7 / 116
第1話 俺と結婚するか?(6)
しおりを挟む
「ひっでえ反応。十年も一緒にいたってのに気づかなかったのかよ。人の好意とか普通わかるもんだろ?」
「わっ、わかるか! 俺がそういうの疎いって知ってんだろうがっ」
「いや……瀬名の鈍感っぷりも、まさかここまでとはなあ」
呆れたようにため息をつかれ、侑人はぐっと唇を引き結ぶ。心外だと言いたいが、自覚があるだけに反論できない。
「っ、今まで隠してたのかよ」
「言葉にしなかっただけだろ?」
「……本気で、俺のこと」
「ああ、本気。出会ったときからずっと好きだった」
迷いのない返事に、侑人はますます混乱した。冗談で言っているのではないとわかった途端、心臓がドキドキと騒がしくなる。
今までずっとセフレだと思っていた相手から告白されるなど、予想だにしなかった展開だ。体の相性がいいから惰性で関係を続けているだけ。少なくとも侑人はそう思っていたし、高山も同じだとばかり思っていたというのに。
「そんなの、いきなり言われても困るって」
侑人は目を逸らしながら言った。
もちろん高山のことは嫌いではないが、一度もそういった目で見たことがなかっただけに困り果ててしまう。正直なところ、考えられないというのが答えだろう。
ただ、セックスのときとは異なる高揚感が頭を悩ませていた。先ほどから顔が熱く、胸は高鳴るばかりで、こんな感覚はいつぶりかもわからない。
(くそ、なんだこれ……)
これ以上どうしたらいいかわからずにいたら、高山の顔が近づいてきてギクリとした。高山は間近で視線を合わせるなり、目を細めて笑う。
「無理して相手探すくらいなら、いっそのこと俺にしとけよ」
「か、簡単に言うなよ! 確かにあんたのことは気に入ってるけど、あくまでセフレとしてであって、恋愛感情とかじゃないっ」
「まあまあ、今すぐ返事しろとは言わないからじっくり考えろって。ただ、俺は瀬名となら、本当にそういった関係になってもいいと思ってるぜ」
「だーかーらあっ、いきなり結婚とか言われても困るんだっての! 大体、もっと段階踏んでから言うもんだろ!」
「それもそうか。じゃあ、まずは試しに付き合うっつーことでどうだ?」
「軽っ!?」
思わず突っ込むと、高山は少しだけ不機嫌な表情になった。
「軽いわけあるかよ。十年だぞ、十年? ――その間ずっと、俺はお前のことが好きだったんだからな」
言って、高山が侑人の手を掴んでくる。
触れ合った箇所がやけに熱く感じられるのは、きっと気のせいではない。
侑人がどぎまぎとしているうちにも、高山はその手を引き寄せて恭しく口づけた。
「俺と付き合えよ、侑人」
有無を言わせぬ口調で囁かれ、息が詰まりそうになる。
こんな気取った真似が似合う男もそういないだろう。不覚にもときめいてしまったのが腹立たしい。
「顔、真っ赤。……案外こういったのがお好みか?」
高山が鼻で笑う。侑人は慌てて手を振り払うと、キッときつく睨みつけた。
「うっ、ううるさい! バカにしやがって!」
「バカになんかしてねえって。これでもお前のことは、いつも可愛いと思ってるんだぜ?」
「っ!」
甘ったるい雰囲気に頭がくらくらとしてくるようだ。侑人はたまらずベッドから下りて、バスローブを手に取る。
「おい、どこ行くんだよ」
「風呂! シャワー浴びて帰る!」
ぴしゃりと言い放ち、逃げ込むように浴室へと入った。高山の姿が見えなくなったところで、侑人はその場にへたり込む。
もはや胸の高鳴りは苦しいほどで、顔どころか全身が熱かった。
「くそっ」
上手く高山に丸め込まれているようで癪だが、満更でもない自分がいることに気づき、頭を抱えたくなる。
(……ああもう、どうすればいいんだよ)
仮にこのまま付き合うとして、何がどうなるというのか。考えれば考えるほど思考は泥沼にはまっていく一方だった。
「わっ、わかるか! 俺がそういうの疎いって知ってんだろうがっ」
「いや……瀬名の鈍感っぷりも、まさかここまでとはなあ」
呆れたようにため息をつかれ、侑人はぐっと唇を引き結ぶ。心外だと言いたいが、自覚があるだけに反論できない。
「っ、今まで隠してたのかよ」
「言葉にしなかっただけだろ?」
「……本気で、俺のこと」
「ああ、本気。出会ったときからずっと好きだった」
迷いのない返事に、侑人はますます混乱した。冗談で言っているのではないとわかった途端、心臓がドキドキと騒がしくなる。
今までずっとセフレだと思っていた相手から告白されるなど、予想だにしなかった展開だ。体の相性がいいから惰性で関係を続けているだけ。少なくとも侑人はそう思っていたし、高山も同じだとばかり思っていたというのに。
「そんなの、いきなり言われても困るって」
侑人は目を逸らしながら言った。
もちろん高山のことは嫌いではないが、一度もそういった目で見たことがなかっただけに困り果ててしまう。正直なところ、考えられないというのが答えだろう。
ただ、セックスのときとは異なる高揚感が頭を悩ませていた。先ほどから顔が熱く、胸は高鳴るばかりで、こんな感覚はいつぶりかもわからない。
(くそ、なんだこれ……)
これ以上どうしたらいいかわからずにいたら、高山の顔が近づいてきてギクリとした。高山は間近で視線を合わせるなり、目を細めて笑う。
「無理して相手探すくらいなら、いっそのこと俺にしとけよ」
「か、簡単に言うなよ! 確かにあんたのことは気に入ってるけど、あくまでセフレとしてであって、恋愛感情とかじゃないっ」
「まあまあ、今すぐ返事しろとは言わないからじっくり考えろって。ただ、俺は瀬名となら、本当にそういった関係になってもいいと思ってるぜ」
「だーかーらあっ、いきなり結婚とか言われても困るんだっての! 大体、もっと段階踏んでから言うもんだろ!」
「それもそうか。じゃあ、まずは試しに付き合うっつーことでどうだ?」
「軽っ!?」
思わず突っ込むと、高山は少しだけ不機嫌な表情になった。
「軽いわけあるかよ。十年だぞ、十年? ――その間ずっと、俺はお前のことが好きだったんだからな」
言って、高山が侑人の手を掴んでくる。
触れ合った箇所がやけに熱く感じられるのは、きっと気のせいではない。
侑人がどぎまぎとしているうちにも、高山はその手を引き寄せて恭しく口づけた。
「俺と付き合えよ、侑人」
有無を言わせぬ口調で囁かれ、息が詰まりそうになる。
こんな気取った真似が似合う男もそういないだろう。不覚にもときめいてしまったのが腹立たしい。
「顔、真っ赤。……案外こういったのがお好みか?」
高山が鼻で笑う。侑人は慌てて手を振り払うと、キッときつく睨みつけた。
「うっ、ううるさい! バカにしやがって!」
「バカになんかしてねえって。これでもお前のことは、いつも可愛いと思ってるんだぜ?」
「っ!」
甘ったるい雰囲気に頭がくらくらとしてくるようだ。侑人はたまらずベッドから下りて、バスローブを手に取る。
「おい、どこ行くんだよ」
「風呂! シャワー浴びて帰る!」
ぴしゃりと言い放ち、逃げ込むように浴室へと入った。高山の姿が見えなくなったところで、侑人はその場にへたり込む。
もはや胸の高鳴りは苦しいほどで、顔どころか全身が熱かった。
「くそっ」
上手く高山に丸め込まれているようで癪だが、満更でもない自分がいることに気づき、頭を抱えたくなる。
(……ああもう、どうすればいいんだよ)
仮にこのまま付き合うとして、何がどうなるというのか。考えれば考えるほど思考は泥沼にはまっていく一方だった。
110
お気に入りに追加
649
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

平凡な男子高校生がイケメンに愛される日々、フェロモンって存在するのか?
mamaマリナ
BL
どこにでもいるような平凡な男子高校生の俺だか、何故か男に好かれやすい。あることをきっかけで知り合った、イケメンエリートサラリーマンとの恋模様。
俺は、ノーマルなはずだったのに。
イケメン(エリートサラリーマン)×平凡(男子高校生)

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。


ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる