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第2話 十年越しの初デート(5)
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そう思って目をつぶれば、唇が触れるよりも先に額同士がこつんとぶつかった。驚いて目を開けば、至近距離で視線が交わって心臓が飛び跳ねた。
「まあ、いいさ。これからじっくりわからせてやる」
言って、高山が席を外そうとする。身構えていた侑人は、肩透かしを食らった気分で固まった。
(今のはセックスになだれ込む流れだろ!?)
今までの経験上、てっきりそこまで考えていたというのに。ついぼんやりとしていたら、高山はしたり顔でこちらを見てきた。
「なに赤くなってんだよ。もしかして期待でもしたか?」
「うっせえよ!」
図星を突かれ、ソファーにあったクッションに顔を埋める。高山はフッと笑うなり、侑人の髪をかき回してきた。
「時間も時間だし、腹減ったろ? とりあえず飯食おうぜ」
時刻は正午を過ぎていた。釈然としないが、言われてみれば空腹感を感じる気がする。
「あー……でも、飯どうすんの? 外食くらいならしてもいいけど」
「せっかくだから俺が作るよ。食えないもんとかって特になかったよな?」
「う、うん。ないけど――作るなら、俺もなんか手伝おうか?」
「いや、お前はゆっくりしてろよ。テレビとか自由に見てていいからさ」
言って、キッチンの方へ向かう高山。
侑人は言われたとおりにテレビをつけてみる。が、なんとも落ち着かずに、「……やっぱ手伝う」と結局申し出たのだった。
それからしばらくして、テーブルの上には二人分の料理が並べられた。
カルボナーラをメインに、フランスパンのガーリックトースト、生ハムのサラダ。どれも美味しそうな見た目をしており、純粋に食欲がそそられるのを感じた。
さらには、高山が白ワインのボトルを持ち出してくる。
「この前、取引先から貰ったんだ。せっかくだから一緒に飲もうぜ」
「ちょ、昼間から酒飲むつもりかよ」
「たまの休日なんだからいいだろ?」
高山は慣れた手つきでコルク栓を抜くと、グラスから数センチ離して静かにワインを注いだ。ふわりと芳醇な香りが漂ってくる。
「そんじゃ、乾杯」
目の位置までグラスを持ち上げて高山が笑う。こちらも同じように応えて、ワインを口に含んだ。
「美味い――」
フルーティーな味わいと香りが鼻から抜けていく。ワインは辛口でしっかりとした酸味がありながらも、飲みやすい口当たりだ。
「ああ、なかなかいいな。料理にも合いそうだ」
言いつつ、高山は早速ガーリックトーストを手にしている。侑人も真似をして一口齧りついてみた。
「っ、うっま……!」
カリッという香ばしい音に続いて、口の中にガーリックバターの風味が広がる。ワインと合わせることでまた違った味わいになり、つまみにもちょうどいい病みつきになる一品だ。
「そいつはよかった。パスタの方はどうだ?」
「ん、こっちも美味い。カルボナーラとか、家で出来るもんなんだな」
もちろんのこと、メインとなるカルボナーラも絶品だった。卵とチーズの濃厚な味わいが舌の上でとろけ、そこに黒胡椒のアクセントが加わることで絶妙なバランスを生み出している。
どれもこれも本当に美味い――副菜である生ハムサラダも含め、感心せざるを得ない。つい手が止まらなくなる。
「そう言ってもらえると、こっちも作った甲斐があるってもんだ。前に比べて料理上手くなっただろ?」
高山がワインを注ぎながら得意げに笑った。素直に褒めすぎたかもしれない。
侑人は若干恥ずかしくなり、微妙に話題を逸らすことにした。
「その前に、ちゃんと自炊してたんだなって」
「そりゃ当然。お前は?」
「スーパーの弁当がほとんどで、あとは冷食とかレトルトで済ませてる」
「マジかよ、栄養偏りそうだな。そもそも飽きねえの?」
「男の一人暮らしなんてそんなもんだろ。俺も最初のうちは自炊してたけどさ」
「なるほどな。――なあ、俺と一緒に住めば、毎日こういった飯食わせてやれるぞ?」
「まあ、いいさ。これからじっくりわからせてやる」
言って、高山が席を外そうとする。身構えていた侑人は、肩透かしを食らった気分で固まった。
(今のはセックスになだれ込む流れだろ!?)
今までの経験上、てっきりそこまで考えていたというのに。ついぼんやりとしていたら、高山はしたり顔でこちらを見てきた。
「なに赤くなってんだよ。もしかして期待でもしたか?」
「うっせえよ!」
図星を突かれ、ソファーにあったクッションに顔を埋める。高山はフッと笑うなり、侑人の髪をかき回してきた。
「時間も時間だし、腹減ったろ? とりあえず飯食おうぜ」
時刻は正午を過ぎていた。釈然としないが、言われてみれば空腹感を感じる気がする。
「あー……でも、飯どうすんの? 外食くらいならしてもいいけど」
「せっかくだから俺が作るよ。食えないもんとかって特になかったよな?」
「う、うん。ないけど――作るなら、俺もなんか手伝おうか?」
「いや、お前はゆっくりしてろよ。テレビとか自由に見てていいからさ」
言って、キッチンの方へ向かう高山。
侑人は言われたとおりにテレビをつけてみる。が、なんとも落ち着かずに、「……やっぱ手伝う」と結局申し出たのだった。
それからしばらくして、テーブルの上には二人分の料理が並べられた。
カルボナーラをメインに、フランスパンのガーリックトースト、生ハムのサラダ。どれも美味しそうな見た目をしており、純粋に食欲がそそられるのを感じた。
さらには、高山が白ワインのボトルを持ち出してくる。
「この前、取引先から貰ったんだ。せっかくだから一緒に飲もうぜ」
「ちょ、昼間から酒飲むつもりかよ」
「たまの休日なんだからいいだろ?」
高山は慣れた手つきでコルク栓を抜くと、グラスから数センチ離して静かにワインを注いだ。ふわりと芳醇な香りが漂ってくる。
「そんじゃ、乾杯」
目の位置までグラスを持ち上げて高山が笑う。こちらも同じように応えて、ワインを口に含んだ。
「美味い――」
フルーティーな味わいと香りが鼻から抜けていく。ワインは辛口でしっかりとした酸味がありながらも、飲みやすい口当たりだ。
「ああ、なかなかいいな。料理にも合いそうだ」
言いつつ、高山は早速ガーリックトーストを手にしている。侑人も真似をして一口齧りついてみた。
「っ、うっま……!」
カリッという香ばしい音に続いて、口の中にガーリックバターの風味が広がる。ワインと合わせることでまた違った味わいになり、つまみにもちょうどいい病みつきになる一品だ。
「そいつはよかった。パスタの方はどうだ?」
「ん、こっちも美味い。カルボナーラとか、家で出来るもんなんだな」
もちろんのこと、メインとなるカルボナーラも絶品だった。卵とチーズの濃厚な味わいが舌の上でとろけ、そこに黒胡椒のアクセントが加わることで絶妙なバランスを生み出している。
どれもこれも本当に美味い――副菜である生ハムサラダも含め、感心せざるを得ない。つい手が止まらなくなる。
「そう言ってもらえると、こっちも作った甲斐があるってもんだ。前に比べて料理上手くなっただろ?」
高山がワインを注ぎながら得意げに笑った。素直に褒めすぎたかもしれない。
侑人は若干恥ずかしくなり、微妙に話題を逸らすことにした。
「その前に、ちゃんと自炊してたんだなって」
「そりゃ当然。お前は?」
「スーパーの弁当がほとんどで、あとは冷食とかレトルトで済ませてる」
「マジかよ、栄養偏りそうだな。そもそも飽きねえの?」
「男の一人暮らしなんてそんなもんだろ。俺も最初のうちは自炊してたけどさ」
「なるほどな。――なあ、俺と一緒に住めば、毎日こういった飯食わせてやれるぞ?」
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