64 / 110
第9話 結婚式と、それから…(8)
しおりを挟む◇
翌朝。カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ます。
目覚めは大きなキングベッドの上だった。隣には高山が裸のまま眠っていて、侑人は昨夜の情事を思い出しながら、筋肉質な胸板に擦り寄る。
素肌同士が触れ合う感触が心地いい。あんなに激しく愛し合ったというのに、体は綺麗にされていて不快感もなかった。きっと眠っている間に後始末をしてくれたのだろう。さすがに足腰は少し痛んだが、それもなんだか幸せな痛みに思えた。
(今でも夢みたいだ……)
ごろんと寝返りをうち、天井に向かって左手を掲げる。薬指には結婚指輪が輝いていた。
結婚したことで何かが大きく変わるというわけではない。また、日本で同性婚が認められるのもいつの日かわからない――今後、パートナーシップ制度を受けるか、養子縁組をするかといった話もまだ二の次である。
ただ、愛し合う二人が《夫夫》として一つの〝家族〟になったのは確かだった。
決して楽しいことばかりではないだろうし、困難だって待ち受けているかもしれない。それでも、生涯の伴侶として歩んでいく未来を選んだのだ。
侑人は軽く体を起こすと、そっと高山の左手を取った。愛おしげに頬擦りしたのち、薬指にちゅっと口づける。
「ずっと、一緒にいよう――健二さん」
初めて下の名前で呼び、「愛してる」と続けた。
と、そのとき。不意に腕が伸びてきて、あっという間に抱きすくめられてしまう。
「そういった可愛いことは、俺がちゃんと起きてるうちにやれよ」
驚いて顔を上げれば、幸せそうに微笑む高山と目が合うではないか。
「ちょっ、起きてたのかよ!?」
「今起きたんだよ。おはよう」
「お、はよ……」
恥ずかしくなって、布団に潜り込もうとするが阻止される。
高山はこちらへと覆い被さってくるなり、顎に手を添えて上を向かせた。
「名前、初めて呼んでくれたな」
「っ、悪いかよ」
わざわざそこを指摘してくるあたり、やはり意地悪だとしか思えない。唇を尖らせると、高山は小さく笑って首を横に振った。
「いや、嬉しいよ。もう一回呼んでほしいくらいだ」
言って、口元を親指でなぞってくる。
「……やだよ」
「なんでだよ? いいだろ、名前で呼ぶくらい」
「恥ずかしいから駄目だって」
「お願いだ、侑人――」
そんな甘い声で囁かれたら断れるはずがない。ずるい男だと思いながらも、結局のところ折れるのはこちらの方だ。
「け……健二さん」
蚊の鳴くような声で呼ぶと、高山は満足げに目を細めた。
「呼び捨てでもいいんだぞ?」
「む、無理。なんか呼びづらい……」
「じゃあ、さん付けでいいからもう一回頼む」
「けん――って、もう呼んでたまるか! 調子乗んなっ!」
顎に添えられた手を振り払い、ぷいっと顔を背ける。
高山は当然のごとくお構いなしだ。くつくつと笑って頭を撫でてくる。
「すまんすまん、嬉しくてつい。まあ、無理して呼ぶ必要もないか――時間はまだまだあるんだからな」
「まだまだ、って」
「ずっと、一緒にいるんだろ?」
こちらの言葉をなぞらえるように口にする高山。その眼差しには確かな愛情が宿っていて、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
「うん――」
そう、自分たちにはまだ多くの時間がある。これから何十年もの間、生涯をともにすると決めたのだから。
侑人は頷き返すと、満面の笑みを浮かべる。
その健やかなるときも病めるときも、どうか末永く。祈りにも似た思いを抱きながら、愛しい人の胸へと飛び込んだのだった。
57
お気に入りに追加
641
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる