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第7話 ドキドキ♡温泉デート(1)
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夜は静かに更けて、まもなく日付が変わるという頃合い。
暗い室内に聞こえるのは微かな寝息だった。仕事終わりに高山のマンションへと訪れた侑人は、ベッドで一人横になって家主の帰宅を待つ。
やがてガチャリとドアが開く音がして、玄関から足音が聞こえてきた。
「侑人、来てるのか?」
寝室のドアが開き、仕事から帰ってきた高山が顔を覗かせる。寝ているであろうこちらを気遣っているのか、その足取りはゆっくりだ。
「………………」
隣までやって来ると、ベッドのスプリングが静かに軋んで、覆い被さるように顔を覗き込まれる気配がした。
無言のまま頬を撫でられ、顎に手が添えられたかと思えば上を向かされ――そうして、高山がキスしようとしたそのとき。
「!」
すかさず肩を押し退けて、侑人がぐるりと体を入れ替えた。高山はベッドの上に押し倒され、一気に形勢が逆転する。
侑人はいたずらっぽくキスしたのち、軽く笑みを浮かべてみせた。
「おかえり、高山さん」
「ただいま。……ったく、このいたずらっ子め。寝たふりかよ」
苦笑すると、高山はお返しとばかりに額へ口づけてくる。それから、いつものように頭を撫で回してきた。
「ちゃんと部屋に入って待ってたんだな、えらいえらい。合鍵使うのにも慣れたか?」
「なんだよその扱い。子供かっての」
正式に付き合いだして一か月。侑人は週一程度のスパンで、高山のマンションに足を運ぶようになっていた。
今日は残業で遅くなると聞いていたし、「来るなら先に寝てていい」とも言われていたが、明日は二人そろって接待も何もない休日だった。少しでも長く触れ合いたくて、こうして帰りを待っていたのだ。
「いいな、こういうの。お前が家にいると安心する」
しみじみとした口調で言って、高山が侑人の体を抱き寄せた。
体勢を横に変えつつ、ぎゅうぎゅうと抱きしめながら顔を埋めてくる。その仕草がやけに子供っぽく思え、侑人は笑みをこぼした。
「なに? 仕事大変だった?」
いつもとは逆にこちらが頭を撫でてやる。高山は静かに頷いた。
「今日は訪問件数がやたらと多くてな。会社に戻っても、事務作業に追われるしで」
「……そっか。遅くまでご苦労様」
労をねぎらうと、高山が息をついてさらに身を寄せてくる。
二人の関係が進展してからというもの、高山はたまにこうして甘えてくるようになった。恋人の特権というべきか――何でもそつなくこなし、普段は余裕たっぷりな彼が、自分の前では無防備な姿を許してくれるのが嬉しく思う。
とはいっても、圧倒的にこちらが甘やかされる側なのは変わらない。高山は何から何まで面倒を見てくれるし、相変わらずの尽くしようだ。ただ、以前と比べて相互的なものになったせいか、より居心地の良さを感じていた。
(俺も……高山さんといると安心する)
一歩踏み出すだけで、こうも二人を取り巻く空気が変わるのかと驚かされる。付き合いたての雰囲気に、少し浮かれているのかもしれないとは思うけれど、今はふわついた気分を味わうのも悪くない――。
そのようなことを考えながら、侑人は「あのさ」と切り出すのだが、思わぬところで高山と声が重なってしまった。
「あ、高山さんいいよ」
「いや、お前からで」
互いに顔を見合わせつつ訪れる沈黙。先に口を開いたのは、侑人の方だった。
「ええっと、ゴールデンウィークの予定ってどうなってる?」
「それ、ちょうど訊こうと思ってた」
奇遇にも、二人して同じことを考えていたらしい。
些細なことではあるけれど、心が通じ合っているような気がして、つい嬉しくなってしまう。侑人は気恥ずかしさに視線をさまよわせながらも、言葉を続けた。
「よかったら、二人で旅行とか行ってみない?」
「いいのか? そういったの苦手だと思ってたんだが」
「まあ、あんま得意じゃないけど……高山さんと一緒ならいいかなって。家でゆっくりするのもいいんだけど、たまにはさ?」
「そうか、なんだか嬉しいな。お前と旅行だなんて考えただけでワクワクする」
「……俺も」
素直に気持ちを伝えると、高山は目を細めてふわりと笑みを浮かべた。
それから互いのスケジュールを確認して、旅行の日取りや目的地を話し合う。侑人は胸を躍らせつつ、高山とともに過ごす特別な休日に思いを馳せるのだった。
暗い室内に聞こえるのは微かな寝息だった。仕事終わりに高山のマンションへと訪れた侑人は、ベッドで一人横になって家主の帰宅を待つ。
やがてガチャリとドアが開く音がして、玄関から足音が聞こえてきた。
「侑人、来てるのか?」
寝室のドアが開き、仕事から帰ってきた高山が顔を覗かせる。寝ているであろうこちらを気遣っているのか、その足取りはゆっくりだ。
「………………」
隣までやって来ると、ベッドのスプリングが静かに軋んで、覆い被さるように顔を覗き込まれる気配がした。
無言のまま頬を撫でられ、顎に手が添えられたかと思えば上を向かされ――そうして、高山がキスしようとしたそのとき。
「!」
すかさず肩を押し退けて、侑人がぐるりと体を入れ替えた。高山はベッドの上に押し倒され、一気に形勢が逆転する。
侑人はいたずらっぽくキスしたのち、軽く笑みを浮かべてみせた。
「おかえり、高山さん」
「ただいま。……ったく、このいたずらっ子め。寝たふりかよ」
苦笑すると、高山はお返しとばかりに額へ口づけてくる。それから、いつものように頭を撫で回してきた。
「ちゃんと部屋に入って待ってたんだな、えらいえらい。合鍵使うのにも慣れたか?」
「なんだよその扱い。子供かっての」
正式に付き合いだして一か月。侑人は週一程度のスパンで、高山のマンションに足を運ぶようになっていた。
今日は残業で遅くなると聞いていたし、「来るなら先に寝てていい」とも言われていたが、明日は二人そろって接待も何もない休日だった。少しでも長く触れ合いたくて、こうして帰りを待っていたのだ。
「いいな、こういうの。お前が家にいると安心する」
しみじみとした口調で言って、高山が侑人の体を抱き寄せた。
体勢を横に変えつつ、ぎゅうぎゅうと抱きしめながら顔を埋めてくる。その仕草がやけに子供っぽく思え、侑人は笑みをこぼした。
「なに? 仕事大変だった?」
いつもとは逆にこちらが頭を撫でてやる。高山は静かに頷いた。
「今日は訪問件数がやたらと多くてな。会社に戻っても、事務作業に追われるしで」
「……そっか。遅くまでご苦労様」
労をねぎらうと、高山が息をついてさらに身を寄せてくる。
二人の関係が進展してからというもの、高山はたまにこうして甘えてくるようになった。恋人の特権というべきか――何でもそつなくこなし、普段は余裕たっぷりな彼が、自分の前では無防備な姿を許してくれるのが嬉しく思う。
とはいっても、圧倒的にこちらが甘やかされる側なのは変わらない。高山は何から何まで面倒を見てくれるし、相変わらずの尽くしようだ。ただ、以前と比べて相互的なものになったせいか、より居心地の良さを感じていた。
(俺も……高山さんといると安心する)
一歩踏み出すだけで、こうも二人を取り巻く空気が変わるのかと驚かされる。付き合いたての雰囲気に、少し浮かれているのかもしれないとは思うけれど、今はふわついた気分を味わうのも悪くない――。
そのようなことを考えながら、侑人は「あのさ」と切り出すのだが、思わぬところで高山と声が重なってしまった。
「あ、高山さんいいよ」
「いや、お前からで」
互いに顔を見合わせつつ訪れる沈黙。先に口を開いたのは、侑人の方だった。
「ええっと、ゴールデンウィークの予定ってどうなってる?」
「それ、ちょうど訊こうと思ってた」
奇遇にも、二人して同じことを考えていたらしい。
些細なことではあるけれど、心が通じ合っているような気がして、つい嬉しくなってしまう。侑人は気恥ずかしさに視線をさまよわせながらも、言葉を続けた。
「よかったら、二人で旅行とか行ってみない?」
「いいのか? そういったの苦手だと思ってたんだが」
「まあ、あんま得意じゃないけど……高山さんと一緒ならいいかなって。家でゆっくりするのもいいんだけど、たまにはさ?」
「そうか、なんだか嬉しいな。お前と旅行だなんて考えただけでワクワクする」
「……俺も」
素直に気持ちを伝えると、高山は目を細めてふわりと笑みを浮かべた。
それから互いのスケジュールを確認して、旅行の日取りや目的地を話し合う。侑人は胸を躍らせつつ、高山とともに過ごす特別な休日に思いを馳せるのだった。
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