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おまけSS それぞれの幸せの形(1)
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高山の妹である陽菜が出産したのは、つい三ヶ月前のこと。現在は里帰りから戻って、都内のマンションに家族三人で暮らしている。
ある昼下がり、侑人は高山に連れられ、初めて陽菜のもとを訪ねた。
「颯太、デカくなったなあ」
こうして対面するのは、出産祝いに伺ったとき以来だ。高山は陽菜から受け渡された赤ん坊――颯太を抱くと感慨深げに呟く。
その微笑みはどこまでも慈愛に満ちており、侑人はじんわりと胸が温かくなるのを感じた。
(に、似合う……いかにも〝パパ〟って感じ)
赤ん坊を相手にする姿がよく馴染んで、思わず見惚れてしまう。と、そんなことをしていたら、高山が向き直ってこちらを見てきた。
「なあ、侑人も抱っこしてみろよ」
「え、俺?」
いいのだろうか、と陽菜の顔をうかがう。すると彼女は、「どうぞ」とにこやかに微笑んできた。
「でも俺、赤ちゃん抱っこするの久しぶりだし……姪っ子だってもう何年前かっ」
「大丈夫、私も傍で見てるから。ほら、颯太も侑人くんに興味津々っぽいし――ねえ、颯太? また抱っこするからねー」
そう言って、侑人の背中をぽんっと叩いてくる。
颯太は布団の上へと戻されていた。侑人は促されるまま、その小さな頭を軽く持ち上げ、両腕で体全体を掬うようにして抱き寄せる。
「だ、大丈夫? ちゃんと支えられてる?」
「うんうんっ、侑人くん上手!」
陽菜の言葉に胸を撫で下ろす。
まだ人見知りをする時期ではないのだろう。颯太は泣きもせず、大人しく腕の中に収まってくれた。
「こんにちは、颯太くん」
ドキドキしながら声をかけると、大きな瞳でじっと見つめ返された。ややあって、颯太はニコッと愛らしい笑みを向けてくる。
(可愛いっ!)
颯太の体はぷくぷくとしていて、どこもかしこも柔らかい。赤ん坊特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、屈託のない笑顔を見ていると、こちらまで幸せな気分になるようだ。
「んー? 颯太、俺に抱っこされるよか嬉しそうじゃねえの」
高山が隣にやってきて、颯太の手のひらを指で優しくつつく。すると颯太は、その指をぎゅっと握り返した。
「お、力強え。にぎにぎ上手だなあ」
高山はあふれんばかりの笑顔を浮かべ、颯太の顔を覗き込む。
そんな光景を前にし、侑人はどこか胸が切なくなるのを感じた。
(あ……あれ?)
どうしてだろう、と考えてすぐに思い当たる。――そこには当然のごとく、幸せそうな家族の姿があったのだ。
その夜、自宅に戻ってくると、侑人はリビングのソファーに座ってぼんやりとした。
入浴はもう済ませたし、あとはベッドに入って寝るだけなのだが、どうにも気力がわかない。昼間の出来事を思い返すと、なんだか胸がざわついて落ち着かなかった。
(高山さん、すごくいい顔してたな……)
本当に幸せそうで――と考えたそのとき、首筋にひんやりとしたものが触れた。反射的に声を上げて振り返れば、高山が缶ビールを手に立っている。
「っ、びっくりした。脅かすなよ」
「はは、悪い悪い。ぼんやりしてるもんだから、つい」
言って、缶ビールをローテーブルに置きながら隣に腰掛けてくる。それからおもむろに手を伸ばしてきて、こちらの髪をくしゃりと撫でてきた。
ある昼下がり、侑人は高山に連れられ、初めて陽菜のもとを訪ねた。
「颯太、デカくなったなあ」
こうして対面するのは、出産祝いに伺ったとき以来だ。高山は陽菜から受け渡された赤ん坊――颯太を抱くと感慨深げに呟く。
その微笑みはどこまでも慈愛に満ちており、侑人はじんわりと胸が温かくなるのを感じた。
(に、似合う……いかにも〝パパ〟って感じ)
赤ん坊を相手にする姿がよく馴染んで、思わず見惚れてしまう。と、そんなことをしていたら、高山が向き直ってこちらを見てきた。
「なあ、侑人も抱っこしてみろよ」
「え、俺?」
いいのだろうか、と陽菜の顔をうかがう。すると彼女は、「どうぞ」とにこやかに微笑んできた。
「でも俺、赤ちゃん抱っこするの久しぶりだし……姪っ子だってもう何年前かっ」
「大丈夫、私も傍で見てるから。ほら、颯太も侑人くんに興味津々っぽいし――ねえ、颯太? また抱っこするからねー」
そう言って、侑人の背中をぽんっと叩いてくる。
颯太は布団の上へと戻されていた。侑人は促されるまま、その小さな頭を軽く持ち上げ、両腕で体全体を掬うようにして抱き寄せる。
「だ、大丈夫? ちゃんと支えられてる?」
「うんうんっ、侑人くん上手!」
陽菜の言葉に胸を撫で下ろす。
まだ人見知りをする時期ではないのだろう。颯太は泣きもせず、大人しく腕の中に収まってくれた。
「こんにちは、颯太くん」
ドキドキしながら声をかけると、大きな瞳でじっと見つめ返された。ややあって、颯太はニコッと愛らしい笑みを向けてくる。
(可愛いっ!)
颯太の体はぷくぷくとしていて、どこもかしこも柔らかい。赤ん坊特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐり、屈託のない笑顔を見ていると、こちらまで幸せな気分になるようだ。
「んー? 颯太、俺に抱っこされるよか嬉しそうじゃねえの」
高山が隣にやってきて、颯太の手のひらを指で優しくつつく。すると颯太は、その指をぎゅっと握り返した。
「お、力強え。にぎにぎ上手だなあ」
高山はあふれんばかりの笑顔を浮かべ、颯太の顔を覗き込む。
そんな光景を前にし、侑人はどこか胸が切なくなるのを感じた。
(あ……あれ?)
どうしてだろう、と考えてすぐに思い当たる。――そこには当然のごとく、幸せそうな家族の姿があったのだ。
その夜、自宅に戻ってくると、侑人はリビングのソファーに座ってぼんやりとした。
入浴はもう済ませたし、あとはベッドに入って寝るだけなのだが、どうにも気力がわかない。昼間の出来事を思い返すと、なんだか胸がざわついて落ち着かなかった。
(高山さん、すごくいい顔してたな……)
本当に幸せそうで――と考えたそのとき、首筋にひんやりとしたものが触れた。反射的に声を上げて振り返れば、高山が缶ビールを手に立っている。
「っ、びっくりした。脅かすなよ」
「はは、悪い悪い。ぼんやりしてるもんだから、つい」
言って、缶ビールをローテーブルに置きながら隣に腰掛けてくる。それからおもむろに手を伸ばしてきて、こちらの髪をくしゃりと撫でてきた。
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