ゲイ卒したいのに、何故かスパダリセフレに溺愛&求婚されてます!

有村千代

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おまけSS 温泉旅行の静かな夜(第7.5話)

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「……星、本当に綺麗だな」

 温泉旅行での一夜のこと――侑人は夜空を見上げ、小さく呟く。
 あれから汚れた体を洗い流し、二人の姿は再び広縁にあった。
 窓は薄く開いていて、時折吹く風が火照った体に心地いい。腰を落ち着かせながら、何をするでもなく静かな夜に浸る。

 そのうち、向かいに座っていた高山が言葉を返してきた。

「人のこと襲ってきたくせに、よく言うよ」
「っ!?」

 口にしようとしていた緑茶を吹きだしそうになり、慌てて湯呑みを置く。
 高山は涼しい顔で、続けざまに言ってのけた。

「性欲強いもんなあ、お前」
「バッ、あんたに言われたかねーし!」
「んー? 絶対、俺よか強いって」

 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべられてしまう。
 言い訳など通用しないとわかりきっているが、素直に認めるのも癪だった。

「こんなふうにしたの、誰だと思ってんだよ」
「さあてな」
「………………」

 恨みがましい目で見ると、今度はクスッと笑われた。
 かと思えば、「おいで」とでも言うかのように自分の膝を叩いてみせる。

 高山のこんなところが憎めない――というか、好きなのだと思う。素直に高山のもとへ移動すると、すかさず抱き寄せられ、膝の上にちょこんと座らされた。

「重くねえの?」
「全然? こうして侑人のこと抱っこすんの、すげえ好き」
「『抱っこ』って……子供じゃないんだから」

 唇を尖らせながらも、胸の鼓動が速まっていくのを感じる。
 触れ合った箇所から伝わる体温。高山の大きな手がゆっくりと背中を撫でて、なんだかフワフワとした心地になる。
 侑人は知らずのうちに、身を委ねるようにして高山に寄りかかっていた。と、そんなことをしていたら、またいたずらっぽく笑われてしまう。

「もしかして今日、旅館に来てからずっと期待してたか?」
「ん、なに?」
「さっきの話の続き」

 甘ったるい空気の中、高山がじっと見つめてくる。事後の色気とでも言うのだろうか、ひどく艶っぽい眼差しをしている気がした。
 しばらく答えられずにいた侑人だったが、やがてぽつりと漏らす。

「してた、よ……期待」

 言うと、高山は笑みを深めた。

「そうか。そいつは悪いことしたな」
「……高山さんは?」
「俺? 俺なんか、旅行の準備してるときからずっとだ」

 恥ずかしげもなく言い放つ高山に、侑人は呆気にとられる。新品のコンドームを用意していたあたり、確かに思い当たる節はあるのだが。

「やっぱ、人のこと言えないじゃん。このエロオヤジ」
「はいはい。ま、他にも楽しみたいことはあったし――お前と違って、急に襲いかかったりはしないがな」

 嫌味ったらしいこちらの言葉を、高山はさらりとかわしてみせる。それどころか反撃に転じる始末で、侑人は「うっ……」と言葉を詰まらせた。

「おかげで随分と煽られたもんだ」
「わ、悪かったなっ」
「はは、拗ねんなって。少し意地悪がすぎたか?」

 高山が頭をくしゃくしゃと撫でてくる。まるで子供をあやすかのような扱いだ。
 侑人はそっぽを向いてみせるも、すぐさま顎を捕らえられて正面を向かされてしまった。それから、ちゅっと触れるだけの口づけを落とされる。

「……ご機嫌取りかよ」
「だったら?」

 それがどうした、とばかりに不敵な笑みを見せる高山。こんなのあんまりだ――もう負けを認めるしかないではないか。
 高山が着ている浴衣の袖を掴むと、侑人はむくれたまま体をすり寄せた。

「もっと、して――」

 と、精一杯のおねだりをする。
 高山はフッと口元を緩めたのちに、優しく唇を奪ってくれた。

(俺、いつの間にこんな……)

 高山に甘やかされるのが、こうも好きになってしまったなんて――。
 頭を撫でられながらキスを交わし、侑人は恍惚とした表情を浮かべる。

 そうして互いの息遣いと水音が響くなか、夜は静かに更けていった。
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