ゲイ卒したいのに、何故かスパダリセフレに溺愛&求婚されてます!

有村千代

文字の大きさ
上 下
100 / 116
おまけコンテンツ

おまけSS ニューヨークからの使者(4)

しおりを挟む
 途端に接触をやめ、ウィリアムが顔を覗き込んでくる。ゆっくりと口を開いて、諭すように問いかけてきた。

「どうして、今まで黙ってたの?」
「そ、それは……俺が、人の目ばかり気にする意気地なしだから」

 侑人はそう答えて、そっと目を伏せた。
 ふとしたときに、どうしようもなく思うのだ。こんな自分が高山の隣にいていいのか、と。
 卑屈でままならぬ思いに、嫌気がさすこともある。高山の優しさに甘えている自覚だってある。ただ、それでも――、

「だけど……これでも、健二さんのこと本気で好きだし。誰よりもずっと愛してるからっ」

 懸命に言葉を紡ぎながらも、みっともなくて涙がこぼれ落ちてしまう。自分の中にある弱さがひたすら憎かった。

 けれど、もう後戻りはできないし、するつもりもない――高山の隣にいられるのが何よりも幸せで、ともに生きていく未来を誓ったのだから。それだけは、どうしたって揺るぎようがない。

 ウィリアムはしばらく黙り込んでいたが、やがて「ごめん!」と慌てて声をかけてきた。

「泣かないで、ユウト! ああ、まさかそんなナーバスだったなんて……私ってばつい調子に乗りました! このとおりだから許して!」

 先ほどまでとは打って変わって、ひどく狼狽している。侑人は空気の変わりように戸惑った。

「え、ええっ?」
「ごめん、ごめんなさい! 私がユウトに本気で何かするなんて、ありえないよお!」

 ウィリアムはなおも英語で謝りながら、侑人の背中を撫でてくる。ウィリアムの言動は理解し難いが、そこによこしまな意思は感じられなかった。

「あの、わかりましたから……ウィリアムさん」

 侑人はおずおずと身を離そうとするも、やはり力強くて敵わない。
 手を焼いていると、まさに嫌なタイミングで玄関のドアが開く音がした。

(ちょっ!?)

 続けて聞こえてきたのは、もちろん高山の声。
 侑人はぎょっとして、ウィリアムのことを押し退けようとしたのだが――すぐに足音が近づいてくる。

 リビングに入ってきた高山は、目の前の光景にショックを受けたようにみえた。が、即座に血相を変える。

「お前っ!」
「わあああーっ! ちょっと待って、高山さん! きっと誤解、誤解だからっ!」

 今にも掴みかからんばかりの勢いに、侑人は慌ててウィリアムを庇った。
 その後も何やかんやあったものの、ことの経緯を話し、なんとかその場を収めるのだった。





「――で? 侑人に迫った挙げ句、泣かせたって言うのかよ?」

(いや、何この状況っ)

 そうして現在。侑人は高山の膝の間に座らされ、背後から力強く抱きしめられていた。高山にしては珍しくピリピリとしたものを感じる――というか、「俺のものに手を出すな」と言わんばかりの抱擁っぷりである。

「しかも痴漢とか……ああー、今すぐ上書きして消毒してやりたい」

 高山はそう呟くなり、侑人の首筋に頭を擦りつけてくる。
 その向かいで正座させられているウィリアムは、呑気にも笑っていた。

「不届き者もいるもんだねえ。ケンジなら絶対に、相手の手首を捻り上げてたと思うよ!」
「お前が言うんじゃねえよ。痴漢されたあとだってのに、余計に怖い思いさせやがって……」

 高山に凄まれ、ギクリとした表情を見せるウィリアム。眉根を寄せると、飼い主に叱られた犬のようにしょんぼりとした様子で呟いた。

「ううっそうだよね……ごめんよ、ユウト。あれはほんの出来心だったの、許してくれる?」
「あ、はい。実際大したことされてませんし、もう謝らなくて大丈夫ですよ」
「おい。侑人が許しても、俺は許さねえからな」
「……高山さん、俺もそこまでヤワじゃないんだけど」

 当人の返事を差し置いて、高山がきっぱりと言い放つ。ウィリアムはぷくっと頬を膨らませた。

「もうっ、ケンジは私のタイプ知ってるでしょ!? 残念ながら、ユウトには勃起しません!」
「!?」

 包み隠さぬ爆弾発言に、侑人は目を見開いて固まってしまった。高山も一瞬固まったものの、すぐに苦々しい表情になる。
 ウィリアムはそんな二人の様子に構わず、さらに言葉を続ける。

「私もゲイですが、《ゲイベアー》しか興味がありません。もっと素朴で毛むくじゃらで、ずんぐりむっくりした子をファックしたいよ!」

 頭上からため息が聞こえる。侑人は小声で高山に声をかけた。

「……ウィリアムさんって《熊専》なんだ?」
「ああ、それも本場のな。体毛がないと駄目らしい」

 と、言葉を交わしたところで、どうやら聞こえていたらしいウィリアムが会話に割り込んでくる。

「そう、アジア人は体毛が薄いのが残念。でも、日本の《ハッテン場》にはちょっと興味があります! ご存知でしたら――」
「いい加減にしろ、ウィリアム。つーか……それなら、なんで侑人にちょっかい出すような真似したんだよ」

 暴走気味のウィリアムをたしなめつつ、高山が問いただす。ウィリアムはあっさりと答えた。

「それはユウトがあまりにシャイで、ヤキモキしたからだよう」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

平凡な男子高校生がイケメンに愛される日々、フェロモンって存在するのか?

mamaマリナ
BL
 どこにでもいるような平凡な男子高校生の俺だか、何故か男に好かれやすい。あることをきっかけで知り合った、イケメンエリートサラリーマンとの恋模様。  俺は、ノーマルなはずだったのに。 イケメン(エリートサラリーマン)×平凡(男子高校生)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...