴の新郎が、神職に導かれて歩いていた。雅楽が境内に響くなか、厳かに本殿まで移動する姿を見届ける。
「あの後、お神酒飲んだりするんだっけ?」
「ああ、三々九度な。新郎新婦が順番に盃を交わして、『これから一緒になります』って神様の前で契りを結ぶんだよ」
高山はどこか感慨深げに言いながら、こちらの顔をじっと見つめてきた。侑人は目をぱちくりとさせて、軽く首を傾げる。
「なに?」
「いや、白無垢似合いそうだと思って」
「……高山さん、頭大丈夫?」
本気で心配になってしまい、侑人は困惑顔で返した。冗談で言ったのかもしれないが、高山の思考回路はたまにわからない。
一方で高山はさして気にすることもなく、ふっと口元を緩めた。
「何はともあれ、そうやって二人のことを神様に誓うのもいいかもな」
「え?」
「だから神前式だよ、俺らもさ」
さらりと言ってのける高山。対して、侑人は面食らってしまい言葉を失っていた。
「神前式? 俺らが……!?」
やっとのことで口にすると、高山はさらに笑みを深めた。
「考えてみりゃ、日本じゃ挙式してないわけだし。それこそ、日本で同性婚が認められたときにでも――ってのはどうだ? 今まで認められなかったぶん、二回もできて得だろ?」
「は、はあ!? そっ……そんなこと言ったらいつになるんだか。仮に認められたとしても、ずっと先のことなんじゃねーの?」
「ははっ、そのときはお互いジジイになってそうだな? ま、それはそれで渋みが出ていいだろ。きっと和装にぴったりだ」
「………………」
その言葉を受けて、侑人は年老いた高山の姿を想像してみる。歳を重ねたところで、さらに魅力が増すのだろうと思えるから不思議だった。
深く刻まれた皺に、綺麗にまとめ上げられた白髪。そして、紋付羽織袴を颯爽と着こなしている姿といったら――、
「格好いい……」
「うん?」
「な、なんでもないっ」
思わず漏れた思考に、侑人はぶんぶんと首を横に振る。高山は不思議そうにしていたが、やがて人知れず手を握ってきた。
「いつか、本当にそんな日が来るといいよな」
秘め事のように密やかな声。
将来のことを話してくれる高山の姿は、いつだって楽しそうで眩しい。そして、それが嬉しくてたまらなくて、もうどうしようもなくなってしまう。
(いけね……最近、涙もろくなったかも)
皺だらけの手を取り合い、二人で盃に注がれたお神酒を口にして――そんな光景を思い浮かべたら、なんだか余計に来るものがあった。
侑人は涙を堪えつつ、高山の手をそっと握り返す。
「白無垢だけは勘弁だからな」
「そいつは残念。似合うと思うんだがなあ」
「ったく……俺のことになると、ほんっとバカになるんだから」
そんなやり取りをしているうちにも、本殿から神楽の調べが聞こえてきてハッとする。今まさにこれから、夫婦の契りが結ばれようとしているのだろう。
「――……」
あらためて高山と視線を交わし、優しく微笑み合う。
そうして遠い将来の夢を描きながら、二人は再び歩き出したのだった。
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<追記>
ここまで読んでくださりありがとうございました、これにて一区切りです!
(何か執筆できたらおまけとして投稿したいと思います)
また、8月からは新しい作品を公開しますので、よろしければお付き合いいただけますと幸いです!
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