上 下
58 / 110

第9話 結婚式と、それから…(2)

しおりを挟む
「侑人おぉ~!」

 侑人の兄である恭介が駆け寄ってきて、勢いよくハグしてきた。その瞳には涙が滲んでいる。

「あーもう泣いてんのかよ。まだ早いって」
「だって、俺の可愛い弟が婿入りするんだぞ!? 笑顔で送り出したいのは山々だが、寂しくて寂しくて……うう、タキシード姿なんて見たら込み上げてくるものがっ!」
「ったく。仕方ないなあ、兄さんは……」

 呆れつつも、侑人は背中をぽんぽんと叩いてやる。
 恭介の背後には両親の姿があって、目が合うなり微笑みを交わした。当初は息子のカミングアウトに動揺していたようだったが、すぐにあたたかい言葉で受け入れてくれたときのことは記憶に新しい。

 父と母、そして高山の親族とも会話を交わして、チャペル内に足を踏み入れる。
 真っ先に視界に入ったのは真っ赤なバージンロード。そしてその先、祭壇奥の壮大なステンドグラスだった。ちょうど太陽光が差し込み、辺り一帯を幻想的な雰囲気に彩るそれは、まさに圧巻の一言に尽きる。

 ほどなくして牧師とのリハーサルを執り行い、挙式の段取りを確認すれば――いよいよそのときだ。
 スタッフの合図を受けて、あらためてチャペルへと入場する。

(う、わっ)

 足を踏み入れた途端、ぶわりと感動が押し寄せてくるのを感じた。
 緊張しながらも高山のエスコートでバージンロードを歩き、一歩一歩と進みながら祭壇までたどり着く。

 厳かな雰囲気の中、式は粛々と進んでいった。牧師による開式の辞から始まり、順番に結婚の誓約を交わす。
 心臓が高鳴って手足も緊張で震えていたが、それも最初のうちだけだった。高山と手を重ねながら見つめ合えば、自然と気持ちが落ち着いていくのを感じた。

「I do.《誓います》」

 牧師の問いかけにそう答え、誓いの言葉を復唱する。いついかなるときも互いを愛し、人生のあらゆる面で支え合うことを約束する。

 そうして、感動の瞬間。指輪の交換へと至ったのだった。

「――……」

 高山がリングピローから指輪を摘み上げ、侑人もそれに合わせて左手を差し出す。

 二人が選んだのは、永遠の象徴であるメビウスの輪がモチーフのプラチナリングだ。シンプルなデザインでありながらも上品な輝きを放ち、内側には互いのイニシャルと今日の日付が刻印されている。

 やがて、高山の手によって指輪がゆっくりと薬指にはめられた。その瞬間、侑人は言葉にできないほどの幸福感に包まれる。
 そして高山もまた、同じ思いだったに違いない。高山の眼差しはどこまでも優しく慈愛に満ちていて、思わず見惚れてしまうほどだった。

(高山さん――)

 牧師から指輪を受け取り、今度はこちらが高山の左手薬指に通す。

 今日という日を迎えるまでさまざまなことがあった。本当に結婚するのだという実感を噛みしめながら指輪をつけ終えれば、牧師による宣言があり――今をもって二人は正式に《夫夫ふうふ》となったのだった。

「……っ」

 牧師の言葉を聞いて、侑人は目頭が熱くなった。
 参列している誰もが自分たちの結婚を祝福してくれている。その事実が嬉しくて、知らずのうちに涙がこぼれ落ちていた。
 こんなタイミングで泣くだなんて我ながら情けない。が、涙はとめどなく溢れてくる。

『侑人』

 声には出さなかったが、高山の唇がそう動いた気がした。
 高山はジャケットの内ポケットからハンカチを取り出すと、そっと目元を拭ってくれる。その優しい手つきにますます泣きそうになったけれど、侑人はぐっと堪えて顔を上げた。

「………………」

 もう大丈夫だと目で訴えれば、高山は安心したように笑みを深め、緩やかに唇を寄せてくる。

 ――最後に誓いのキスを交わし、式は滞りなく終了したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

処理中です...