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第5話 あと一歩の気持ち(4)
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高山はこちらの不安を払拭するかのように破顔し、額をこつんと合わせてくる。
「ゆっくりでいい、つってんだろ」
「うん……それから、見舞いに来てくれてありがとう」
「ああ。他に何か言うことは?」
いたずらっぽい口調で問われ、侑人は少し考えてから口を開く。
「まだ、一緒にいてほしい」
「泊まってく?」
「……ん」
気恥ずかしげに頷けば、「わかった」と言って高山が唇を寄せてきた。侑人はすかさず体を引いて、高山の頭を手で抑える。
「き、キスは駄目!」
「なんでだよ」
「風邪うつしたくねーしっ」
言うと、高山はムッと唇を引き結ばせた。それがなんだかおかしくて、侑人の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
そして、こんなときくらい素直になってもいいだろう――と、自ら身を寄せたのだった。
高山がシャワーを浴びている間、侑人は落ち着かぬ心地で横になっていた。
(一緒に寝泊まりするとかなかったし、なんか緊張する)
付き合いこそ長いものの、どんなに遅くたって自宅に帰っていたし、一夜をともにするなどもってのほかだった。自分から誘っておいてなんだが、どのような顔をしたらいいのかもわからない。
そうこう考えているうちに、高山がシャワーを終えて部屋に戻ってくる。
「シャワーありがとな。あと服も」
「ああ……うん」
Tシャツとスウェットパンツを着た高山は、普段よりラフな雰囲気で新鮮だった。髪はまだ濡れており、毛先から雫が滴っているのが見える。
(シャワー後の姿なんて、見慣れてるはずなのにっ)
目のやり場に困って視線を逸らすと、高山が微かに笑った気配がした。
「ん? どうかしたか」
「いや、べつに。……ふ、服のサイズ合わないなと思って」
その言葉自体は本当のことだ。身長もそうだが、肩幅や胸板の厚みがあまりに違いすぎる。下着もサイズ違いの新品を渡したけれど、窮屈なのではないかと勘ぐってしまう。
「そんなもん、寝るだけなんだからいいだろ。ほら、狭いんだから詰めろよ」
「はあ!?」
高山は肩にかけていたタオルでざっと髪を拭くと、当然のようにベッドに上がってきた。
ソファーはないが、侑人だって客用布団くらいは備えてある。それなのに、何故わざわざ同じベッドで寝る必要があるのか。強引に布団の中へ入ろうとする高山はすっかりその気だ。
「ちょ、他に布団あるから! そっちで寝ろよ!」
「いつ干したかもわかんねえのに寝られっかよ」
「狭い狭いっ、無理だって!」
「こうすりゃいいだろ」
と、高山は侑人の体を引き寄せて、腕の中に閉じ込めてしまった。そのまま布団を被るなり電気を消してしまう。
(う、嘘だろ)
暗闇に目が慣れてきて、間近にある男の顔がぼんやり見えるようになると、途端に心臓がうるさく鳴り始めた。
狭いシングルベッドの上で、鼻先が触れ合いそうな距離。おまけに体も密着していて、互いの足が絡まり合うような体勢になってしまっている。
「……ありえねえ。これで寝られるとでも思うのかよ」
「んー? 俺はいい気分で寝られそうだぜ?」
「人を抱き枕にすんなっ! つ、つーか……高山さんの当たってんだけど」
「不可抗力だ。好きな相手抱きしめてたら当然」
しれっと返されて、侑人は言葉に詰まった。
視線を上げれば、高山の整った顔立ちが目に入る。普段はあまり意識していないものの、こうして見ると男らしい色気を感じてなおさらドキドキとしてしまう。
「ゆっくりでいい、つってんだろ」
「うん……それから、見舞いに来てくれてありがとう」
「ああ。他に何か言うことは?」
いたずらっぽい口調で問われ、侑人は少し考えてから口を開く。
「まだ、一緒にいてほしい」
「泊まってく?」
「……ん」
気恥ずかしげに頷けば、「わかった」と言って高山が唇を寄せてきた。侑人はすかさず体を引いて、高山の頭を手で抑える。
「き、キスは駄目!」
「なんでだよ」
「風邪うつしたくねーしっ」
言うと、高山はムッと唇を引き結ばせた。それがなんだかおかしくて、侑人の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
そして、こんなときくらい素直になってもいいだろう――と、自ら身を寄せたのだった。
高山がシャワーを浴びている間、侑人は落ち着かぬ心地で横になっていた。
(一緒に寝泊まりするとかなかったし、なんか緊張する)
付き合いこそ長いものの、どんなに遅くたって自宅に帰っていたし、一夜をともにするなどもってのほかだった。自分から誘っておいてなんだが、どのような顔をしたらいいのかもわからない。
そうこう考えているうちに、高山がシャワーを終えて部屋に戻ってくる。
「シャワーありがとな。あと服も」
「ああ……うん」
Tシャツとスウェットパンツを着た高山は、普段よりラフな雰囲気で新鮮だった。髪はまだ濡れており、毛先から雫が滴っているのが見える。
(シャワー後の姿なんて、見慣れてるはずなのにっ)
目のやり場に困って視線を逸らすと、高山が微かに笑った気配がした。
「ん? どうかしたか」
「いや、べつに。……ふ、服のサイズ合わないなと思って」
その言葉自体は本当のことだ。身長もそうだが、肩幅や胸板の厚みがあまりに違いすぎる。下着もサイズ違いの新品を渡したけれど、窮屈なのではないかと勘ぐってしまう。
「そんなもん、寝るだけなんだからいいだろ。ほら、狭いんだから詰めろよ」
「はあ!?」
高山は肩にかけていたタオルでざっと髪を拭くと、当然のようにベッドに上がってきた。
ソファーはないが、侑人だって客用布団くらいは備えてある。それなのに、何故わざわざ同じベッドで寝る必要があるのか。強引に布団の中へ入ろうとする高山はすっかりその気だ。
「ちょ、他に布団あるから! そっちで寝ろよ!」
「いつ干したかもわかんねえのに寝られっかよ」
「狭い狭いっ、無理だって!」
「こうすりゃいいだろ」
と、高山は侑人の体を引き寄せて、腕の中に閉じ込めてしまった。そのまま布団を被るなり電気を消してしまう。
(う、嘘だろ)
暗闇に目が慣れてきて、間近にある男の顔がぼんやり見えるようになると、途端に心臓がうるさく鳴り始めた。
狭いシングルベッドの上で、鼻先が触れ合いそうな距離。おまけに体も密着していて、互いの足が絡まり合うような体勢になってしまっている。
「……ありえねえ。これで寝られるとでも思うのかよ」
「んー? 俺はいい気分で寝られそうだぜ?」
「人を抱き枕にすんなっ! つ、つーか……高山さんの当たってんだけど」
「不可抗力だ。好きな相手抱きしめてたら当然」
しれっと返されて、侑人は言葉に詰まった。
視線を上げれば、高山の整った顔立ちが目に入る。普段はあまり意識していないものの、こうして見ると男らしい色気を感じてなおさらドキドキとしてしまう。
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