上 下
77 / 110
おまけコンテンツ

おまけSS 愛しい君の寝顔(第5.5話)

しおりを挟む
(なんか、あったかくて……気持ちいい――)

 そんな思いとともに、侑人はゆっくりと瞼を開く。カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しく、ぼんやりとした意識で瞬きを繰り返していたのだが、

「っ!?」

 視界に飛び込んできた光景に、一気に意識が覚醒する。
 目の前にあったのは高山の寝顔だった。侑人のことを抱きかかえるように寝ていて――と思いきや、こちらもこちらで、何故だか高山のシャツをがっしり掴んでいるではないか。

(そうだ、高山さんが泊まってくれて……だけどなんでっ!?)

 昨日の出来事を思い出すも、高山に背を向けて寝ていたはずで、このような恥ずかしい姿になっている理由がわからない。
 やたらとぐっすり寝られた気がするし、体も随分と楽になっているのはありがたいけれど、ちょっといただけないものがある。侑人はどうにか抜け出そうと身じろいだ。

(起こさないように、そーっと――)

 が、どうやら逆効果だったらしい。高山がさらに抱き寄せてきて、侑人はその胸元へと顔を埋める形になってしまうのだった。

「ん……侑人」

 掠れた低音で名前を呼ばれ、思わずドキッとする。
 一瞬起きたのかとも思ったが違ったようだ。高山はこちらを抱き枕のように抱え直して、再び寝息をたて始める。
 もう身動きなど取れるはずもなく、侑人は観念して大人しくするほかなかった。

(何なんだよ、この状況は!)

 恨みがましい気持ちで、高山の顔を見上げる。しかし、ささくれ立った気持ちもすぐに失せてしまった。

 悔しいが、高山は本当に整った顔立ちをしていると思う。凛々しい眉に、すっと通った鼻筋。睫毛も長くて、唇は――と、見ていて飽きないというか、思わず見惚れるように観察してしまう。
 初めて一夜をともにし、普段は見ることのできない寝顔を前にする。こんな機会でなければ照れくさくて、まじまじと見つめることなどできないだろう。

「………………」

 ふと思い立ち、ちょっとした好奇心で手を伸ばしてみる。
 指先で頬に触れてみれば、見た目よりも柔らかい。そのまま輪郭をなぞっていくのだが、眉間に皺が寄ったのを見て、パッと手を引っ込めた。

「――侑人?」

 今度こそ目が覚めたらしい。
 侑人は反射的に顔を伏せ、身を固くして寝たふりを決め込む。
 対して高山はというと、こちらの額に手をやって体温を測っているようだった。熱が下がっていることに安堵した様子を見せ、続けざまに髪を梳いてくる。

「朝飯できたら起こすから、まだ寝てろよ」

 優しい手つきにドキドキしていたら、高山がそのような言葉を残して部屋を出ていった。
 侑人が目を開けたのは、それからしばらくしてのことだ。
 
(うわああぁーっ!)

 心の中で絶叫し、真っ赤になった顔を両手で抑える。
 とてもじゃないが、今の言葉は独り言とは思えなかった。考えれば考えるほど恥ずかしくなってきて、居たたまれない気持ちでいっぱいになる。

(っ、もう……いろいろやばい)

 恥ずかしくて――けれど、それ以上に高山の思いやりが嬉しくて。
 熱の余韻に浮かされたまま、侑人は一人で悶々とするのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

二十歳の同人女子と十七歳の女装男子

クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。 ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。 後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。 しかも彼は、三織のマンガのファンだという。 思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。 自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。

てなずけたポメラニアンはSubで鬼上司でした

有村千代
BL
ポメラニアン(※上司)を躾けて甘やかして♥ Dom/Subユニバース×ポメガバース! <あらすじ> 「上司があんなに可愛いポメラニアンだとか! 忘れる方が無理ってもんでしょう!?」 駆け出しの商社マン・羽柴は、鬼上司の犬飼に叱られてばかりの日々を送っている。 ある日、終業後のオフィスで、なぜか一匹のポメラニアンと遭遇するのだが――その正体はまさかの犬飼だった! 犬飼は過度のストレスを感じると、ポメラニアンに変化してしまう特異体質。さらにはSubとして欲求不満を抱えていたのだ。 羽柴は力になりたいと思うも、実はプレイが苦手なDomで、コマンドなんて飼い犬相手にしか使ったことがない。 そんな羽柴に対して犬飼が提案してきたのは、プレイ練習という名の仮パートナーで…!? 【無邪気ワンコ部下×クーデレ鬼上司(プレイが苦手なDom×ポメ化するSub)】 ※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています。 ※全7話+番外編5話(断章含む)、毎日更新。 ※ピュアな下剋上Dom/Subユニバース。プレイは甘々褒め、ソフトSM。 (Dom/Subが初めての方にも楽しんでいただけたら幸いです!) 作者X(Twitter)【https://twitter.com/tiyo_arimura_】 掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv】

処理中です...