ゲイ卒したいのに、何故かスパダリセフレに溺愛&求婚されてます!

有村千代

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第7話 ドキドキ♡温泉デート(8)

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    ◇


「忘れ物ないか?」

 翌日。一通り観光を終え、車に乗り込んだところで高山が尋ねてきた。侑人は助手席に腰を下ろしながら返事をする。

「大丈夫。旅館出るときにも確認したし」

 早いもので、この一泊二日の旅行ももうすぐ終わりだ。少し寂しい気もするが、それ以上に充実した時間を過ごせたことに満足感を得ていた。

(楽しくて、なんだかあっという間だったな)

 と、自然と笑みが浮かんでいる自分にハッとする。高山と目が合ったので表情を取り繕い、何でもないと首を振ってからシートベルトを締めた。

「そうだ、暇なら写真でも見てたらどうだ?」

 言って、高山が差し出してきたのはミラーレス一眼だった。
 簡単に操作を教わってから受け取ると、早速写真を一枚ずつ確認してみる。出発時の何気ない場面から始まり、海を背景にしたツーショット、旅館での食事や風景――侑人はそれらの写真をスライドさせていくうちに、あることに気がついた。

「……なんか俺、笑ってばっか?」
「おいおい、今さら何言ってんだよ」

 車を走らせながら、高山がおかしそうに笑う。
 写真の中の侑人はどれもこれも、大なり小なり笑みを浮かべていた。普段は仏頂面ばかりだと思っていただけに、そのギャップに恥ずかしくなる。

「うわっ、俺ってこんな顔して笑うんだ」
「なんだ、自覚なかったのか。テニスのときなんか満面の笑みだったぞ? 『俺でも高山さんに勝てることがあったんだ』って。ったく、こっちは授業でしかやったことないってのに」

 今日は神社や公園散策のほか、せっかくだからとテニスコートで汗を流した。
 結果は元テニス部である侑人の圧勝。大人げない話ではあるが、ミスを誘って綺麗にスマッシュが決まったときは、ついガッツポーズが出てしまうほど嬉しかったものだ。

「ごめん」

 写真を見ていたら思い出してしまい、隠せぬ笑いが声に混じった。
 高山は横目でこちらを一瞥し、くつくつと喉を鳴らして笑う。

「それだけ楽しかったってことだろ?」
「う、うん」

 あらためて言われると気恥ずかしいが、侑人は頷いて言葉を続けた。

「俺、高山さんとの旅行ずっと楽しみにしてて。実際すごく楽しくってさ――だから、ありがとう」

 言うと、高山の笑みが穏やかなものへと変わる。

「よかった、そいつを聞いて安心したよ」
「高山さんも楽しんでくれた?」
「もちろん。人混みもないし、のどかでいい場所だったよな」
「そう、それ。おかげでのびのびできた気がする」
「っは、提案して正解だったわけだ。……おまけに、俺も一度くらい侑人と来たかったしな」
「え?」

 思わぬ話の流れに、侑人は目を丸くして高山を見る。高山は顔を前に向けたまま言った。

「いや、合宿で本城と来てたんだろ?」
「それは部活の行事で……って、なに? まさか嫉妬とか?」
「かもな」
「っ!」

 侑人は口元を手で押さえながら肩を震わせた。
 高山が冗談半分で言っているのはわかるけれど、少なくとも対抗心があったとは思わなかったし、なんだか嬉しい気もしてしまう。

「本城先輩、かわいそう」
「おい、なんでそっちの肩持つんだよ」

 負けじと冗談めかして言えば、高山は拗ねたような口調で返してくる。侑人はおかしさにクスクスと笑った。

(ああ……俺、また笑ってる)

 いつからこんなふうに笑えるようになったのだろう。高山と付き合いだしてから、同じことの繰り返しだった日々が少しずつ変わり始め、自分でも知らなかった顔が増えていくようだった。

「ほんっと、お前といると楽しくて仕方がない。また今度どこか行こうな」
「うん、楽しみにしてる」

 ひとしきり笑ったあとでそんな言葉を交わす。それから、侑人はもう一度写真に視線を落とした。
 そこには笑顔の自分がいて、隣には同じように恋人が笑っている。どうかいつまでも思い出せるよう、ともに過ごす時間を大切な思い出として残したいと思った。
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